インド映画夜話

帝王カバーリ (Kabali) 2016年 143分(元は152分)
主演 ラジニカーント
監督/脚本 パ・ランジット
"頼むぜ…大将!"




 25年の刑期を終えて、マレーシアのヒンドゥー寺院虐殺事件の犯人とされたタミル人移民のドン カバーリ(本名カバーリスワラン)が釈放された。
 地元クアラルンプールのギャングたちの抗争激化を懸念する警察をよそに、カバーリはさっそく部下たちと違法ビジネスで潤うギャングたちを訪問し、カバーリの再来を宣言。マレーシアにおけるタミル人移民の地位向上と違法ビジネスの撤廃、マレーシア裏社会の綱紀粛正に乗り出すのだった!!

 かつて、中国人移民とタミル人移民の対立の中で、タミル人のために立ち上がった指導者タミルネサンの意志を受け継ぎ、違法行為の根絶を目指して組織をまとめあげたカバーリは、移民たちの賞賛とともに多くの敵を作り、同じタミル人ギャングの標的となって襲撃された。
 あの虐殺事件の日、ヴィーラ率いる反カバーリ派の裏切りによって殺された妊娠中の妻クムダ(本名クムダヴァッリ)の無念も晴れぬまま、計略によって全ての罪を着せられたカバーリだったが、再び動き出した彼を前に「クムダは、あの時まだ生きていた」と言う証言が…!!

挿入歌 Ulagam Oruvanukka (世界は限られた者たちのものか [はたまた大衆のものか])

 2014年の「リンガー(Lingaa)」以来2年ぶりとなるラジニカーント映画であり、パ・ランジット3作目の監督作となるタミル語(*1)+英語(+一部中国語&フランス語も入る)映画。
 テルグ語(*2)吹替版の他、ヒンディー語(*3)吹替版も公開され、国外ではインドに先駆けてアラブとクウェートで、インドと同時公開でマレーシア(*4)、米国、フランス、オーストラリア、カナダ、イギリス、アイルランドでも公開。日本では、2017年のSIFFJ(南インド映画祭)にてインターナショナル版が上映。
 インターナショナル版とは別に、マレーシア公開版とマレー語編集版でも所々変更が加えられているバージョンがいくつかあるそう。

 クアラルンプールの裏社会を舞台に、複数のギャングたちの頂点に立つ男カバーリの闘争の歴史を、タミル人移民のマレーシアでの地位向上運動の歴史や、ギャング団の集合と離散の力関係の推移に乗せて描いていくド直球ギャング抗争もの。
 その裏で、カバーリが目指したものがなんであったのか、彼の見据える社会のありかたを描いていくさまは、これまでのラジニ映画にも随所に見られた濃密さではあるものの、すでに老成したヒーローであるカバーリを表現するためか、ラジニ自身の身体の動きや踊りがゆったりしていた所に「ああ、時代は確実に動いてるなあ」と感じざるを得ない。
 そして、物語もまたタミル移民たちを率いるリーダーとしてのカバーリの老年期を描きながら、カバーリに成り代わろうとする野心を持つ若手ギャングや、マレーシアの未来を担う若者たちの迷走っぷりを見せていき、カバーリが安心して次世代を任せるに足る次のリーダーの登場を待っているかのような姿を描いていく。
 若い頃からマレーシアの移民たちの地位向上に奔走して来たカバーリが、「そう簡単に引退もしないし、自分に成り代わろうとする連中に席を明け渡す気はないゼ」とでも言ってるような暴れっぷりは、老人特有の年下世代への説教臭さを見せながら、ラジニ本人のタミル社会の次世代への期待と自身が壁になってみせようとでもしてる先輩としての厚みを見せつける。そうした、次世代への様々な思いを表現したのが、あのラストだと思うと、まあタミル映画界もこれからが大変だぜって感じではある。

 タミル語映画界の新世代監督と名高い本作監督パ・ランジットは、タミル・ナードゥ州アヴァディ近郊のカララパッカム村生まれ。
 チェンナイの国立芸術大学(*5)に進学して、在学中から数々の映画祭を通して世界中の映画に接していく。06年の「Thagapansamy」の助監督で映画界入りして、映画監督兼プロデューサーのN・リングサミーや役者兼監督兼プロデューサー兼歌手兼脚本家兼作詞家のヴェンカト・プラーブに師事(*6)。
 12年に映画プロデューサーC・V・クマールの協力を得て、初監督&脚本作「Attakathi(段ボール製ナイフ)」を公開して高評価を獲得。2本目の監督作となる14年公開の「Madras(マドラス)」でSIIMA監督賞を受賞して、本作が3本目の監督作となる。

 映画後半にカバーリと敵対する中華系ギャングのボス トニー・リーを演じるのは、台湾・香港映画で活躍し、日本公開作にも多数出演しているウィンストン・チャオ。93年のアン・リー監督作「ウェディング・バンケット(喜宴)」でデビューし、本作がタミル語映画デビューとなる。
 カバーリの妻クムダ役には、1985年マハラーシュトラ州プネー生まれのラーディカー・アプテー。父親は有名なマラーティー人の神経外科医チャルダット・アプテー。地元プネーの大学で経済数学を修了。学生時代から8年間カタックを修行していたと言う。大学時代に演劇で活躍してた事がきっかけとなり、05年のヒンディー語映画「Vaah! Life Ho Toh Aisi! (ああ、人生とはまさにこんなもの!)」の端役で映画デビュー。その後、09年公開のベンガル語映画「Antaheen (終わりのない待ち時間)」で主演デビューし、同年のマラーティー語映画「Samaantar(パラレル)」にも出演。その後、10年のヒンディー+テルグ語映画「Rakht Charitra I(血塗られた歴史:第1部)」「Rakht Charitra II(血塗られた歴史:第2部)」でテルグ語映画に、12年のタミル+テルグ語映画「Dhoni」でタミル語映画にもデビュー。本作は、タミル語映画としては4本目の出演作。11年にロンドンにてコンテンポラリー・ダンスを学び、そこで出会ったミュージシャン ベネディクト・タイラーと13年に結婚したそう。
 カバーリを狙うよう雇われた女暗殺者役に、1989年タミル・ナードゥ州タンジャヴル生まれの女優兼モデル ダンシカー(*7)。06年のタミル語映画「Manathodu Mazhaikalam」にノンクレジット出演後、09年の「Peranmai」で本格的に映画デビュー。本作の後、17年には「Kitna」でマラヤーラム語&テルグ語&カンナダ語映画にもデビューしている。本作は、「Peranmai」から数えて8本目の出演作。

 いまいちギャング抗争ものが苦手なのは、冒頭から多数の登場人物の人間関係・力関係を頭に叩き込んでおかないと行けない性急さと、成金的ダンディズムの濃密さがなかなか馴染めない自分だからなんだけど、中盤のタミルを舞台としたクムダ捜索編は色々サスペンスとしても家族ドラマとしても盛り上がって注目所。
 ボンディシェリ連邦直轄領(*8)在住のフランス人が、インドで生活しながらヨーロッパ的生活スタイルを思いっきり維持してる姿に「へえ〜」と驚く感じも。マレーシアの移民たちとの文化背景維持ともシンクロしている具合が興味深い。
 また、ラストバトルの舞台となるクアラルンプールのツインタワーを展望するCG臭いビルが、なんとなくリンガっぽい形をしてるのも色んな意味を探りたくなるけど、マレーシアにおけるタミル人移民と中国人移民の対立具合と言うのも、今まであまり日の目を見ない話題でもあるあたり、世界の広さと過酷さを見るようではある。
 ああ、それにしても100歳のお祝いを上げる中華系移民の重要人物アン・リー(!!)に贈るプレゼントが、"長寿の神様"と言って関羽像(?)ってのはナゼナノー!!!

挿入歌 Veera Thurandhara (勇敢なる先駆者)

受賞歴
2017 Ananda Vikatan Cinema Awards 主演男優賞(ラジニカーント)・音楽監督賞(サントーシュ・ナラヤナン)・男性プレイバックシンガー賞(プラディープ・クマール / Maya Nadhi & Vaanam Paarthen)・衣装デザイン賞(アヌー・ヴァルダーン & ニーランジャニー・アガティヤン)・人気賞
2017 Edison Awards 作品賞・監督賞・助演男優賞(ジョン・ヴィジャイ)・BGM賞(サントーシュ・ナラヤナン)・作詞賞(アルンラージャ・カマラージ / Neruppu Da)
2017 Filmfare Awards South タミル語映画助演女優賞(ダンシカー)・タミル語映画女性プレイバックシンガー賞(シュウェータ・モーハン / Maya Nadhi)
2017 IIFA Utsavam タミル語映画作詞賞(アルンラージャ・カマラージ / Neruppu Da)
2017 Norway Tamil Film Festival Awards 作詞賞(ウマ・デヴィ / Maya Nadhi)・タミル語映画男性プレイバックシンガー賞(プラディープ・クマール / Maya Nadhi)


「帝王カバーリ」を一言で斬る!
・冒頭のカバーリが収監されていたマレーシアの刑務所、『闇の帝王ドン(Don 2)』でシャールク演じるドンが収監されてた所ジャマイカ!!

2017.9.15.

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*1 南インド タミル・ナードゥ州の公用語。
*2 南インド アーンドラ・プラデーシュ州とテランガーナー州の公用語。
*3 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。
*4 インド映画界初の正式マレーシア版製作映画となったそう。
*5 別名マドラス芸術大学。
*6 同年にヴェンカト・プラーブのマレーシアで販売されるアルバム制作にも参加している。
*7 またはサイ・ダンシカー。
*8 タミル語発音的にはプドゥッチェーリ。元フランス領インドだった地域群。