インド映画夜話

花嫁はどこへ? (Laapataa Ladies) 2023年 124分
主演 ニターンシー・ゴーエル & プラティバー・ランター
監督/製作 キラン・ラーオ
"人生がくれた、幸せないたずら"




 2001年1月。ニルマール・プラデーシュ州農村部にて結婚式が行われていた。
 村一同が新婦に結婚衣裳ラール・サリーを着させた上で送り出し、新婦はベールをかぶったまま満員電車の中に押し込められ、新郎の家を目指す…。
 「見ろ。また別の、吉日の犠牲者になった新郎新婦のご到着だぞ」

 夜も更けて、暗闇のなか新郎ディーパク・クマールの実家に到着した2人だったが、家族が新婦を歓迎しようとその顔を見にやってくると、ベールの中から現れた顔は、全くの別人! …ディーパクはここで始めて、電車内の暗闇の中、そっくりな結婚衣裳を着たもう1組の新婦の方を連れて来てしまったことを、今更気づかされる…。

 ディーパクが花嫁捜索に駅に戻る中、残された新婦は「プシュパ・ラーニー」と名乗って村の人たちと元に戻る手段を講じようとするが、彼女の言う実家の連絡先、夫の名前はいくら探しても見つからない。一方、ディーパクの本当の妻プール・クマーリーは、見知らぬ駅に取り残され、ベールを脱いで新郎を探す中、新婦が消えたと憤慨するもう一方の新郎プラディープ・シンとの会話もそこそこに、駅に集まる見知らぬ男たちの声から逃げ出していく。物陰に隠れるプールに、新婦を探すプラディープと友人たちの会話が聞こえてくる…「朝になっても見つからなければ、親元に連絡だ。どちらにしろ、結婚持参金はもらってるしな。今夜はもう、ドリーの店に行こう。祝われるべきは結婚初夜だ」


プロモ映像 Doubtwa ([僕は叫ぶ。だって僕は彼女に] 夢中だから)


 原題は、ヒンディー語(*1)+英語で「消えた女性たち」。英題「Lost Ladies」としても知られる。

 映画スター アーミル・カーンがプロデューサーについた、彼の元妻キラン・ラーオの2本目の監督作。2023年のトロント国際映画祭でプレミア上映され、翌2024年3月にインド公開。多数の映画賞を獲得して、2025年の米国アカデミー賞国際長編映画賞インド代表作に選ばれる(*2)。
 日本では、2024年に「花嫁はどこへ?」の邦題で一般公開されている。

 ニルマール・プラデーシュ(*3)州という架空のインドの農村地域を舞台に、ラール・サリー(赤いサリーの意)という統一された結婚衣裳で全身を包んで見分けのつかなくなった2人の花嫁を取り違えたことから起こる、ヒューマンコメディな騒動を描く1本。
 結婚式当日までお互いに顔も名前も知らない相手と結婚することも珍しくない、インド辺境部の日常(*4)の中で、自分の村から出たこともないような新婦が「どこから来た?」「出身地区の名前は?」「何駅から乗って来た?」「乗り継ぎ路線は、何と何?」と次々聞かれても答えられず、新郎側も「どんな顔してた?」「身体特徴は?」「写真はあるか?」と聞かれても、持ってるのは結婚式(*5)の時の、結婚衣裳で顔も素肌も隠れた状態の姿しか写ってない写真という皮肉が、どんどん事態を混乱させていく微笑ましい家族の慌てっぷりが可笑しい。

 一方の花嫁は駅で孤立してた所を、駅で働く小間使いや出店の女将に助けられ、もう一方は間違えられた新郎の家に厄介になりながら、携帯電話を使えなくしたり町の印刷屋に注文しに行ったりと裏工作を始めて、信用していいのかよくないのかわからない人々の中に放り込まれた2人もまた、対極的な反応を見せて周りの疑心暗鬼を両者それぞれに煽る姿の対比も映画として鮮やか。別々の場所で奮闘する2人の花嫁のそれぞれの状況を切り取るカット繋ぎが、花嫁同士でシンクロしていく演出も軽快で麗しい。
 そんな中で、彼女たちに手を差し伸べる者、怪しんでその行動を監視する者、さりげなく会話の中から解決口を見つけ出そうとする者など、それぞれの善意・悪意混ざる行動が、それぞれに連鎖していく事で最終的な解決へと繋がっていく物語進行も美しい。両者共に、恐らくは見合い結婚と言う形で式が進んでいた最中でありながら、プール(花の意)は恋愛結婚に近く、プシュパ(同じく花の意)を名乗る女性は借金苦から来る相手側の持参金目当ての詐欺婚であることが明るみに出てくる対比構造も、インドの現実と幻想が混ざるさまざまな対比を見せつけてくる。
 人生最高の舞台(*6)である結婚式から、奈落に突き落とされたような思わぬトラブルにとまどいつつも、周りの人間たちとの関わりによってその後の結婚人生や進路計画を再考する機会を得たとばかりに、自分なりに出来ることを始めて人生を立て直そうとする、そのポジティブな行動力が、周囲の大人たちのとぼけた人生観や仕事の倫理観と混ざっていくことで、悲観的な目線は後退してなんだかんだと楽しそうに日々を過ごしていく、その姿だけでも爽やかな人情劇として楽しい。
 そこから、プシュパが計画していた解決策に見える覚悟の強さや、地方駅で働く労働者たちのやさぐれながら道理の分かる優しさと厳しさに見える、人と人をつなぐ縁の優しさ、思わぬところで垣間見える利他の精神の美しさが、嫌味には全く見えずに人間社会の美しさを見せてくれる人情劇の完成度の高さが、麗し楽し清々しい。
 私もいつか、チャツネを出してくれる屋台のある駅に行ったら、「チャツネもう1杯いいですか?」とか一杯のかけそばみたいに聞いてみたい。インド屋台を日本の駅にも出してけれー!!



プロモ映像 Dheeme Dheeme (穏やかな [風が優しく囁いている])




受賞歴
2024 豪 Indian Film Festival of Melbourne 批評家選出作品賞
2024 CNN-IBN Indian of the Year エンターテイナー・オブ・ザ・イヤー賞
2024 Bollywood Hungama Surfers’ Choice Movie Awards 女優デビュー賞(プラティバー・ランター)・助演女優賞(チハヤ・カダム)・批評家選出作品賞
2024 FOI Online Awards 台本賞(スネーハー・デーサーイ & ディヴィヤニディ・シャルマー)・配役パフォーマンス賞
2024 National Star Awards 主演女優賞(ニターンシー・ゴーエル & プラティバー・ランター)・主演男優賞(スパルシュ・シュリヴァスタヴァ)

2025 IIFA (International Indian Film Academy) Awards 作品賞・監督賞・主演女優賞(ニターンシー・ゴーエル)・助演男優賞(ラヴィ・キシャン)・女優デビュー・オブ・ザ・イヤー賞(プラティバー・ランター)・音楽監督賞(ラーム・サンパティ)・作詞賞(プラシャント・パーンデーイ / Sajni)・オリジナル原案賞(ビープラブ・ゴースワーミー)・脚本賞(スネーハー・デーサーイ)・編集賞(ジャビーン・メールチャント)
2025 Iconic Gold Awards スター女優出現・オブ・ザ・イヤー賞(ニターンシー・ゴーエル)・作詞賞(プラシャント・パーンデーイ / Sajni)
2025 ELLE Beauty Awards フレッシュフェイス・オブ・ザ・イヤー賞(プラティバー・ランター)


「花嫁はどこへ?」を一言で斬る!
・サリーって、それだけでお財布にもなるのね!(日本も、着物の袖は財布代わりだったそうだけど)

2026.1.17.

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*1 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。フィジーの公用語の1つでもある。
*2 が、ノミネートされなかった。
*3 「清浄な州」とか「誠実な州」とかの意味。ヒューマンドラマとしての本編の、悪人がほぼ…まあ大体ほぼ、いないことを示すさりげない伏線だったり?。
*4 本作の新郎新婦は、流石に顔見知りではあったようだけど。
*5 と言うか、その前にやる新郎が新婦をお迎えに来る新婦実家の追い出し式?
*6 …と本編で描かれてるかどうかは、やや疑問ですけど。
*7 多少メルヘン的なニュアンスも匂う?