インド映画夜話

僕の可愛いビンドゥ (Meri Pyaari Bindu) 2017年 119分
主演 アーユシュマーン・クラーナー & パリニーティ・チョープラー
監督 アクシェイ・ローイ
"ビンドゥ…彼女はいつも。僕のトラブルの元だ"




 デビュー作で一躍話題の人となった大衆小説家アビマニュ・ブブラ・ローイ(通称アビ。家族&親友間ではブブラ)は、次回作の構想に煮詰まり、両親の催促もあってコルカタの実家に久々に帰省する。
 地元の友人知人の大歓迎に迎えられる中、アビことブブラは勝手知ったる隣家の屋上小屋から懐かしいカセットテープを見つけて、一時の思い出に浸る…。

 1983年。隣に引っ越して来た少女ビンドゥ・シャンカルナラヤーナンと仲良くなった少年時代のアビは、事あるごとに騒ぎを起こす彼女に振り回されつつも、そんな関係を楽しんでいた。「歌手になる」と言い出した時も、自分に黙って彼女が恋人を作っていた時も、いつもアビはビンドゥのそばにいた。しかし、彼女の母親が夫の過失で事故死してしまった後、ビンドゥは独り家を出てメルボルンの大学へと行ってしまったのだ…。


挿入歌 Ye Jawaani Teri (君の若さと僕の若さが)

*なんとなく、ブロードウェイっぽいミュージカルね。


 これが長編映画監督デビューとなるアクシェイ・ローイ初監督作であり、ヒロイン演じるパリニーティ・チョープラーの歌手デビューともなった、青春ロマンス・ヒンディー語(*1)映画。監督曰く「ビタースイートなラブストーリー」。
 日本では、2017年のIFFJ(インディアン・フィルム・フェスティバル・ジャパン)にて監督来日の上で上映。

 スランプに陥った小説家が「じゃあ、恋愛小説を書け」と言われて書き始めようとした構想の元ネタを追っていくうちに、幼馴染との淡く儚い、ノスタルジックな友情と愛情の狭間で揺れ動いた思い出に浸っていくロマンス映画。
 カセットテープにつまった、主役2人のお気に入り80年代(以降)ソングに乗せたノスタルジー青春劇って意味では、同じアーユシュマーン主演作「ヨイショ! 君と走る日(Dum Laga Ke Haisha)」みたいな話かな、と思いつつ見ていたけど、自分の記憶の中にある恋人とも親友とも言えない、どちらでもあるようでどちらかになってほしい、楽しく美しいあの頃をともに過ごした異性の記憶を掘り起こそうとする、爽やかな恋愛劇の一本。

 とにかく、主役アビ&ビンドゥ演じるアーユシュマーン&パリニーティの魅力が存分に発揮された青春劇で、時に大親友、時にケンカ友達、時に恋人や婚約者、時に相談相手にとその関係性がコロコロ変わる2人を追いつつ、それでも芯のところでは常に「かけがえのない相手」だと思い続けていたアビ側の思いをこれでもかと描いていく。
 元から可愛い系で売り込んでいたパリニーティの可愛らしさが初登場シーンから200%増しに増幅され、そんな彼女に翻弄されていくこと自体を楽しんでいるアビの可愛さも、それにつられて増し増し状態。2人の周りでワイワイ騒ぐ人たちも、なんとなく2人に引っ張られてその魅力を増幅させられてる感じがしてくる映画で、監督曰く「ビタースイート」な映画だと言いつつも、最初から最後まで人生の深みは発揮されても爽やかさは常に一定に保たれている、後味のすこぶる良い映画である。

 本作で監督デビューしたアクシェイ・ローイは、1979年マハラーシュトラ州ムンバイ生まれ。
 親の仕事の関係で幼少期をナイジェリアで過ごし、10才でインドに帰国。デリーの聖スティーブン大学でイギリス文化を学び、シェイクスピア劇に参加していたと言う。その後、米国マサチューセッツ工科大学に留学して映画製作を専攻。04年の「Vanity Fair」の助監督、「Lakshya」のキー・プロダクション・アシスタントで映画界入り。ミーラー・ナーイル監督作「その名にちなんで(The Namesake)」やアーミル・カーン初監督作「Taare Zameen Par(地上の星たち)」などの助監督を務めたのち、10年の短編ビデオ「All Is Well」で監督&脚本デビュー。12年の短編映画「Teacher 3.0」を経て、本作で長編映画監督デビューとなった。
 コルカタの空にドゥルガー女神像が現れる冒頭シーンで、なんか「その名にちなんで」と似た空気のある映画だなあ、とか思ってたらその映画に参加していた人の監督作と知って至極納得(*2)。

 子供の頃に出会った二人が、どこにでもある(*3)学生時代を過ごす中で友情を深め、ビンドゥがメルボルンに行ってからも手紙を介して頻繁に交流し、再開してからもビンドゥの一番の親友であろうとするいじらしいアビの視点で綴られる映像詩は、80年代インドを知らないこちらでもノスタルジックに「美しいあの頃の記憶」を刺激され続ける。
 似たような、幼馴染との堂々巡りの恋愛を描く「ラーンジャナー(Raanjhanaa)」との決定的な差は、そのテンポの良いエピソードの切り替えで、エピソードごとに主役二人の関係性に緩急がはっきりついてくる所か。その意味では、見やすくわかりやすい分、インド的な部分が薄く感じられるかも…しれなくもないかも?

 ラストのまとめ方も、特に意外性はないけれどノスタルジックな空気をそのまま保ちつつ、ビンドゥに「これはあなたから見た物語よ」と言わせることで2人の関係の決着(*4)をさわやかなまま描き切ることに成功している。特にこれといった大上段なテーマなり社会性なりは表立って出てこないものの、人間誰でもが経験するであろう「あの頃への懐古の念」をしっかりきっちり描いていく美しい青春賛歌は一見の価値あり。
 あそこまで自分の記憶を美化していいなら、ワタスもいくらでも美化しちゃいたいよー!(*5)

プロモ映像 Haareya (僕は君に心を奪われた)



「僕の可愛いビンドゥ」を一言で斬る!
・母親になったビンドゥは、なんとなーくアヌーシュカ・シャルマーとヴィディヤー・バーランを足して2で割った感じ?

2017.12.23.

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*1 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。
*2 偶然…というか、コルカタを描く記号としての常道演出ってことだろうけどw
*3 ビンドゥはハッチャケ過ぎか?
*4 とさらなる継続?
*5 あんな青春おくってないけども。うん。う、羨ましくなんかないんだからネ!