インド映画夜話

London, Paris, New York 2012年 100分
主演 アリー・ザファル(作詞&音楽監督も兼任) & アディティ・ラーオ・ハイダリー
監督/脚本/原案 アヌー・メーノン
"あの3日間は、永遠の時間"




 現在のニューヨーク。
 新作映画のインタビューを受けていた映画監督ニキル・チョープラーは、届いたメールを見て急遽その場を去って行く…

 時は遡って、2005年。
 ロンドンの映画学校に留学するニキルは、ヒースロー空港にて、NYの大学へ政治学を学びに行く少女ラリタ・クリシュナンと知り合う。ロンドン着の飛行機の遅延でNY行きの便を逃し、頼りにしていた友人も留守中と言う彼女を見かねてロンドン観光に誘い出すニキルだったが、たった1日の間に凸凹コンビの2人は互いに想いを交わすようになり、翌日には12月にNYで再会しようと約束して別れて行く…。

 時は移り、2007年。
 パリに住み着いていたニキルは、友人から「ラリタが、ソルボンヌ大学の交換留学生として来ている」と聞かされ、2年ぶりの再会を楽しみにしていた。しかし、友人から渡された彼女の写真は、ロンドンのあの日とは大きく様変わりした姿が写っていた…。


挿入歌 Voh Dekhnay Mein (あの娘は単純で [自分で「よくわからない」と言うんだよ。でも、本当は違うんだ])


 アヌー・メーノンの初監督作となる、ヒンディー語(*1)ロマンス映画。略称「LPNY」。

 印パ両国で活躍していたパキスタン人タレント アリー・ザファルと、本作がヒンディー語映画主演デビュー作となるアディティ・ラーオ・ハイダリーが主演を務める。製作は、FOXスタースタジオ。
 クウェートで初公開となった翌日に、英国、アイルランド、インド本国他でも公開されている。

 タイトル通り、3つの都市それぞれでのロケを敢行し、それぞれの都市で1日だけを共に過ごした男女のすれ違いを描いて行くデートムービーの佳作。
 それぞれのエピソードは反復を繰り返し、その時その時の主役2人の成長・変化具合、その街のカラーリングと言う差異を見せつつ、小洒落た会話のやり取りで進展するオシャレ映画になっている。

 欧米都市を舞台に、すれ違いロマンスを進展させて行く映画といえば「Hum Tum(僕と君)」なんてのがあったけど、あっちも本作も、すれ違うたびに女性側主人公の方が外見から色々変化が激しいのがなんとも(*2)。こちらでは、ある程度男性主人公もスタイルを変えて来てはいるけれど、基本ヒロインのエスコート役に徹していると言う意味では、こう言う映画は恋愛を通した女性の成長劇と解釈してもいい、かもしれなくもないかも。
 ラスト近辺を除いて、主役2人の背景となる家族が登場しない(*3)のもインド映画としては珍しい…と言うより欧米的ファッショナブル度を高めている感じ? 日本アニメでも、両親が登場しない学生主人公とかが不思議がれることがあるそうだけど、インドも変わらんわー(棒

 本作が監督デビューとなるアヌー・メーノンは、デリー生まれのマラヤーリー系(*4)家庭出身。
 工学の学士号を取得後広告界で活躍する中で、NYFAのワークショップを経てロンドン・フィルム・スクールで映画製作を学ぶ。07年の短編映画「Ravi Goes to School」で映画デビューとなり、ドキュメンタリー「Baby」に続いて、本作で長編映画監督&脚本デビューとなる。
 以後、15年のオムニバス映画「X: Past Is Present」の1編「Oysters」、16年の「Waiting」を監督。続いてTVドラマ「Romil and Jugal」の脚本、「4 More Shots Please」の監督も務めていく。

 ヒロイン ラリタを演じるアディティ・ラーオ・ハイダリーは、1986年アーンドラ・プラデーシュ州ハイデラバード(*5)生まれ。
 父親は、ハイダリー家(*6)出身のイスラム教徒。母親は、ワナパルティ王族(*7)出身のヒンドゥー教徒で、古典音楽家のヴィディヤー・ラーオになる。アーミル・カーン夫人であるキラン・ラーオとは親戚同士(*8)。
 2才頃に両親が離婚し、母とともにデリーに移住。6才から古典舞踊バラタナティヤムを学び、映画俳優を目指して大学卒業後すぐに映画界の扉を叩く。ダンサーとして舞台に立ってきた後、06年のマラヤーラム語(*9)映画「Prajapathi(指導者)」で映画デビュー。それ以前に撮影されていたタミル語(*10)映画「Sringaram」が07年に公開されて主演デビューとなった(*11)。09年には「デリー6(Delhi 6)」でヒンディー語映画デビューとなり、以降ヒンディー語映画を中心に活躍中。
 11年公開作「Yeh Saali Zindagi(なんてくだらない人生)」でスクリーン助演女優賞を獲得。14年には「Rama Madhav」にゲスト出演してマラーティー語(*12)映画デビューし、17年の「Kaatru Veliyidai」ではアジアヴィジョン・タミル語映画主演女優賞を、18年の「Bhoomi」でダーダサーヒブ・パールケー優秀賞の批評家選出主演女優賞を受賞している。同年には「Sammohanam(魅惑)」「Antariksham 9000 KMPH」の2本でテルグ語(*13)映画デビューもしている。

 「デリー6」の頃から「綺麗な人だなあ」とか思ってた身としては、こうして主演の座を勝ち取って思う存分演じ切ってるアディティ・ラーオ・ハイダリーを見るのは嬉しい限り(2作目の主演作だけども)。
 ロンドン篇では、いつも通りのおとぼけ系イケメンを演じるアリー・ザファルにリードされてる感もありつつ、3都市それぞれで変わり行くヒロイン&ジェントルマンをそれぞれの美しさを見せつけてくれる、主演2人のファッショナブルさ、演技力の多彩さ推しの映画でもあるか(*14)。
 ノスタルジー系な暖色オレンジ世界のロンドン(*15)、赤と緑と言う補色関係の色彩に満ちたパリ(*16)、青と白と言うクリアイメージのニューヨーク(*17)を経て、最後に夕暮れのオレンジ系の弱い光が青白世界を薄く照らすその色彩の象徴性も見事(…と言うか、あからさま?)。3都市の観光名所巡りも相まって、全編お洒落なデートムービーとして完成された一本でありまする。

ED London, Paris, New York (ロンドン、パリ、ニューヨーク)



「LPNY」を一言で斬る!
・ロンドンと(冬の)ニューヨークは、夜中に川沿いで熟睡しても大丈夫なんだね…(気温的な面と治安的な面で)。

2018.3.1.

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*1 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。
*2 それが物語的伏線にもなっているんだけど。
*3 登場するのも、ヒロイン側の父親一人だけ!
*4 マラヤーラム語を母語とするコミュニティ。
*5 現在は、テランガーナー州内にある両州の共同州都。
*6 英領インド時代からの有力政治家家系。
*7 ニザーム王国から続く、現テランガーナー州内ワナパルティ地方の統治権を持つ一族。
*8 その他、親戚の多くにハイデラバード著名人がいる。
*9 南インド ケーララ州の公用語。
*10 南インド タミル・ナードゥ州の公用語。
*11 この映画撮影がきっかけとなって、「Prajapathi」への出演が決まったそう。
*12 西インド マハラーシュトラ州の公用語。
*13 南インド アーンドラ・プラデーシュ州とテランガーナー州の公用語。
*14 ま、酒に酔って吐くシーンなんかは「ん?」って演技になってはいたけども。
*15 2人の若さ・熱気・情熱具合の表れ?
*16 2人の関係に距離が出来たことの表れ?
*17 2人が成熟し、落ち着いた関係に至ったことの表れ?