インド映画夜話

Khamoshh... Khauff Ki Raat 2005年 117分(123分とも)
主演 シルパ・シェッティ & ジュヒー・チャウラー他
監督/製作/振付/アクション振付 ディーパク・ティジョーリー
"俺は殺していない…誰も殺してなんかいない…"




 連続殺人が続くムンバイ。
 その犯人とされる男の精神鑑定をしていたサークシー・サーガル医師は、奇妙に引っかかる犯人の調書を調べるうちに、隠されていた尋問テープを見つける…「すぐに検察と裁判官を集めて! 明日の絞首刑を止めないと…彼は犯人ではないわ!!」
 そう…一連の事件の始めとなるあの夜も、激しい雨が降っていた…
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 15年前のその夜、あるモーテルに交通事故で昏睡状態の女性ミタリが担ぎ込まれてくる。
 彼女は夫と失語症の息子とのドライブ中、車のパンク修理に出た夫の様子を伺っていた時に、女優カシミーラを運ぶ秘書アヴィナーシュの車に追突されたのだと言う。彼女をロビーに運んだアヴィナーシュは、自分の行為を謝罪しつつすぐに病院に運ぼうとするも外の豪雨で電話線も道路も寸断され、携帯も通じない状態。病院を求めて走り回るアヴィナーシュの車に避難してきたダンサー兼娼婦のソニアと別の車で立ち往生していた新婚夫婦のヴァルンとメグ(本名メヘク)もモーテルで部屋を取り、さらには犯人護送中の捜査官ジャティンまでもが、雨が止むまで避難しようとやって来た。
 医療の心得のあるアヴィナーシュがミタリの傷の縫合を買って出る中、突然の悲鳴に驚く捜査官ジャティンが外に出てみれば、そこには何者かに殺害され命を落とそうとするカシミーラの姿が…!!


モーテルの惨劇関係者一覧 ()内は役者名
受付:唯一のモーテルスタッフI.D. (ヴラジェーシュ・ヒルジー)
4号室:ダンサー兼娼婦ソニア (シルパ・シェッティ)
5号室:カシミーラの秘書兼運転手アヴィナーシュ (ラジーヴ・シン)
6号室:昏睡状態のミタリ(ガルギ・パテール)と、その夫(ヴィシュワジート・プラダーン)と子供(マスター・プシュペンドラ)。
8号室:新婚夫婦のヴァルン(ラジャット・ベディ)とメグ(カイナーズ・ペルヴェーズ)
10号室:女優カシミーラ (ラーキー・サーワント)
11号室:ジャティン捜査官(シャワル・アリ)と護送中の囚人(ケリー・ドルジ)


プロモ映像 Man Bhanwara (我が心も体も、今や蜜蜂)


 タイトルは、ヒンディー語(*1)で「沈黙…恐怖の夜」の意。
 2003年のハリウッド映画「アイデンティティー(Identity)」のリメイクとなる、ヒンディー語映画。

 まあなんと言うか、ジュヒー&シルパという大女優を起用してるわりには、そこにしか売りどころのない安手の火サス映画って感じ。
 元映画は未見の身なのでどこまで脚色してるのかはわからないけれど、あらすじ読む限りはわりとそのままインド舞台に翻案してる感じもする。夜のモーテルに集まってくるメンバーがほぼ全員脛に傷持つ油断ならない人間だったり、人に対してあたりが強く単独行動を好む人間ばかり登場したり、ラストの急な社会派メッセージと共に煮え切らない哀愁を漂わせて終わるあたり、アメリカ的空気をそのままにインド映画化してると見えなくもない。そういう意味では、ハリウッド文法の映画を見慣れてる層には見やすい映画になっているか。

 お話は、死刑囚の精神鑑定中に新証拠を見つけた(*2)ジュヒー演じるサークシー医師の緊急会議と、回想として挟まれる本編となる連続殺人事件の発端となった15年前のモーテルの惨劇を並行して描いていく。
 いちいち台詞回しや次の展開へ持っていく語り口が重々しく匂わせたがりな場面ばかりで繋がれてる印象で「さっさと逃げなさいよ」とか「そんなあからさまな伏線をセリフで説明しなくても」とかサスペンスとしてはチープさが高いながら、そこまで予算が組まれてなさそうな絵面の中できっちり観客へのサービスをこなすわ、ヒーロー役と思われる男性キャラたちがどんどん身を持ち崩していくわで、新しいインド映画を作ろうとする野心はそこかしこに匂う…ような?

 監督を務めたディーパク・ティジョーリーは、1961年マハーラーシュトラ州都ボンベイ(現ムンバイ)のシンディー家系(*3)生まれ。祖父に国内初の近代金庫製造業で財を成した人物がいる一族の出とか。
 大学時代に参加したアマチュア劇団を通じて男優アーミル・カーン、男優パレーシュ・ラーワル、男優兼映画監督アシュトーシュ・ゴーワーリーカルなどと知り合い、その影響から俳優を目指し特訓。当初はなかなか仕事をもらえず、映画雑誌編集やホテルでのアルバイトをこなしていたと言う。
 TVシリーズや映画でいくつかの端役出演が続いた後、90年のヒンディー語映画「Aashiqui(愛)」で注目を集め、以降ヒンディー語映画界で活躍。98年のTVシリーズ「X-Zone」では出演の他プロデューサーも務め、99年の「Hu Tu Ne Ramtudi」でグジャラート語(*4)映画に、02年の「Jeevan Dan」ではネパール語(*5)映画にもデビュー。
 03年の「Oops!」で監督&脚本&プロデューサーデビューし、その後も映画監督兼男優として活躍中。本作は、これに続く2本目の監督作となる。

 それぞれの登場人物が1つのモーテルに集まる理由を、わりとしっかり(わりと冗長気味に)描くインド文法が機能しつつ、その殺人事件の犠牲になるに足る因果応報な性格である事を暴露していくのも、律儀と言うか冗長と言うか。
 そこにコメディリリーフやセクシーダンスやを入れ込んでくるのも冗長さを加速させるんだけど、事件の真相に近づくについれてその冗長さも意味を持ってくるのはインド文法のなせる技か、元々のハリウッド文法から引き継がれた技か。急に言及される女性蔑視問題やDV問題からくる人間のPTSDへの問題提議が、そこまでインド映画で言及されるのも珍しい気も…しないではない。まあ、それが話のオチとして結構な衝撃を与えてくれはしますけど。ただでは終わらないジュヒー&シルパの大女優オーラも見所ですゼ!!



挿入歌 Love Mee Baby (ラブ・ミー・ベイビー)




 


「Khamoshh...」を一言で斬る!
・豪雨の中、なにかと外出して平然と雨の中歩き回る登場人物たち。濡れても特に気にならないのね…(暑さのせい? 劇中の季節がいつなのか、ハッキリしませんが)。

2026.3.13.

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*1 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。フィジーの公用語の1つでもある。
*2 わりと簡単に見つけられる場所から出てきたけど…。
*3 現パキスタン南部シンド地方を起源とする、シンド語を母語とするアーリア系民族集団。ヒンドゥー教徒、イスラーム教徒、シーク教徒社会それぞれに広まっている。
*4 北西インド グジャラート州とダマン・ディーウ連邦直轄領、ダードラー及びナガル・ハーヴェリー連邦直轄領の公用語。
*5 ネパールの公用語であると共に、北インドのシッキム州の公用語。