インド映画夜話

カイト (Kites) 2010年 130分
主演 リティック・ローシャン&バルバラ・モリ
監督/脚本 アヌラーグ・バス
"2つの凧が空を舞う。共に寄り添い、時にぶつかり、…そして墜落する"





*「ねえ、アイラブユーってインドではなんて言うの?」
「アタイ フクロウヤロウノ ムスメダゼw」
「アタイフクロウヤロウノムスメダゼ!」
「www …で、スペイン語ではなんて言うんだい?」
「………ウンコ チビッチャッタw」
「ウンコチビ…なんだって?」
「wwwwww!!」



 メキシコの片田舎で、貨物列車から重傷の男が発見された。
 地元民の治療で回復したその男の名前はジェイ。彼はリンダと言う女性を探していた。彼女からの最後のメールにはこう書かれている。
 「もう行きます。ごめんなさい。許して」

 3ヶ月前。
 ラスベガスでダンス・インストラクターをしていたジェイは、裏ではグリーンカード(アメリカ永住許可証)を手に入れようとする不法移民たちとの偽装結婚業を繰り返していた。
 そんなある日、突然ダンス・パートナーのジーナーに結婚を迫られたジェイは、彼女がカジノ経営一族のお嬢様と知るや、すぐに彼女との結婚話を承諾する。

 ファミリーにも認められてジーナーの実家である大豪邸に招かれたジェイは、そこで義兄トニーの婚約者ナターシャとの出会いに驚く。
 なにしろ彼女は、以前にジェイと偽装結婚してメキシコから不法移民してきたリンダだったのだから!

 その時からリンダの美しさに惹かれていたジェイは、これを機会に、ナターシャと名乗るリンダとの秘密のデートを始める。スペイン語と片言の英語しか話せないリンダと、英語とヒンディー語しか理解できないジェイだったが、それでも2人の仲は次第に深まっていく。
 しかし、ついにトニーに2人の仲が知られてしまい、 激しくリンダを痛めつけるトニーの前で銃を抜いたジェイは、彼女との逃避行を開始するが…。


挿入歌 Fire

*リティックと一緒に踊ってるのは、ジーナ役のカングナー・ラーナーウト。
このシーンと、「Koi...Mil Gaya」の"It's Magic"、「Dhoom 2」の"Dhoom Again"を比べると、リティックダンスの映画の中の活用法・演出法の進化具合がよくわかる……かいな?



 久々のリティック主演作キター! …といやが上にも高まる期待を裏切らない大作でございました。
 全米公開されるとすぐに、オープニング・チャートのトップ10に躍り出るほどのヒットだったとか(*1)。
 日本では、大阪アジアン映画祭2011にて特別招待上映された。

 本作の製作・原案はリティックの父ラケーシュ・ローシャン。音楽監督は伯父に当たるラジェーシュ・ローシャンと、これまたローシャン一族映画でもある。

 映画本編は、ヒンディー語と英語とスペイン語が飛び交う多言語映画。しかも英語とスペイン語が、かなりブロークンな上に混ざってるもんで、すさまじく聞き取りにくい(*2)。

 しかも、私の持ってるDVDでは英語とスペイン語にはデーヴァナーガリー(ヒンディー語の文字)の字幕が出てきても、英語字幕が出てこないから、細かい所でなに言ってるのかはまったく理解できず、低レベルな英語力しかない私は、おかんと弟におおざっぱに訳してもらいながらの鑑賞とあいなりました。
 やっぱり持つべきものは、英会話が趣味のおかんと、スペイン留学経験ありの弟だでや。余は満足じゃ。フォッフォッフォ。

 主役は天下のリティック・ローシャン。今回もその肉体美を見せつけながら、アクロバティックなアクションや、ほほえましいユーモアシーンをこれでもかと演じきっております。
 ダンスナンバーが最初の「Fire」しかないのは寂しいとは言え、中米の乾いた空とメキシカンなリティックって結構似合っとるなぁ。ホント、器用な人。あえて自分の得意技を封印した上で、役者としての高みを目指しているような感じ。

 ヒロインは、ボリウッドには珍しい非インド人女優のバルバラ・モリ(*3)。早口でまくしたてる流暢なスペングリッシュと幻想的な美貌がインド人的であるような、でないような、不思議な魅力を醸し出しております。
 メキシコの人気女優だけど、世界配信の映画は本作がデビューなんだそうで。

 お話は、開始早々瀕死のジェイの登場から始まり、回想シーンに回想シーンを重ねながら、徐々に緊迫した現実へとつながっていく構造。
 フィルム・ノワールかアメリカン・ニューシネマ的な影の濃い裏社会と、ネバダ〜メキシコまでの乾いて広大な景色を背景にした幻想的なロマンスとの対比が美しく物悲しい。ま、あまりにも両者がパキッと別れすぎてる気もしないではないけど…。
 ラス立ち(=ラストの大立ち回り)が大幅に省略されて、恋人たちの悲劇の方に焦点が当てられているせいか、見終わったあとは多少消化不良気味になる…か? その辺、ひねくれたヨーロッパ映画の構造に近い……気もする。

 ボリウッドものながら、明らかに海外市場向けに作られていて、ある程度インドの作劇文法を踏襲してはいても、欧米圏の映画の作りが前面に出ているスタイリッシュさは「My Name Is Khan」に似ている。
 おそらくは、これからのインド映画はこうした、最初から海外向けに作られたグローバル映画と、インド国内での上映が基本の今まで通りの娯楽作との2大潮流化していくのかもしれない。
 …インド的な娯楽ミュージカルが好きな私としては、少し複雑ではあるけれど…。


プロモ映像 Tum Bhi Ho Wahi(君と僕と [僕たちの全ての瞬間と])

*…バラード調なBGMに反して、メチャクチャ派手なシーンの連続。

受賞歴
2011 Zee Cine Awards 撮影賞
2011 Golden Kela Awards 最悪助演女優賞(カングナー・ラナウト 「No Problem」と共に)

2011.5.22.

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*1 ただし、アメリカ公開版はミュージカルシーンなどを削った「Kites :The Remix」だそうだけど。
*2 スペングリッシュ化してんねん。アメリカの言語別人口では、スペイン語人口がトップって聞いたけどホント?
*3 ウルグアイ出身のメキシコ女優。ちなみに日系クォーター。弟はキンタローと言うそうな。