インド映画夜話

女神は二度微笑む (Kahaani) 2012年 122分
主演 ヴィディヤー・バーラン & パランブラタ・チャットーパーディヤー
監督/製作/脚本/原案 スジョイ・ゴーシュ
"これはある女性の物語…存在しない男の物語…それは…不可解な物語"






 100人以上が犠牲となったコルカタ(旧カルカッタ)地下鉄毒ガステロから2年。
 コルカタ国際空港に降り立つ在英インド人プログラマーの妊婦ヴィディヤー・ヴァークチーは、1ヶ月前にコルカタ出張に行って2週間前から消息不明になった夫アルナブを探していた。

 カーリガート警察で、アルナブ捜索担当になった新米警官ラーナー(本名サッティョキー・ラーナー・シンハー)と共に、夫の宿泊していた安宿や職場に向かうヴィディヤーだったが、どこも「そんな人は知らない」と断言。かつて聞いたコルカタ郊外の夫の親戚の家と、夫が通っていた小学校に出向いても、彼を知る人やその証拠は一切存在しなかった!
 その翌日、夫が出張していた国立データセンターの人事部マネージャー アグネス・ディメーロから「アルナブの写真が、2年前にセンターに勤務していたミラン・ダームジーに似ている」事を知らされるヴィディヤーだったが、センターの管理データは、肝心のミランのデータが消去されていると言う…
 …その夜、アグネスは突然何者かに射殺されて…!


プロモ映像 Piya Tu Kahe Rootha Re



 原題の意味は、ヒンディー語で「物語」。
 最近、演技派女優としてボリウッドで大活躍するヴィディヤー・バーランが、身重の身で失踪した夫を捜そうとする妊婦役を演じたサスペンスの傑作。
 2014年には、テルグ語(*1)版リメイク作と、そのタミル語(*2)吹替版も作られた。
 日本では、2012年アジアフォーカス福岡国際映画祭にて「カハーニー/物語」のタイトルで上映。そして2015年、ついに「女神は二度微笑む」のタイトルで一般公開! にいがた国際映画祭でも上映された。
 
 インド三大祭りの1つドゥルガー・プージャー(*3)に湧く狂乱のコルカタを舞台に、二転三転していく奇妙な事件に振り回される本格サスペンス・スリラーの傑作。
 ラーナーに「コルカタでは、人の名前には愛称名と公称名、2つの名前があるんです」と言われて「面白いのね。同じ人間に2つ名前があるなんて。2つの自我があるみたい」と笑うヴィディヤーの笑顔が、ドゥルガー・プージャーと言う舞台と共に物語的・映画的に意味を持ち始める脚本の妙は、まさに爽快! なにからなにまで無駄のない物語構造、画造り、編集の妙技はまさに傑作。映画って、こういう事が出来るからこそ面白いのよスゴいのよ!!!! これは本当に、絶対見ておきたい傑作だゼェェェ!!!!!

 主役ヴィディヤーを演じるヴィディヤー・バーランは、今や推しも推されぬボリウッドを代表する演技派トップ女優。
 南インド ケーララ州の政治家の家出身で、ムンバイ郊外に移り住んでから役者としての活動を始め、16才でTVドラマ「Hum Paanch(我ら5人)」の端役でデビュー。大学卒業後本格的に映画女優を志すも、数々の契約不履行に遭いなかなか映画デビューできない中、2003年ついにベンガル語映画「Bhalo Theko(注意せよ)」で映画&主演デビュー。05年にはヒンディー語映画「Parineeta(夫人)」でフィルムフェア新人女優賞を獲得。翌06年に主演したラージクマール・ヒラーニー監督作「Lage Raho Munna Bhai(やっちまいな、ムンナー兄貴)」が大ヒットし、以後の出演映画数を飛躍的に伸ばした。09年作「Paa(父さん)」でフィルムフェア主演女優賞を、翌10年には「Ishqiya(色欲)」でフィルムフェア批評家選出パフォーマンス賞を、さらにその翌11年は「The Dirty Picture(汚れた映画)」でフィルムフェア主演女優賞と共にナショナル・フィルム・アワードの主演女優賞をも獲得。本作はこの翌年公開作で、この年にUTVピクチャーズCEOのシッダールト・ローイ・カプールと結婚している。

 ラーナー役のパランブラタ・チャットーパーディヤーは、コルカタ出身で、ベンガル語映画界(*4)とTV界で活躍している男優。ベンガル語映画界の脚本家兼映画監督のリトウィク・ガタクの孫でもある。03年にベンガル語映画「Bombaiyer Bombete」「Hemanter Pakhi(秋の鳥)」、さらにヴィディヤーの映画デビュー作となる「Bhalo Theko(注意せよ)」の3本で映画デビュー。11年には「Jiyo Kaka」で監督デビューも果たしている。
 ちなみに、叙事詩マハーバーラタの主人公アルジュナの御者に由来すると言う名前サッティョキーと言う名前なんですが、アルジュナの御者と言えばクリシュナ神の事なんだけど、それってつまり…?(*5)

 監督のスジョイ・ゴーシュもコルカタ出身。英国マンチェスター大学卒業後、ロイター通信の南アジア部門代表として1999年まで活躍し、その後03年にヒンディー語映画「Jhankaar Beats」で映画監督デビューして本作が監督作4本目(*6)。この後13年には、ベンガル語映画「Satyanweshi」で主演デビューもしてるそうな。

 舞台となるコルカタはインド北東部は西ベンガル州の州都。
 インドの秋祭りの中でも、特にベンガル地方で盛大に催されるドゥルガー・プージャーは、アスヴィナ月(9〜10月頃)の6〜10日の間行なわれる。善が悪に勝利した日を祝う祭りで、その由来としてヒンドゥー神話はこんな話を伝える。
 「如何なる男にも負けない」力を持つ阿修羅王マヒシャースラによって天界から追放させられた神々が、その怒りから阿修羅を滅ぼす女神ドゥルガーを誕生させた。この女神がドゥン(神虎)に乗って水牛に化けたマヒシャースラ率いる阿修羅軍を滅亡させた日が、この祭りの始まりとされる。
 このお祭り期間は、東北インド〜ネパール〜ブータンにかけての地域では、一族が集まる里帰り期間の収穫祭となっているとか。

 お話は、そのドゥルガー・プージャーせまるコルカタのさまざまな日常を切り取りながら、不可解な事件に次々と翻弄される登場人物たちを追っていくサスペンススリラー。
 最近ボリウッドにも多くの影響を与えてきたベンガル語映画界の力を見せつけるかのような画面構成で、蒸し暑そうなコルカタと言う街の表と裏の撮り方も見事ながら、一連の動作をぶつ切りカットでつなげる「勝手にしやがれ」的なフィルムつなぎや、ラ−ス・フォン・トリアー映画のような手ぶれ撮影演出が、余計に不安感を煽る効果にもなってスンバラし。登場人物それぞれの所作や1つ1つのエピソード、意味ありげな台詞や場面、それぞれのカットの意味付けが1つの方向へ収束していくラストの展開はもう!!!!!
 余計なこと言わないから、是非大画面でこれを堪能しろ! と激お勧めしちゃいそうになりますわ(*7)。

 最後に1つ。
 冒頭に出てくる地下鉄毒ガステロは、史実ではなく架空の事件だと言うけど、日本人ならすぐに地下鉄サリン事件を思い出してしまうのは若干注意事項か。まあ、それがネタ元なのかはわからないけど、そこまで世界的に衝撃的なテロ事件だったと言う事なんですかね…。
 サリン事件当時、インド滞在中だった漫画家ねこぢるのエッセイマンガ「ぢるぢる旅行記」では、地下鉄サリン事件が大々的にインド(作者が滞在してたのはバラナシ?)で報道されてたって描いてあったもんなあ。


プロモ映像 Aami Shotti Bolchi

*「お名前は?」
「ヴィディヤー・ヴァークチー」
「ビッダー・バークチ…っと」
「あ、いえいえ。"ヴィ"ディヤー"です。ヴィはV。Bでなくて」
「ハハハ。ここカルカッタでは、VとBの区別はないんですよ。で、旦那さんの名前は?」
「アルナブ…」
「(名字は)バークチですね?」
「……」




受賞歴
2013 IIFAインド国際映画批評家協会賞 主演女優賞・編集賞(ナムラター・ラーオ)
2013 Zee Cine Awards 批評家選出作品賞・批評家選出監督賞・批評家選出主演女優賞・原案賞(スジョイ・ゴーシュ/アドヴァイタ・カーラ)・編集賞(ナムラター・ラーオ)
2013 Color Screen Awards 主演女優賞・原案賞(スジョイ・ゴーシュ/アドヴァイタ・カーラ)・音響デザイン賞(サンジャイ・マウリャ/アルウィン・レーゴー)・編集賞(ナムラター・ラーオ)・美術デザイン賞(カウシキー・ダス/スブラター・バーリーク)
2013 Filmfare Awards 主演女優賞・監督賞・音響デザイン賞(サンジャイ・マウリャ/アルウィン・レーゴー)・編集賞(ナムラター・ラーオ)・撮影賞(セトゥー)
2013 Stardust Awards 注目映画プロデューサー賞(スジョイ・ゴーシュ/クシャール・カンティラル・ガーダー)・アクション/スリラー女優賞(ヴィディヤー)
2013 Apsara Film & Television Producers Guild Award 監督賞(「Barfi!」のアヌラーグ・バスと共に)・主演女優賞・脚本賞・音響デザイン賞(「Shanghai」のプリタムと共に)
2013 National Film Awards オリジナル脚本賞・編集賞(ナムラター・ラーオ)・特別陪審員賞(ナワーズッディン・シィッディキー)
2013 The Time of India Film Awards 原案賞・脚本賞・編集賞(ナムラター・ラーオ)
BIG Star Entertainment Awards アクション/スリラー映画賞
Lion Gold Awards 批評家選出人気女優賞(ヴィディヤー)




「女神は二度微笑む」を一言で斬る!
・お祭りせまるコルカタの、日常と非日常の混濁・逆転具合の物語的効果の素晴らしさよ! お祭りってのは、本来普段の価値観が完全に覆る空間だもんねぇ。

2014.9.26.
2014.11.15.追記
2015.7.2.追記

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*1 南インド アーンドラ・プラデーシュ州とテランガーナー州の公用語。
*2 南インド タミル・ナードゥ州の公用語。
*3 戦女神ドゥルガーの祈祷祭。
*4 製作拠点のトリーガンジ+ハリウッドで、俗にトリウッドとも呼ばれる。
*5 ま、"御者"ってトコがミソなんだろうけど。
*6 その前に、日本でもDVD発売された「アラジン(Aladin)」の監督もしております。
*7 家の小さいテレビで見てるんだけどね!