インド映画夜話

燃えよスーリヤ!! (Mard Ko Dard Nahi Hota) 2018年 138分
主演 アビマニュ・ダサーニー & ラーディカー・マダン
監督/脚本 ヴァーサン・バーラー
"カンフーヒーローに、俺はなる"




 今、スーリヤの前にたくさんの暴漢たちが迫り来る。
 その男たちと素手で戦うスーリヤの目に、これまでの人生が走馬灯のように駆け巡るのだが…

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 生まれた直後にひったくり犯の起こした交通事故によって母を失ったスーリヤ・サンパトは、生まれついての無痛症。
 「4才まで生き残る方が珍しい」と言われながら、父親と祖父の努力もあって痛みを感じない身体で大怪我もせずに暮らしていた。しかし、そんな彼をいじめっ子から守ろうとする幼馴染スプリ(本名スプリヤー)への恩返しを考えていたスーリヤは、"痛み"を理解しないが故に暴力的なスプリの父親に大怪我を負わせてしまう。

 一家は、事件の責任をとって郊外のボロ屋敷に引越さざるを得なくなり、父サンパトは以降スーリヤに外出禁止令を下して家の中で徹底的な教育を施そうとする。「悪には制裁しないと、お母さんがかわいそう」というスーリヤの気持ちをくんだ祖父は、密かに格闘アクション映画を与えて「悪を倒したいなら、まず倒し方を学びなさい」と無痛症の彼のために護衛格闘術と水分補給用のリュックを用意する。父に隠れて独自に格闘術を学び始めるスーリヤは、やがて百人組手をやってのける有名な空手家マニに憧れ始め、彼に会いたいと言い出して…!!


プロモ映像 Rappan Rappi Rap (ラッパン・ラッピ・ラップ)

*本編には一切登場しない、ミュージカルクリップ!


 原題は、ヒンディー語(*1)で「男は痛みを感じない」。
 脚本家兼男優として活躍するヴァーサン・バーラーの、2本目の長編監督作(*2)であり、主役を演じるアビマニュ・ダサーニーの映画デビュー作。

 2018年にカナダのトロント国際映画祭ミッドナイト・マッドネス部門にて初上映されて観客賞を獲得した後、複数の映画祭での上映を経て翌2019年にインド、オーストラリア、クウェート他で一般公開開始。同年にはNetflixでも公開されている。
 日本でも19年末に「燃えよスーリヤ!!」のタイトルで一般公開。

 「インド・オブ・ザ・デッド(Go Goa Gone)」と同じく、冒頭急にテルグのメガスター チランジーヴィーのダンスシーンで本編が始まる本作は、やはり往年のカンフーアクション映画をはじめとした名作格闘映画をオマージュしたネタてんこ盛りのノリの軽い映画ながら、全体としてはきっちりしっかり家族ドラマ・恋愛劇・復讐譚をまとめ上げた骨太な物語を構築していってくれる。無痛症の格闘バカ、という設定を思いついた時点で半分以上映画の勝利は決まったようなものって感じではあるけれど、そこから人を喰ったかのような演出や、しっかりと家族間の情感ドラマを多重に織り込んでいくから効果絶大。その辺の、壮大さとは無縁でいながらも様々なアイディアを詰め込んでいく密度の高さこそ、インド映画界の贅沢さの象徴でありますわ。

 まあとにかく、画面的には長い手足を存分にぶん回すキレの良いアクションを見せつける登場人物たちのアクションスタイルがズルすぎて、超カッコEEEEー!
 これが映画デビューとは思えないアクションのキレと演技力を見せつけるアビマニュ・ダサーニーと言い、映画出演経験はあっても格闘アクションは初めてというヒロイン演じるラーディカー・マダンも、その縦横無尽の身体の動きがいちいちキッチリ決まっていて凄すぎますわ。マニ師匠とジミーの1人2役を演じているグルシャン・デーヴァイアーの憑かれたような役作りも併せて、ホンマとんでもね。

 にしても、(意図的演出とわかっていても)中国と日本の区別がついてるのかどうか気になる語り口は相変わらずだし、カンフー映画を期待して見てると微妙にそのセオリーから外れたお話が進行する感じなので、その部分の期待が高いと肩透かしをくらいそうではあるけれど、まあ、カンフーを売りにした映画でもないし、独自に体得した格闘技で無双する主人公に対して、それぞれに格闘術を身につけた壁が次々に立ちはだかる流れが軽快かつある程度コミカルに描かれるので、見ていてほんと気持ちいい。カンフー映画ではタブーであるはずの銃器を「あ、そういう使い方するんだ」って風に登場させてるのも良きかな(*3)。
 主人公スーリヤ、ヒロインのスプリ、空手師範マニと、それぞれに家庭的問題を抱えてそれに人生を振り回されている様を比較するように描く物語進行も良くできてるし、それぞれの家族のありようも興味深い。当然ながら、主人公家族が一番喜怒哀楽が複雑に絡み合って美しき家族関係を描いている、その情感の反映具合が「やっぱ、映画で大事なのは人間関係の変化による情感表現だなあ」とか思ってしまいますことよ。そこに加えて、次々打ち込まれる映画パロディネタも、どこまでわかってるのか自信のない身ではありますが、楽しいからよし。うん。
 なんと言うか、色々とある「やりたいこと」を混ぜわせていく過程で、予想外の化学反応に見舞われながら「あ、こっちの方がより面白いね」と周りの人たち自身が化学反応そのものを楽しんでるように見えてくる一本ではある。そう言う意味では、一概にコメディ劇だとか格闘アクションだとかカンフーオマージュとか言えない、もっと重厚かつ軽快、高密度でありながら王道な娯楽映画でございましょか。

プロモ映像 Nakhrewaali


受賞歴
2018 マカオ International Film Festival & Awards 若手主演男優賞(アビマニュ・ダサーニー)
2018 カナダ Tronto Internatinal Film Festival ミッドナイト・マッドネス部門観客選出賞


「燃えよスーリヤ!!」を一言で斬る!
・無痛症故に、後ろから叩かれても反応しないで気づかない、って時と気づく時があるけど、あれは衝撃具合を感じてるってことかしらん?

2019.12.30.

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*1 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。
*2 短編を含めると4本目。
*3 幾分それでいいの? って気もするけどもw