インド映画夜話

ボクと結婚して! (2 States) (Mujhse Shaadi Karogi) 2004年 153分(161分とも)
主演 サルマン・カーン & プリヤンカ・チョープラー & アクシャイ・クマール
監督 ダヴィッド・ダーワン
"最後に彼女の心を掴むのは、誰!?"




 サミール・マルホートラは、生まれつき短気ですぐ手が出てしまう喧嘩っ早い青年。
 そのため何度も問題を起こして、小学生時代には幼馴染のアマンに何度もとりなしてもらう毎日だった。成長してもこの性格は治らず、ついには恋人に別れを告げられてしまう。傷心の彼は、祖母と妹を残してゴアのライフガードの仕事を見つけて旅立っていく…。

 ゴアに着いたサミールは、その日のうちに下宿の向かいに住むファッションデザイナー ラーニー・ジャグラージー・シンに一目惚れするも、占星術師ラージのアドバイスがことごとく裏目に出て彼女と彼女の家族から目の敵にされてしまう。そんな中、下宿先に転がり込んでルームメイトになった"悪たれ"サニーが、同じくラーニーに惚れ込んで彼女の家族と仲良くなって行くものだから気が気でない。
 ある日、ラーニーが念願のゴアのファッションショーにデザイナー出場しようとしながら、参加料を払えないために出場できないと聞いたサミールは、家族のために貯めていた貯金を使って匿名でラーニーに資金援助する。ショーが大成功のうちに終わって、匿名の援助に感謝するラーニーを祝福するサミールだったが、彼女の感謝の目はよりにもよってサニーに向けられて行くのだった…!!


Mulhse Shaadi Karogi (ボクと結婚しようよ?)


 原題は、ヒンディー語(*1)で「結婚しませんか?」。タイトルソングの歌詞としても、劇中台詞としても登場する。

 コメディ映画の名匠ダヴィッド・ダーワン監督の34作目となる監督作。クライマックス前後は、2003年のハリウッド映画「N.Y.式ハッピー・セラピー(Anger Management)」の影響を受けていると指摘されている。
 インドと同日公開で、英国、米国でも公開されているよう。英語題は「Will You Marry Me?」。日本では、2017年にNetflixにて「ボクと結婚して!」の邦題で配信された。

 まあ、今から見ると延々とボケ倒しのすれ違いシチュエーションコメディを畳み掛けている映画で、色々とムリクリな状況をいちいち作っては(一部不謹慎な)笑いに変えていく話芸コメディでお話を紡いで行く映画。
 当時まだ新人女優として話題作に恵まれていなかったと言うプリヤンカが、本作公開年に出演している5本のうちで最もヒットした1作って事で、この辺でもうコメディエンヌとしての可能性が彼女の中に見えてきたり……してんのかなあどうかなあ。劇中はまだまだ綺麗どころの域を出ていない感じだったけど(*2)。
 本作でIIFAコメディ演技賞を獲得したアクシャイ・クマールも、本作の大ヒットが人気の転機となったそうだけども、その後のアクシャイが演じる主人公に「何をしても裏目に出る不幸キャラ」が多いのも本作の影響…があったりするのかどうなのか。本作の時点で、意味もなくヘリに吊るされての初登場シーンが健在なのがなんとも。
 もうすでにマッチョ化が進行しているサルマンが、劇中では「短気だけど根は優しく純情」な性格の主人公と言うギャップに特に説明もなく、怒ると無敵ながら暴力が何も解決しない物語のマッチョの無駄遣いっぷりはステキ。うん。

 三角関係のラブコメの混乱っぷりを楽しむ映画でありつつ、無理矢理な話芸コメディを優先して構成しているところなんかは、脚本担当のアニーズ・バーズミーの特色が強目に出ている風でもあるか。後のアニーズ監督作群に通じるドタバタ感が強い感じで、恋愛面の描写は結構おざなりというか、思わせぶりにしといて解決があっさり気味。手品によって嫌われているヒロインの心が一気に一目惚れモードになって、告白受け入れまでノンストップで行っちゃう豪腕ぶりが逆に清々しいわ!

 本作監督を務めたのは、1955年(または1951年)トリプラ州都アガルタラのパンジャーブ人家庭に生まれたダヴィッド・ダーワン(生誕名ラジンデル・ダーワン)。
 弟に男優アニル・ダーワン、息子に男優ヴァルン・ダーワンと映画監督ローヒト・ダーワン兄弟、甥にTV男優シッダールト・ダーワン(弟アニルの息子)、映画監督クナール・コーリーや映画監督プニート・マルホートラがいる。
 銀行マネージャーであった父の転勤でウッタル・プラデーシュ州カーンプルに転居してそこの学校に通った後、マハラーシュトラ州プネーのFTII(*3)俳優コースに進学。生まれ故郷の隣人からもらった"ダヴィッド・ダーワン"を芸名にして活動するも、早々に俳優には向かないと悟り編集コースも受講。リッティク・ゴトク監督作「雲のかげ星宿る(Meghe Dhaka Tara)」に感銘を受けてから映画制作に没頭して、金メダルを研究所から贈られたと言う。
 1978年のパンジャーブ語(*4)映画「Laadli」から編集担当として映画界入り。以後、ヒンディー語映画の編集の仕事を手がける中で、89年のヒンディー語映画「Taaqatwar(強力)」で監督&脚本デビュー。この年にはさらに3本の監督作を公開させ、以降ヒンディー語映画界におけるコメディ映画の巨匠として有名になっていく(*5)。
 2014年の監督作「ヒーローはつらいよ(Main Tera Hero)」でBIGスター・エンターテイメントの娯楽コメディ映画賞を獲得したのを始め、いくつかの功労賞を贈られてもいる。

 ゴアが主な舞台となる本作でありつつ、実はムンバイのフィルム・シティとモーリシャスに作られた大規模なセットで撮影されていて、その詳細さで美術監督シャルミシュタ・ローイに多くの美術賞をもたらした映画でもある。撮影のために、街1つをポンポン作ってしまうインド映画の元気さは、まあ羨まし。
 そんな元気さに満たされた本作は、タイトルに反して三角関係のドタバタを描くというよりは、不幸がついて回る主人公にさらに不幸を振りまく性悪男とのドタバタを楽しむ映画になっている感じで、なにはなくてもその主役級2人を演じるサルマンとアクシャイの(無駄に明るい)元気さが一番の魅力になっている。ラストの恋愛の決着も、男女の感情の機微よりも、この2人のねじれた友情にこそその魅力を発揮してるお話になってるのは、本作が初共演と言うサルマン&アクシャイの相性の良さ(*6)のなせる技ですかねえ…。ボケ倒しコメディをこの2人が担当してる事で、2人の周辺で解説役に回る占星術師役のラジパール・ヤーダヴが終始ツッコミ役を担当しているのも微笑ましい。

 微笑ましいといえば、ラストあたりにいきなり登場するプロのクリケット選手たちが、演技なんて初めてだろうに台詞ありのツッコミ演技を事もなげに堂々とやり通して出演しているのも凄い。インド人は、なんでそう人目に触れることにそんなに抵抗もなく堂々としているのか。印度の神秘の深淵を覗くようですわ〜。



挿入歌 Aaja Soniya (愛する人よ)




受賞歴
2005 Screen Awards 美術監督賞(シャルミシュタ・ローイ)
2005 Stardust Awards 明日のスーパースター女優賞(プリヤンカ・チョープラー)
2005 Global Indian Film Awards 助演男優賞(アクシャイ・クマール)・衣裳デザイン賞(ヴィクラム・パードニス)
2005 IIFA(International Indian Film Academy Awards) コメディ演技賞(アクシャイ・クマール)・美術監督賞(シャルミシュタ・ローイ)・BGM賞(サリーム=スレイマーン)・振付賞(ファラー・カーン / Laal Dupatta)・衣裳デザイン賞(ヴィクラム・パードニス)


「ボクと結婚して!」を一言で斬る!
・全てがすれ違って行き場所をなくした傷心のサミールが宣言して言うのが『人が全くいないアンダマン・ニコバル諸島に行く』って、ヒンディー人にとってアンダマン・ニコバル諸島ってそう言うイメージなんだ…。

2023.10.7.

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*1 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。フィジーの公用語の1つでもある。
*2 本人の演技力というより、役の脚本的扱いで、だけども。
*3 インド映画&テレビ研究所。
*4 北西インド パンジャーブ州の公用語。パキスタンでも最大言語人口を持つ言語。
*5 監督デビュー作から、男優ゴーヴィンダをよく起用する事も話題になっている。
*6 なのか、共闘アピール具合なのか。