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マーク・アントニー (Mark Antony) 2023年 151分(150分とも)
主演 ヴィシャール & S・J・スーリヤ
監督/脚本/原案 アディク・ラヴィチャンドラン
"過去を呼び戻して、書き換えろっ!"
1975年。タミル人発明家チランジーヴィーは、長年の研究からタイムトラベル電話の発明に成功! この電話の使用方法は以下の通りである。
ルール1 通話できるのは現在から過去のみ(未来へはかけられない)。
ルール2 どの番号にもかけられるものの、同じ番号への使用は1日に1回のみ。
ルール3 雷は、その電磁波が干渉して通話の不通を招く。
ルール4 初めて電話をかける者は、引力によって宙に浮いてしまう。
ルール5 電話をかけた者のみが、その会話内容を記憶できる。
…しかし、当のチランジーヴィーはその夜、未来の自分からの電話連絡があったにも関わらず、ギャング抗争に巻き込まれて命を落としてしまった…。
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ロヤプラム(現チェンナイの北部地域)。この街には、アントニーとジャッキーと言う2人のギャングボスがいた。
2人は親友同士であったが、突如第3のギャングボス エーカンバラムが2人を殺そうとやって来て権力闘争が勃発。弟を殺されたエーカンバラムが、ジャッキー不在時を狙ってアントニーを殺害したため復讐を誓うジャッキーだったが、エーカンバラムはそのまま行方をくらませてしまい、ジャッキーが事実上の街を仕切るゴッドファーザーとなって行った。
時は過ぎて1995年。ジャッキーが支配するこの街に、彼の座を狙い続ける決起盛んな息子マーダン・パンディアンと、ジャッキーに我が子同然に育てられたアントニーの息子の自動車整備士マークが暮らしていた。
マークは、母を殺した父を許さず、父と同じギャングの全てに怒る青年。そのため、恩義あるジャッキーに礼を尽くしながらも恋人ラムヤーと共に街を離れてギャング達と縁を切る決意をする。
しかしその矢先、潜伏していたエーカンバラムが現れてジャッキーを襲撃するも果たせず。逆に処刑される事件が発生。この現場を見てしまったラムヤーの母親は、ギャングとつながるマークを娘の婚約者としては受け入れられないと婚約破棄を申し渡してくる。絶望するマークは、ラムヤーが持ち込んで来た廃車に入っていた施錠された箱に八つ当たりするが、その箱の中には、チランジーヴィーが発明したあのタイムトラベル電話が入っていた…!!
挿入歌 Adhirudha (お前の心は [恐怖に震えている])
*アントニー・だー!
タイトルは、主演するヴィシャールの1人2役の父子名。
2015年の「Trisha Illana Nayanthara(トリシャー でなければ、ナヤンターラーを)」で監督デビューしたアディク・ラヴィチャンドランの、4本目の監督作となるタミル語(*1)映画。
ヴィシャール主演作の中で最高収入を記録した映画でもある。
冒頭、70年代から始まるタイムトラベル電話の発明によってレトロSFなお話が始まるかと思ってみれば、舞台演劇的外連味を多用した猪突猛進型ギャング抗争ドタバタ・タイムパラドックス上等口八丁ざまあ系仕返しリベンジムービー…………とにかく、勢いでどんどん斜め上にあれよあれよと展開する山盛り展開が楽しい奇想天外映画でありました。
なんと言うかまあ、実際に過去に行こうとせず、口だけで人間関係グチャグチャにかき回して事態を変えさせようとするインド気質を存分に利用したお話で、タイムマシンなんぞなくとも「タイム・パラドクスなんて屁でもねえゼ!」と気にしない下町ギャングにかかれば、抗争劇がここまでメチャメチャに、複雑に、それでいて爽快でワクワクする展開になってしまう「インド話術」の破天荒さ(無責任さ?)を見るような1本。
主役マークとその父親アントニーの1人2役を演じているのは、アクション俳優として鳴らしているヴィシャールだけど、「アクション!!(Action)」で見たような精悍な正義漢なイメージなんぞどこ吹く風。気弱なマークとギャングボス アントニーを流暢に演じ分け、70年代ヘアスタイルもあって「ホントにヴィシャールなの? 別人にしか見ない…!」と驚くことばかり。役者スゲえ。
電話だけ利用の過去改変によって、昨日と今日でギャング抗争の敵味方が次々に変わり始め、過去を起点に人物関係があれよあれよと変化していく混乱に次ぐ混乱を逆手に取り、主人公の恋人ラムヤーとの恋人関係に象徴される「電話1つで壊れる人間関係」がどこまでも暴走していく様が無責任に楽しすぎて、もう。
相変わらずの無数の登場人物たちによる高速人間関係説明とその変化が冒頭から激しい映画にもかかわらず、見続けていくとそれでも映画前半はまだ通常モードのスピード感で作られて行ってて、後半からその速度がさらに加速。過去改変による人間関係の変化が加速度的に混沌としていく「行くとこまで行きまっせ!」なブースト加速っぷりがスンバラし。話術1つで、そこまで事態を混乱に落とし続ける歌舞いた庶民根性の全開さを彩るように、タイムトラベル電話の無駄な放電や使用者の宙吊り、伏線かと思われた雷による使用不能状態も適当に舞台映えする画面要素として盛大に無駄遣いで消費させて行く贅沢感も良きかな。そうなんですよ、物語ってのはこれほど無責任でも楽しく成立してしまうんですよ。タイムトラベル電話の科学交渉? そんなことより電話して空中にトンでみたいとか、トンチキ武器で周り全部爆撃したいとか思わない方が可笑しいんだゼ!!(観客の態度としてw)
それにしても、レトロ風味のセピア色で統一されている70年代と90年代の作りに、そんな時代差を感じない画面に見えるんですが、90年代ってそんな70年代ファッションと色使いが多用されていたのー!!??
挿入歌 Karuppana Saamy ([あれは] カルッパン神だ)
受賞歴
2024 IIFA Utsavam 悪役演技賞(S・J・スーリヤ)
「マーク・アントニー」を一言で斬る!
・舞台が70年代と90年代ってのは、ノスタルジーと共に携帯電話が普及する前じゃないとお話が成立しないから?
2025.12.5.
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