インド映画夜話

キ&カ ~彼女と彼~ (Ki & Ka) 2016年 124分
主演 カリーナ・カプール & アルジュン・カプール
監督/製作/脚本 R・バルキー
"彼女と彼と、家庭の日々と"






 マーケティングマネージャーのキアは、企業のCEOを目指すやり手の実業家。
 ある日、チャンディーガルからデリーへ飛ぶ飛行機の中で、有名な建築業界大手社長クマール・バンサルの息子カビールと知り合う。優しかった亡き母を慕い、ビジネスマンとしての未来を期待する父に反発する彼は「母は家庭を作るアーティストだった。僕も母と同じ主婦になりたいんだ」と言い出してキアを驚かす。

 幾度か食事を共にしながら身の上を語りあううち、仕事で大成したいキアと家事を極めて家庭を守りたいカビールは奇妙な友情とともに意気投合し、ついに結婚を決意。唯一2人を理解して受け入れたキアの母親とともに、二人共通の誕生日4月15日からキアの家で夫婦生活を始めるのだが…。


挿入歌 Most Wanted Munda (理想のカレシ)



 ひとくせあるヒット作を連発するR・バルキー監督4作目の映画。
 原題は、ヒンディー語で「少女」を意味する「Ladki」の"KI"、「少年」を意味する「Ladka」の"KA"からの組み合わせ。男性/女性名詞の格変化があるヒンディー語の、文法構造を利用したタイトルでもある。
 日本では、2016年にSpaceBOX配給の英語字幕版が初上陸した後、同年のIFFJ(インディアン・フィルム・フェスティバル・ジャパン)にて日本語字幕版で「キ&カ ~彼女と彼~」の邦題で上映。2022年のIMW(インディアン・ムービー・ウィーク)でも「キ&カ 彼女と彼」の邦題で、23年には神戸インド映画祭、24年のシネ・リーブル池袋のゴールデンウィークインド映画祭でも上映。通称「キとカ」。

 男性・女性ごとの家庭内や社会的役割にうるさいインド社会において(*1)、その価値観をひっくりかえす若者たちのラブロマンス。ジェンダー論ありつつ、社会の偏見ヘの問題定義ありつつ、なお中心となる根っこにあるのは伝統や習慣にとらわれない若い世代の自由恋愛像を描く映画。

 自分の人生指針や信念を確固として持ち続けて実現する行動力を持ちつつ、セグウェイや鉄道模型にこだわる子供っぽさも持っているカビール(*2)。
 敏腕マネージャーであり仕事もプライベートも即断即決の仕事人でありつつ、感情がすぐ顔に出たりマイペースを崩されると途端に弱気になるキア。
 ウィットに富んだ都会人の恋愛劇は、この少年少女のような大人、大人のような少年少女のドタバタを中心に、その周りの人々の価値観をどんどん変えていく生き様を通して、そこに立ちはだかるさまざまな障壁、家の内と外、家事と仕事の両立が難しい現代生活のありかたを描いていく。

 男女論を期待して見ると肩すかしをくらいようなコメディ劇だけども、そう言った固い話を織り交ぜつつも「こんな家はどうだろう?」「こんな夫婦も面白いじゃん」「ちょっと料理してみようか」「少しエクササイズするのもアリかも」と笑いながら思えてしまうポジティブなお洒落映画。
 新世代の恋人たちが、新しい価値観を産み出しながら、新しい家庭を築いていくトントン拍子も軽快で、その新しいはずの家庭が夫婦たち自身による嫉妬や掛け違いによって崩れていく。男女論も視野に入ってるものの、そこで大事とされるのが「家族の結びつき」「家族同士のリスペクト」であると説かれる所はまさにインド映画。または、そう言った「固定概念」への懐疑や、自分たちが如何に「固定概念」に無意識に振り回されているかを笑いとともに描いた映画、ともいえるかも…しれなくもなくもない?

 にしても、一時期のインド映画では「同じ名字の俳優を主演同士で使わない。なぜなら近親相姦を連想させてウケが悪いから」とかどっかで読んだ憶えがあるけど、もうそんなこと気にしなくていい時代になったんですかね? あるいはアルジュン&カリーナのキャラが際立って存在感ありすぎるから、そんな連想を封じてくれるのか(*3)。バリキャリなカリーナはとにかくカッコいいし、二の腕太すぎなアルジュンの頼もしさオーラも様になってて良きかな。
 監督のR・バルキーは、本作が4本目の監督作。12年に妻ガウリー・シンデーが監督した「マダム・イン・ニューヨーク(English Vinglish)」ではプロデューサーのみ担当していたけど、本作を見てると「これは『マダム』をアイディア元に自分流に作り上げた話なのか?」とかとか、いらん深読みをしてしまいそうになりまする。監督作に必ず主要人物で起用されるアミターブ・バッチャンが、本作では意外な出演になってる所に「マダム」との共通性を見るような、でないような?

 1つ屋根の下で家族として暮らす以上、そりゃ色々衝突もあればシャレにならん状況もやってくるわけですが、物語自体は基本に忠実に、視点と時間の使い方はバルキー監督らしい軽快さと笑いを取り混ぜながら、どこにでもいる/ここにしかいない家族の有り様を描いて、見てるこっち側の共感覚を呼び覚ましてくれる。なんとも気持ちよく微笑ましい、完成度の高い娯楽作ですわ(*4)。
 とにかく、見た後「さ、料理作ってみよ」とポジティブに思えるあたりでこの映画のポイントはダダ上がりですよ!(*5)


ED High Heels (ハイヒール)







「キ&カ」を一言で斬る!
・台所のみならず、部屋全部インテリアも含めて作り替える根性は恐れ入るけれど、あんなに趣味全開にすると逆に暮らしにくそうだなあ…。

2017.5.26.
2023.4.6.追記
2024.4.13.追記

戻る

*1 日本だって同じか?
*2 ラスト近辺で家を出て行く時に、持って行こうと一瞬手をかけて諦める所がスゴく効果的!
*3 この2人、実際に親戚同士…だよね?
*4 オチがちょっと弱い気もするけど。
*5 料理できない人間の発言。そりゃ、お米炊くとか味噌汁作るくらいは出来ますけどぉ。