インド映画夜話

Ladies vs Ricky Bahl  2011年 140分
主演 ランヴィール・シン & アヌシュカー・シャルマー & パリニティー・チョープラ & ディパーンニター・シャルマー・アトワル & アディティ・シャルマー
監督 マニーシュ・シャルマー
"気をつけな、お嬢さんたち"




 デリーに住む社長令嬢ディンプル・チャッダー(通称ディンピィ)は、酔っ払った所を最近できた彼氏のジムトレーナー サニー・シンに家まで送られてから、その紳士的な彼氏を気に入った両親公認の仲になった。
 その翌日、サニーが実家である一等地の屋敷を奪われた貧困生活の身だと知らされたディンプルは、父親の財力でその屋敷を取り戻してサニーにプレゼント。その土地を購入したがった父親は、さらに多額の資金を彼に支払ったのだった。こうして、2人の幸せが始まったかと思えたその日…突如父親が逮捕され、サニーの屋敷も無関係な他人名義のものと知らされた上、サニーの勤務先や自宅に行ってもその行方は杳として知れず…。ディンプルは、ここで初めて自分が騙されていたことに気づく…!!

 その後、ムンバイ在住の実業家レイナー・パールレーカル、ラクノウ在住の布屋を経営するサーイラー・ラシードと言う、名前は違えど同じ男に騙された女性たちと知り合ったディンプルは、3人結託して正体不明な詐欺男"大嘘クソ野郎"への復讐と損害分の奪取にのりだそうと集合する…!!


ED Thug Le (奴らをだませ)


 2010年の「Band Baaja Baaraat(結婚式バンド狂騒)」で監督デビューしたマニーシュ・シャルマーの、同作で主演したランヴィール&アヌシュカーを再度結集させた2作目監督作となるヒンディー語(*1)。
 その物語は、2006年の米加合作映画「モテる男のコロし方(John Tucker Must Die)」、ドラマ化もされている英国人小説家ジェフリー・アーチャー著の小説「百万ドルをとり返せ!(Not a Penny More, Not a Penny Less)」をアイディア元にしていると指摘されている。

 ドバイ国際映画祭とクウェートで初公開され、その翌日にインド本国の他、オランダ、ノルウェー、ロシア、シンガポールでも一般公開されているよう。

 金持ち女性を狙って口八丁で詐欺を繰り返す男と、その男への復讐に動き出す被害者女性3人を主役にしたドタバタ恋愛復讐劇な1本。
 ただ、後半登場する詐欺男を釣るための囮役に立候補したアヌシュカー演じるイシカーも入れた主要5人の登場人物配置が、全員狂言回し的に物語の主軸から一定の距離を保ったままに最後まで突っ走るので、お話は軽快で楽しいのに、なんとなく視点がブレたまま無理に風呂敷を畳んでる感じの映画になっているか。

 前半の3人の被害者の人となりや詐欺男との繋がり方・騙された経緯は「そんなあからさまな」と思えるような3者3様にキャラ立ちした特徴別エピソードになっていて、似たような話3連続のわりに目が話せないくらいにはスピーディーで楽しい。
 特に、モデル出身女優に囲まれながら一般人出身(*2)で本作が映画デビューとなったディンプル役のパリニティー・チョープラのパワフルな存在感はトンでもね。詐欺被害エピソードで一番時間を割かれている分、新人お披露目枠と見ることも可能な感じに「この子新人なんで、ランヴィールとアヌシュカー共々よろしくね!」って声が聞こえてきそうな感じ。

 一方、被害者女性その2レイナー役を演じるディパーンニター・シャルマー・アトワルは、1979年アッサム州(現アソム州)ディブルガッ県ドゥリアジャン生まれ(*3)。父親は国営企業O.I.L.(オイル・インディア・リミテッド)専属の医師。妹はTVで活躍する女優アルニーマー・シャルマーになる。
 デリーの女子大で歴史学を修了し、98年度ミス・インディアの最終選考まで勝ち残る。同年のミス・フォトジェニックに選ばれてスーパーモデルとして活躍し、MV、TVドラマ出演を経て02年のヒンディー語映画「16 December(12月16日)」で映画&主演デビューしてZeeシャイン新人女優賞他にノミネート。以降もヒンディー語映画界で活躍し、本作でZeeシャイン助演女優賞ノミネートしている。17年には「Xhoixobote Dhemalite」でアッサム語(*4)映画デビューもしている。

 被害者女性その3サーイラー役を演じるアディティ・シャルマーは、1983年ウッタル・プラデーシュ州ラクノウ(*5)のパンジャーブ人家庭生まれ。
 04年のタレント発掘TV番組で優勝し、モデル兼女優として活躍。07年のヒンディー語映画「Khanna & Iyer(カンナ&アイヤル)」で映画&主演デビューし、08年には「Gunde Jhallumandi(身震いする心)」でテルグ語(*6)映画に、15年には「Angrej(英語男)」でパンジャーブ語(*7)映画にそれぞれデビュー。以降も、ヒンディー語とパンジャーブ語映画界とそのTV界で主に活躍中。

 スピーディーな前半に対して、アヌシュカー演じるイシカーの登場からはゴアを舞台にしたドタバタ劇に変化しつつ、そんなに緻密でもない金に物を言わせた復讐計画の中で3人の被害者がただの賑やかし役へと変化して、物語はイシカーと詐欺男とのロマンスが中心軸となっていく。
 登場シーンからやたらとパリピアピールの激しいイシカーの掘り下げが大してないので「さあ、若手女優よ、もはや大物感漂うアヌシュカー様を御覧じろ!」って感じに3人の女優を引っ張っていくアヌシュカーさんの存在感に頼り切ってる感じもする。
 被害者側と違って過去があまり語られないところに「ひょっとして、このキャラも詐欺側なのでわ…?」と疑っていたけども、そんな複雑な構成にしないでそのまま恋愛劇へと突っ走るのは、分かり易さをとったのか、あるいは…?

 見所はなんといっても3人の被害女性たちの美貌とその都度のファッションスタイル。ゴアの解放的なリゾートスタイルに対して、セレブな彼女らへ早口台詞だけで主導権をとっていく詐欺男の飄々さと図太さこそが、この映画の武器でしょか。
 とにかく、復讐計画でやたらバブリーに金を使い倒すセレブっぷりも羨ましい限りながら、そこに口だけを武器に切り返していく詐欺男のクリシュナ的とも言えるインド映画ヒーロー像の小気味良さが前面に出てくる、男優ランヴィール・シンの器用なパワフルさに、庶民のヒーローとしての貫禄を見てみるのもいいかもしれない。ま、あんだけ詐欺られて「本気の恋に目覚めてしまったので、ゴメンしてね」と言われて素直に納得するかどうかは……ねえ?

OP Aadat Se Majboor ([好き嫌いに関わらず俺は来る。俺は君の心を盗みにくる。なにが出来る?] 君たちが救えるとでも?)

*歌ってるのは、歌手のベニー・ダヤルと、本作主演のランヴィール・シンその人!


受賞歴
2012 Filmfare Awards デビュー女優賞(パリニーティ・チョープラ)
2012 Star Screen Awards 有望新人女優賞(パリニーティ・チョープラ)
2012 Zee Cine Awards デビュー女優賞(パリニーティ・チョープラ)
2012 Apsara Film & Television Producers Guild Awards デビュー女優賞(パリニーティ・チョープラ)・助演女優賞(パリニーティ・チョープラ)
2012 Stardust Awards 明日のスーパースター女優賞(パリニーティ・チョープラ)・コメディ/ロマンス女優賞(アヌシュカー・シャルマー)
*パリニーティ・チョープラはこの翌年も「Ishaqzaade」で同じ明日のスーパースター女優賞を、アヌシュカー・シャルマーは「Jab Tak Hai Jaan」でコメディ/ロマンス女優賞を2年連続で獲得している!
2012 FICCI Frames Awards デビュー女優賞(パリニーティ・チョープラ)
2012 IIFAインド国際映画批評家協会賞 助演女優賞(パリニーティ・チョープラ)・デビュー賞(パリニーティ・チョープラ)
BIG Star Entertainment Awards 振付賞(ヴァイバーヴィ・メールチャント)
Cosmopolitan Awards 有望デビュー女優賞(パリニーティ・チョープラ)
Global Indian Film and Television Honours 有望新人女優賞(パリニーティ・チョープラ)


「L vs RB」を一言で斬る!
・なんとなく、チャラ男の元カノ謝罪行脚映画【Bachna Ae Haseeno(気をつけな、美女たちよ)】の構造を、よりバブリーに発展させたようにも…見えなくもなくもないことも…ない?

2022.1.28.

戻る

*1 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。
*2 親戚にミス・ワールドのプリヤンカがいるけど。
*3 アトワル姓は、08年の結婚後の姓。
*4 東インドのアソム州の公用語。
*5 劇中のサーイラーの出身地と同じ!
*6 南インド アーンドラ・プラデーシュ州とテランガーナー州の公用語。
*7 北西インド パンジャーブ州の公用語。