インド映画夜話

Kumbalangi Nights 2019年 135分
主演 サウビン・シャーヒル & シェイン・ニガム & アンナ・ベン他
監督 マドゥ・C・ナラヤナン
"愛と、平和と…"




 ケーララ州コーチ近郊の川辺の村クンバランギ。
 亡き父親追悼のために村に帰ってきた兄弟たちだったが、早速長男シャジと異母弟ボービの喧嘩が始まり、末っ子の学生フラーンキ共々村人たちは呆れ顔。翌日からフラーンキは、2人をほっといて仲の良い異父兄ボーニと出かけていってしまう。

 その後、友人プラサントの所で暇を潰していたボービだったが、学生時代の後輩ベービモールが姉シンミと共にガイド補助の仕事を依頼して来て、かつての恋が再熱。
 ぎこちなくも2人の想いは通じあい両家への挨拶をしようと約束するも、ボービの家は近所から蔑まれる川辺のあばら家。とりあえず一家の長であるシャジと共にベービモールの義兄シャンミ・スリーニーヴァサンが勤める街中の床屋へ出向いたボービだったが、シャジの取りなしも制され「まず、無職の弟さんを仕事に就かせるべきだ」と兄弟の貧困を持ち出され追い返されてしまう。
 貧乏な家庭事情を弟たちに責められたと思ったシャジは、再びボービと兄弟喧嘩を起こしてしまい…!!


挿入歌 Cherathukal (灯火を残しておきましょう)


 助監督出身のマドゥ・C・ナラヤナンの、監督デビュー作となるマラヤーラム語(*1)映画。
 その物語は、脚本担当のシャヤム・プシュカランの実体験をもとに構成されているとか。
 インドと同日公開で、アラブ、クウェートでも公開。日本では、2019年にCELLULPID Japan主催で英語字幕上映されている。

 風光明媚なコーチ近郊の景色を背景に、微妙に複雑な4兄弟の家族としての結びつきと、彼らを蔑む一般人代表的な顔をするシャンミとの対立具合を描く家族劇。

 被差別側の貧乏なキリスト教徒として生まれた4兄弟は、長男シャジの父親と次男ボーニの母親が再婚夫婦で、2人から三男ボービと四男フラーンキが生まれている。川辺のゴミ捨て場同然の土地に建てた家はレンガ造りとは言え建築途中のままで部屋の仕切りも不完全なまま。父親はすでに他界していて、母親は教会の慈善活動団体に入ってほぼ家族と縁を切ってる状態。長男・三男は定職に就けないままその日暮らしの生活で、聾唖(?)な次男は工場勤務。四男は進学して学業で身を立てようとしていると言うバラバラな家族。4兄弟の価値観もそれぞれで対立していて、長男と三男はすぐ喧嘩するし、次男と四男は仲がいいものの2人のことには干渉しない。そんな一見仲の悪い兄弟の喧嘩は、それでもどこか滑稽に描かれていて、本音とは逆の言葉しか出てこない関係ながら、三男の婚約騒動が持ち上がるとなんだかんだで兄弟のよしみで協力体制を作り上げる様が微笑ましく、かつ物悲しい。

 その兄弟と対立する三男の恋人ベービモールの義兄シャンミの徹底した父権主義的思想・家族を支配しなければ気が済まない高圧的姿勢は、4兄弟のそれぞれの家族観と常に対立していく構造となっていく。
 そのシャンミと結婚したシンミ(ベービモールの姉)が、どんな経緯で結婚する仲になったのかは全く描かれていないけれど、牧歌的でひなびた人間関係ばかりの村の様子全てを拒否して、徹底的に周囲を支配下に置いて会話の主導権を保持しようとするシャンミの態度が、最終的には家族にも牙をむくヒンドゥー教徒の保守性の特徴として描かれているように見えてくるのも必見(*2)。

 監督を務めたマドゥ・C・ナラヤナンは、1977年ケーララ州パラッカド県ショランアー生まれ。
 広告代理店勤務を経て、09年のマラヤーラム語映画「Daddy Cool」で助監督として映画界入り。12年の「22 Female Kottayam」あたりから監督補佐として活躍し、本作で監督デビュー。様々な映画賞を獲得して一躍注目される映画人となった。

 長男シャジを演じるのは、「ナイジェリアのスーダンさん(Sudani from Nigeria)」などで活躍する助監督出身の男優サウビン・シャーヒル。
 次男ボーニを演じるのは、1988年ケーララ州コーチ生まれのシュリーナート・バーシ。ラジオDJやVJで活躍する中、11年の「Pranayam(愛)」で男優デビューし、男優兼ミュージシャンとして活躍中。
 三男ボービ役は、1995年ケーララ州コーチ生まれのシェイン・ニガム。モノマネ芸人兼男優のアビを父親として育ち、工学を修了。子役で映画出演したのち、13年の「Annayum Rasoolum(アンナとラソール)」で男優デビュー。16年の「Kismath(運命)」で主演デビューを果たして数々の新人男優賞を獲得。以降もマラヤーラム語映画界とTV界で活躍中。
 四男フラーンキ役は、2002年ケーララ州エルナクラム県ティルヴァンクラム生まれのマシュー・トーマス。エンジニアの父と数学教師の母の間に生まれ、一時期バーレーンにも住んでいたと言う。インド帰国後、通っていた学校主催オーディションで本作に抜擢されて映画デビュー。同年公開作「Thanneer Mathan Dinangal(西瓜な日々)」で主演デビューし、どちらも大ヒット。以降、マラヤーラム語映画界で活躍中。
 ヒロインのベービモールを演じるのは、脚本家ベニィ・P・ナヤランバラムの娘アンナ・ベン。コーチの大学でファッションとアパレルデザインを修了。本作で映画&主演デビューし、数々の女優賞を獲得。2作目の主演作である同年公開作「Helen」共々高評価を得て、以降もマラヤーラム語映画界で活躍中。

 映画前半は、とにかくひなびた観光地であるクンバランギの情景の美しさ、そこで生活する人々ののどかさの1つ1つが美しく、実際にクンバランギで1年間生活しながら1つ1つのシーンを組み上げていったと言うナラヤナン監督の緻密さが画面全体から現れてくるよう。
 そんな牧歌的な田舎の情景にあって、異教徒同士の婚約騒ぎで浮かび上がってくるのが「家族の経済状態」と「双方の家族観の乖離具合」であり、映画後半にそれを解決するものが「人それぞれの協力」にあること、逆にそれを妨げるものは常に「強調される家父長制(血縁関係でなくとも)」であると断言されている所が、大ヒットした要因なのでしょか。
 役者それぞれの、ぎこちない人間関係に怯える演技の美しさ、それを強調するようなクンバランギの自然の美しさ、そこで暮らす人々の所作の麗しさが、静かに、それでも力強くアピールされている上品な一作でありましょうか。

挿入歌 Uyiril Thodum (あなたは、私の魂に触れる指先)


受賞歴
2019 IFFK (International Film Festival of Keraka) NETPAC(アジア映画コンペティション選抜作品)賞
2020 Aravindan Puraskaram 監督デビュー賞(マドゥ・C・ナラヤナン)
2020 Asianet Film Awards 審査員選出特別男優賞(サウビン・シャーヒル)・助演女優賞(グレイス・アントニー)・ニュー・フェイス賞(アンナ・ベン)
2020 CPC Cine Awards 作品賞・脚本賞(シャヤム・プシュカラン)・主演女優賞(アンナ・ベン)・BGM賞(スシン・シャヤム)・オリジナル歌曲賞(Cherathukal / スシン・シャヤム&アンワル・アリ&シターラー・クリシュナクマール)・編集賞(サイジュ・スリーダーラン)・プロダクションデザイン賞(ジョティシュ・シャンカル)
2020 Gollapudi Srinivas Natinal Award 監督デビュー賞(マドゥ・C・ナラヤナン)
2020 Kerala State Film Awards 美的人気作品賞・演技賞(ファハード・ファーシル)・音楽監督賞(スシン・シャヤム)・美術監督賞(ジョティーシュ・シャンカル)
2020 Padmarajan Award 監督賞(マドゥ・C・ナラヤナン)
2020 Vanitha Awards 作品賞・脚本賞(シャヤム・プシュカラン)・助演男優賞(サウビン・シャーヒル)・男優デビュー賞(マシュー・トーマス)・女優デビュー賞(アンナ・ベン)・スター・ペア賞(シェイン・ニガム&アンナ・ベン)
2021 SIIMA (South Indian International Movie Awards) マラヤーラム語映画女優デビュー賞(アンナ・ベン)・マラヤーラム語映画音楽監督賞(スシン・シャヤム)


「KN」を一言で斬る!
・家長として家を支配しようとするシャンミ役のファハード・ファーシルの、ストーカーかって言う目線のキモさがもう…。

2022.6.10.

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*1 南インド ケーララ州の公用語。
*2 劇中では、シャンミ自身の精神病として決着してたけど。