インド映画夜話

あなたがいてこそ (Maryada Ramanna) 2010年 125分
主演 スニール & サローニ・アスワーニー
監督/脚本 S・S・ラージャマウリ
"闘う男に武器は無用、あなたの愛さえあればいい!"






 時に1982年。アーンドラ・プラデーシュ州内陸ガンディーコータの、ラヤラセーマの土地争いから凄惨な殺しあいに発展した2つの家は、禍根を残したままその復讐の達成を熱望するラミニドゥ家と、故郷と縁を切って村を捨てた故ラガワ・ラオの妻子に別れて行った…。

 その28年後。ハイデラバードでボロ自転車で運送業をしているラーム(本名コベラムディ・ラーム。ラガワ・ラオの息子)は、母を亡くし天涯孤独に暮らすしがない男。
 しかし、自転車運送の限界を責められ職場をクビになり、途方に暮れていた所へ亡き父親所有のラヤラセーマの土地権利書が舞い込んでくる。「この土地を売れば三輪トラックが買える! これでクビを取り消せるぞ!!」とラームはさっそく自転車を慈善リサイクルに渡して、赤ん坊の頃に離れたままのまだ見ぬ父の故郷ヘと向かうことに。

 その道中、列車で相席になった美少女アパルナと仲良くなるラームだったが、実はアパルナは父の仇敵ラミニドゥの娘! そうと知らず土地の売却手続きのために"来客は精一杯に歓待すべし"がモットーの街の名家ラミニドゥ邸を訪れ、アパルナとの再会を喜ぶラームだったが、彼の素性を知ったラミニドゥは激高して密かに息子二人に命じる。「屋敷の中で血を流すことはしない。家の伝統を守るため、客は精一杯もてなし、家の敷居をまたいだ瞬間に…ヤツを殺せ!!」


挿入歌 Udyogam Oodipoyind (オレが何をした)



 原題の意味は、むんむん様にお教え頂いた所「ラーム兄貴へのおもてなし」(ご指摘頂きありがとうございます!)。
 テルグ語(*1)映画界の名匠ラージャマウリ監督による大ヒット・コメディ映画。本作は、1923年のバスター・キートンのサイレント映画「荒武者キートン(Our Hospitality)」の翻案ものとなる。

 テルグ語映画界で大ヒットするや、カンナダ語映画(*2)で同タイトルでリメイク作が、ベンガル語映画(*3)では「Faande Poriya Boga Kaande Re」のタイトルで、ヒンディー語映画(*4)で「ターバン魂(Son of Sardaar)」、タミル語映画(*5)で「Vallavanukku Pullum Aayudham」としてそれぞれリメイクされた。
 日本では、2014年に「歌って、踊ってインド映画祭」の1本として一般公開。2015年の高崎映画祭で上映。

 脚本家兼映画監督の父のもと映画一族の中で育ったラージャマウリ監督の、肩の力の抜けた軽めのコメディ劇ながら、しっかりリメイク元のキートン映画への敬意と、インド映画としての"らしさ"が融合している所は「さすが!」と喝采したくなる一本。普段コメディアンとして活躍している主役ラーム役のスニールの生み出すトボケた芝居もいい味出していてナイス。

 作劇と笑い、テーマや小ネタなどをまとめた、1つの映画としてずば抜けた構成力を発揮しているのは、リメイク作とはいえラージャマウリ監督作の真骨頂でしょうか。パンフの監督インタビューにもあるように、この映画はコメディでありながら「ドタバタ喜劇ではありません」し「俳優たちは誰もコミカルな演技はしていない」わけで、恋愛映画でもあるけれど「結末まで恋愛映画らしい場面はありません」。アクションも入っているのに「主人公が映画の中で戦うことはありません」こう言う映画は、世界のどこで見ててもどんな時に見てても楽しいものじゃないですか!! ああ、インド映画をめぐるその環境的底力たるや、羨ましい。

 主役ラーム役を務めるスニール(本名スニール・ヴァルマー・インドゥクリ)は、ハイデラバード出身の役者兼コメディアン。
 テルグのメガスター チランジーヴィーに憧れてダンサーを目指して数々のダンスコンテストに入賞するも、舞台パフォーマンスで活躍する場を見つけられず映画界に参入。1999年「Swayamvaram」で映画デビューしてから、悪役俳優を希望しながらコメディアンとして人気が出たため、主にテルグ語映画界のコメディ系名脇役として活躍している。2006年に「Andala Ramudu」で主役デビューし、本作が2本目の主役作となる。

 ヒロイン アパルナを演じるは、マハラーシュトラ州ウルハースナガル出身のモデル兼女優サローニ・アスワーニー。税務官の家に生まれ、大学で心理学を専攻する傍らモデル業を初め、、シュリーデーヴィーを目指して劇団に参加して演技を修得。
 2003年、ヒンディー語映画「Dil Pardesi Ho Gayaa(私の心は旅人のように)」で映画&主演デビュー。続いて05年には「Dhana 51」と「Oka Oorilo」の2本でテルグ語映画デビューしている。その他、07年に「Madurai Veeran」でタミル語映画に、翌08年には「Budhivanta(知的なる人)」でカンナダ語映画デビューも果たし、2012年のテルグ語版「Bodyguard(ボディーガード)」でSIIMA助演女優賞を獲得。現在、主にテルグとカンナダ映画界で活躍中。なんでも、本作の前にラージャマウリ監督が手掛けた大作「Magadheera(勇者パイラヴァ)」にカメオ出演してるんだそうで。

 最初の80年代のラヤラセーマの殺しあいの場面から、リメイク元の「荒武者キートン」の雨の中の決闘のオマージュとして雨が降り始める所がナイスだけど(*6)、ピストルによる決闘だったキートンに対し近接武器の斧で殺し合う所がとてもテルグ的。
 本作で異彩を放つ毒舌キャラな"しゃべる自転車(声はラヴィ・テージャー)"が、あまりにキャラが立っててラージャマウリの「リメイク元よりも、もっと面白くしてヤンゼ」って姿勢が見えるようでスンバラし。リメイク元が執拗に乗り合い汽車を茶化してるのに対し、そのインパクトに勝てるものをってことで出てきたアイディアですかね。これ見ると、いつも乗ってる自転車も丁寧に乗りたくなる不思議。

 リメイク元より拡大してるのがラミニドゥ家での屋内での"家を出る出ない"の駆け引き。
 キートンのギャグをそのまま引き継いでるのもあり、オマージュとしてモチーフのみ共通する物もあり(*7)、完全にオリジナルのものも多々ある。この辺の話運びも絶妙で飽きさせないし、ラミニドゥ家内部の事情も色々語れていくのが面白い。ロマンス要素として用意されたサローニの結婚式も嫌みなく物語に溶け込んで出演者の魅力をたっぷり魅せてくれて楽しい。ああ、その戯作力、演出力やスンバラし。なによりその音楽が最高なんですよ奥さん!!
 そして、ラストついに家の敷居をまたいでからの「さあ! どうなんの!!??」感やらインパクトやら!! 突然ズームアップされるシヴァリンガも意味深だし、ためにためまくって一気に動的なシークエンスの続くチェイスシーンはカッコEEEEEーーーーー!!!!

 それにしても、スケッチブックに絵を描くのが趣味ってだけで子供扱いするとは、インドの田舎はオソロシイですな!!(美大OBの意見)


挿入歌 Telugammayi (テルグの娘は)




受賞歴
2011 Nandi Awards 最注目人気娯楽賞・悪役賞(V・ナギニードゥ)・男性プレイバックシンガー賞(M・M・ケーラヴァニ/Teluguammyi)・審査員特別賞(スニール)




「あなたがいてこそ」を一言で斬る!
・お猿さんのスケッチ、モチーフの猿のポーズと絵のポーズが違い過ぎやしませんカー。

2014.9.12.

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*1 南インド アーンドラ・プラデーシュ州とテランガーナー州の公用語。その映画界を俗にトリウッドと言う。
*2 南インド カルナータカ州の公用語。その映画界を俗にサンダルウッドと言う。
*3 北東インド 西ベンガル州とトリプラ州の公用語。その映画界を俗にトリウッドと呼ぶが、テルグ語映画界を意味するトリウッドとは由来が別。
*4 インドの連邦公用語。その映画界を俗にボリウッドと呼ぶ。
*5 南インド タミル・ナードゥ州の公用語。その映画界を俗にコリウッドと呼ぶ
*6 その前に藁の山に火をつける所から画面的にほくそ笑むポイントかね?
*7 屋上のアンテナを使ったシーンは、「荒武者キートン」ラスト近辺の棒に引っかかったロープもろともアクロバティックアクションするシーンのオマージュかね?