インド映画夜話

Kanchana 2011年 170分
主演 ラガーヴァー・ローレンス & ラクシュミー・ラーイ
監督/製作/原案/脚本/台詞 ラガーヴァー・ローレンス
"お前の犯した罪、償わずに済むと思うな!"



ヒンディー語吹替版予告編

*ホラー苦手な人は再生注意。


 とある街角の"呪われた土地"に赤いショールを飛ばされた女性が、それを拾って帰った晩、彼女は幽霊に殺される悪夢に苦しめられる。母親の勧めで、彼女は飛ばされたショールを件の空き地に捨てることになるが、空き地に投げ出されたショールは、すぐに暗闇に飲み込まれて…。

 その土地の近くに暮らす青年ラガーヴァは、町の男たちから一目置かれる頼もしい兄貴。しかし、子供の頃から怪談話に弱く、未だに幽霊を恐れて夜は兄夫婦一家と同居する母親のそばで寝ないと、安心して眠ることも出来ない恐がり屋。甥っ子たちにそのことをネタにされて遊ばれる毎日だった。
 ある日、いつものように友達たちとクリケットをしようと出かけたラガーヴァだったが、いつも使っていた空き地は建設現場になって使えなくなっていた。しかたなく別の空き地を探す彼らは、誰も手をつけていない"呪われた土地"を見つけ出し、なにも知らぬままクリケット用に空き地を整備し始める。ラガーヴァがスタンプ(クリケット用の3本の杭)を空き地に差し込んだ時、地下に悲鳴が轟き、にわかに暗雲が立ちこめ強い風が吹き荒れる…。

 その夜、久しぶりに姉を訪ねにやってきた義妹プリヤーを迎えて喜ぶラガーヴァ一家だったが、ラガーヴァのクリケット用具から腐臭が広がり始めたのを皮切りに、家の中で奇怪な出来事が…。


挿入歌 Karuppu Perazaga



 タイトルは登場人物の名前。ローレンスによるホラー映画監督作「Muni 」シリーズ第2弾。タイトルは他に「Muni 2: Kanchana」とか「Kanchana: Muni 2」とされる場合も。

 低予算映画ながら2007年に大ヒットして、タミル語(*1)映画界にホラー映画ブームを巻き起こしたと言う「Muni」の続編となる、2011年度最大ヒット・タミル語映画のコメディー・ホラー作品。
 テルグ語(*2)吹替版も公開され、翌12年にはヒロイン ラクシュミー・ラーイをそのままにカンナダ語(*3)リメイク作「Kalpana」、スリランカ映画リメイク作「Kanchana」が、14年にはフィリピン映画リメイク「Da Possessed」も公開。
 2015年には、さらなる続編「Kanchana 2 (別題 Muni 3: Kanchana 2)」も公開されている。

 続編と言っても、「Muni」シリーズは、ラガーヴァー・ローレンス監督・主演の幽霊ものと言う部分だけ共通する、それぞれ独立した話なので(*4)、これ1本でも問題ない展開になっている。

 出だしの"呪われた土地"の怪異譚がずばりホラー映画なシークエンスで始まるものの、前半〜中盤は恐がりなラガーヴァと家族たちのボケとツッコミのコメディ劇と、その家族の生活空間に入り込んだ幽霊の恐怖が連続で描かれて飽きるヒマなし。後半に始まる幽霊の因縁譚は、ただのホラー展開だと思っていたこっちの予想を大いに裏切る社会派なボリュームも盛り込み、アクション、家族人情もの、ロマンス、悲劇、サスペンスとすべての要素が無理なく配置される一級娯楽作になっている。
 ヒーロー然として登場シーンを飾りながら、幽霊嫌いで子供っぽい、なさけない主人公を演じるローレンスは、後半になればなるほど様々な演技力を見せつけ、喜怒哀楽はおろか、幽霊に翻弄される二十面相的な活躍ぶり。物語だけでも色々面白い要素たっぷりの上に、ローレンスの多彩なパフォーマンスの数々を見ているだけで楽しい楽しい。

 ヒロイン(*5)のプリヤーを演じたのは、1990年カルナータカ州ベルガウム生まれのラクシュミー・ラーイ(別名ラーイ・ラクシュミー。生誕名ラクシュミー・ラーイバギ)。
 15才の時に、タミル語映画「Karka Kasadara」で映画&主演デビューし、同じ年に「Kanchanamala Cable TV」でテルグ語映画に、「Valmiki」でカンナダ語映画にもデビュー。07年には「Rock N' Roll」でマラヤーラム語映画にデビューして、アジアンネット・アワードの年間新人女優賞を獲得する。本作と同じ11年には、他にタミル語映画「Mankatha」に出演してフィルムフェア・タミル語映画助演女優賞ノミネートされた他、マラヤーラム語映画2本にも出演している。

 後半の重要キャラを演じてヴィジャイ・アワード助演男優賞を獲得したのは、1954年ニューデリーにてタミル家系に生まれた俳優兼ジャーナリスト兼政治家でもあるR・サラトクマール(生誕名ラーマナータン・サラトクマール。"ラーマナータン"は父称名)。父親は記者をしていたとか。
 学生時代にチェンナイに家族で引っ越し、軍士官学校に進学して航空士官候補生を務めた後、大学で数学の学位を取得。74年にはボディービルダーとして"ミスター・マドラス"を受賞。その後、ニュースリポーターを目指してベンガルールに移り新聞記者として働いたり、チェンナイで週刊誌編集室を設立したり旅行代理店を経営したりしていた頃、友人の映画プロデューサーの要請で86年のテルグ語映画「Samajamlo Sthree」に出演して映画デビュー。88年には「Kan Simittum Neram(まばたきする間)」でタミル語映画デビュー&プロデューサーデビューを果たす。1990年に18本の映画に出演して以降、本格的にタミル・テルグ映画界を中心に南インド映画界で活躍。04年の主演作「Aai」から歌手デビューし、06年には「Thalaimagan」で主演と共に監督デビューもしている。
 96年には、その影響力の大きさから政界に参入し、01〜06年までAIADMK(*6)で活動していたものの、党と対立して最終的に辞任。しかし11年に再度AIADMKに迎え入れられ政界に再出馬しているとか。

 ラーガヴァの母親役で主役を食う勢いで大活躍していたのは、1962年タミル・ナードゥ州コーヤンブットゥールのマラヤーリー家系(*7)生まれの女優兼コメディアン コヴァイー・サララ。83年の「Mundhanai Mudichu(サリーの結び目)」で映画デビューしてから、130以上の映画に出演。TVドラマやTVショーでもコメディ系演技で人気を博し、コメディショーの審査員も務めている。本作を含め、数々の映画でコメディ演技賞も多数獲得している女優である。

 ラーガヴァの義姉カーマクシーを演じて、コヴァイーやローレンスとの掛け合い漫才で活躍したのは、映画やTVドラマで活躍する女優デーヴァダルシーニー(・スクマラン。結婚後はデーヴァダルシーニー・チェータン)。
 学校の校長を務めていた両親の元に生まれ、応用心理学を修了。学生時代にTV番組の司会を務め、それが縁となりTVドラマに出演して女優業を始める。02年に同じTVドラマ男優チェータンと結婚し、翌03年にタミル語映画「Parthiban Kanavu(パーティバンの夢)」で映画デビューしてタミル・ナードゥ州映画賞のコメディ演技賞を獲得。本作と同じ11年には、他に「Mahaan Kanakku」に出演してノルウェー・タミル映画祭主演女優賞を獲得、「Yuvan Yuvathi(男の青春と女の青春)」にも出演している。

 映画は、幽霊が恐い主人公の自宅を舞台にしたホラーとして、自宅で暴れ始める幽霊の恐怖とそれに翻弄される家族の面々のギャグの相乗効果で違和感なく盛り上がりつつ、話が進むにつれてその恐さと可笑しさの質が徐々に変質・進化しはじめ、奇行を繰り返すラガーヴァの可笑しさの裏にある社会的問題や常識の裏にある偏見も浮き彫りにしていく。恐怖自体もファンタジー的超常現象に対する恐怖から、より現実的な社会的恐怖へと推移して行くし、詐欺師のヒンドゥー導師と実際に幽霊に対抗する力を持つムスリム導師たちの対比もあって、様々な読み解きが可能。ただ恐いとか、ただ社会派な真面目映画と違う、重層的な魅力に満ちた、一言では言えないパワーを持つ映画になっている。それを支える出演者たちのパワー、演技力、愛嬌そのものが映画の魅力に直結する一級娯楽作ですわ!


挿入歌 Sangili Bungili (山羊髭のチビ [ドアを開けろ。荒野の虎のように僕を貪り食わないで])




受賞歴
2011 Vijjay Awards 助演男優賞(R・サラトクマール)・女性コメディアン賞(コヴァイー・サララ [Siruthaiのサンタナムと共に])
2012 South Indian Internatinal Movie Awards 助演男優賞(R・サラトクマール)




「Kanchana」を一言で斬る!
・床の血の雫を舌で舐めとる絵面のインパクトよ…。これが生理的恐怖ってヤツか…

2016.8.19.

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*1 南インド タミル・ナードゥ州の公用語。
*2 南インド アーンドラ・プラデーシュ州とテランガーナー州の公用語。
*3 南インド カルナータカ州の公用語。
*4 06年のラジニ主演映画「チャンドラムキ(Chandramukhi)」のオマージュ的作品群としても認識されている。
*5 と言うほど活躍していないけど。
*6 全インド・アンナー・ドラヴィダ進歩党。
*7 南インド ケーララ州の公用語マラヤーラム語を母語とするコミュニティ。