インド映画夜話

チャンスをつかめ (Luck By Chance) 2009年 156分
主演 ファルハーン・アクタル & コーンコナー・セーン・シャルマー
監督/原案/製作 ゾーヤー・アクタル
"ハリウッドで有名になるのは簡単だ。だが、ヒンディー映画では顔と芝居はもちろん、さらに歌にダンスも出来なければならない"








 今日もムンバイでは映画撮影が始まり、大道具小道具が作られ、編集者はフィルムを回し、警備員が動き回り、ケータリングが準備され、監督の叫び声がこだまする…。

 駆け出し女優のソーナーは、弱小プロダクションのプロデューサー サティシュ・チャウドリーに認められ、主演映画を目指して3年間格闘中。
 同じ頃。デリーの演劇学校を卒業してムンバイに来たヴィクラム・ジャイシンは、同じように映画スターを夢見る友達たちと集まって、ふとした縁でソーナーと知り合い、共に明日のトップスターを夢見て助け合い、次第に愛し合うように。

 そんな中、大物プロデューサー ロミー・ローリーが、息子のランジートを監督に、大スター ザファル・カーンを主演に向かえた新作を作ると発表。しかし、様々なトラブルから、ザファルは撮影半ばで主演を降りてしまった!
 あせる製作陣は、ヒロイン演じる新人ニッキーの母で大女優のニーナー・ワーリヤーの顔を立てるため、新しい主役を探し出して大型新人の華やかなデビュー作品にするつもり…。

 その頃ヴィクラムは友達から、映画一族の後ろ盾もなく、話題性のあるキャリアも持たない自分が映画俳優になれる可能性はないと言う冷たい現実を突きつけられる。
 翌日。チャウドリーに何とか主演女優の口を引き寄せてもらおうとしていたソーナーもまた、同じ理由で次の主演映画の話から外されてしまう!

 しかし運命のいたずらか、ソーナーを介してチャウドリー夫人からロミーたちの元に届けられたヴィクラムの写真をきっかけに、ヴィクラムは、ロミーの新作映画「Dil Ki Aag (心の炎)」主演男優オーディションに進むことに!
 以前、大女優ニーナーと知り合っていたヴィクラムは、彼女の口添えもあって主演オーディションに見事合格するのだが…!


挿入歌 Baawre (狂うが如く)

*この大規模ミュージカルを「古い」と一蹴して主役を降りちゃうザファル・カーン(演じるはボリウッド1の舞踏力を誇るリティック・ローシャン!)に、インド映画の時代の流れを感じるでごわす。


 いわゆる舞台裏もの映画の、よくあるアメリカンドリームな若者たちの話……なんだけど、
・映画と言う虚構の中に仕組まれた成功物語
・映画一族出身のファルハーン&コーンコナー(&監督のゾーヤー)によって演じられる、無名新人たちによるサクセス青春もの
・映画一族の影響力を駆使した大量のボリウッドスターの特別出演
 ……という部分で、かなりメタ構造を内包する映画なんだと紹介されて「あ、なるほど」と納得した次第。
 日本では、2009年に東京国際映画祭にて上映された。

 監督は、これが初監督作品となるゾーヤー・アクタル。主演兼製作のファルハーン・アクタルの姉で、ファルハーン監督作他で製作・助監督などを担当した後、本作で原案・監督・総指揮に就任。この映画は、長年ゾーヤー監督自身が構想し練り混んでいた作品だそうな。

 主演のファルハーンは、シャールク主演の「ドン 過去を消された男 (Don)」などの監督他、映画製作・脚本を経た後にいきなり役者としても活動を開始。本作は出演(&主演)3作目となる。
 ヒロインのソーナーには、演技面では定評のあるコーンコナー・セーン・シャルマー。演技では、主役のファルハーンが霞むほどの迫力でございました。物語的には表の主人公をファルハーンが演じ、裏の主人公をコーンコナーが演じる感じ。2人の映画内でのバランスは、かなり気を使って模索してるようにも見える。

 大型新人で三角関係の一方を担当するニッキー役には、ダンサーから女優に転向したイーシャ・シェールワーニー。その母ニーナーには名優ディンプル・カパーリヤー。ロミー・ローリー役を務めるのは往年の大スター リシ・カプール。その妻ミンティ役はトップスターの一人ジュヒー・チャウラー。大スター ザファル・カーン役は、やはりトップスターのリティック・ローシャンと言う贅沢な布陣。
 さらに、ゲスト出演ではチョイ役ながらアーミル・カーン、アクシェイ・カンナ、アビシェーク・バッチャン、カリーナ・カプール、カラン・ジョハール、ランビール・カプール、ディアー・ミルザー、シャー・ルク・カーン……などなど、「ウォーリーを探せ」並みに次々とトップッスターたちがだまし絵的に配置されて登場。アーミルとシャールクが同じ映画の中で登場するなんて、これまでにあったっけ?(*1)

 こうした、ボリウッドスターたちの華やかな映像構成と、映画一族によって牛耳られる映画界に踏み込んでいこうとする才能ある無名新人たちの活躍を、対比させるような物語が組まれてはいたけど、あくまでそれはブラフとしての「一般的映画娯楽が好きな人は、筋だけ追ってください」と言う仕組みなのが、この映画のポイント。
 劇中、大ヒット映画のポスターも時々でてくるけど(*2)、ロミー・ローリー・プロダクションとかで張られている映画ポスターや小道具類などは、わざわざこの映画のために作らせた"実在しない架空のもの"。
 つまりは、映画と言う機能そのものが"すべからく虚構イメージ"の積み重ねであることに自覚的な配置構造になっていて、「映画とはなんぞや」と映画の舞台裏劇を映しながら映画全編で思考してるような感じ。その問いは、次の瞬間には「ヒンディー映画とはなんぞや」にも「トップスターの存在意義とはなんぞや」とかにも展開していって、夢を与えるべき映画が"映画そのものについて自問自答してる"構造になっている。
 OPの"Yeh Zindagi Bhi"が、映画製作の裏方さんを撮影しながら、映画館の入口にフォローアップしていく所で終わるのが、なんとも示唆的。

 映画一族アクタル家出身のゾーヤー監督による、小さな頃から慣れ親しんだ感のある映画業界を眺める視線が生んだ、ボリウッド的映画愛に満ちた作品……なのかなぁ(弱気)。


OP Yeh Zindagi Bhi (人生…それは[全てを映す。霞んだ夢の通り道に沿って])

*出てくる裏方さんは、本職の人たちなんでしょか。こういう、スクリーンの裏にこれだけの人が汗水たらして働いてんだぞ! …と言う視点が、非常に映画愛に満ちていて嬉しい。


受賞歴
2010 Star Screen Award 助演男優賞(リシ・カプール)

2011.10.14.


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*1 この二人って仲悪いんじゃなかったっけ?
*2 でかでかと「DON」のポスターが出てくる所にちょっと苦笑い。