インド映画夜話

ヒーローはつらいよ (Main Tera Hero) 2014年 128分
主演 ヴァルン・ダーワン & イリヤーナー・デクルーズ
監督 ダヴィッド・ダーワン
"愛する人の前では、オレは悪役にもヒーローにもなれる…だから、オレの願いを叶えてくれよ神様"
"知らんわ、お前の願いなんぞ"




*突然のバルフィネタは卑怯w


 タミル・ナードゥ州ウーティ(=ニーダギリ県ウダカマンダラム)最大の問題児シーヌー(本名スリーナート・プラサード)は、自称"街1番の人気者"。その破天荒ぶりで大学は留年、クラスメイトからは「あいつに巻き込まれると不幸になる」と言われ、期末試験は担任を脅しまくってパス。そんな彼は「真人間になる!」をモットーにベンガルール大学に編入。その入学の日、神様に幸運をお願いしていた彼は、その直後、大学の美女スネイナー・ゴーラディアに一目惚れする!

 しかし、スネイナーにはすでに婚約者がいた。
 聞けば、彼女に一目惚れした悪徳警官アンガド・ネーギーが家まで押し掛け、親を脅して彼女との婚約を確定し、彼女に近づく男を次から次にリンチしていると言うのだ…。


挿入歌 Palat - Tera Hero Idhar Hai (君のヒーローはここにいるゼ)

*ボリウッドお得意の仰向けに落下するヒーロー像も、本作のシーヌーにかかるとこうなりますw(ある意味新しい?)


 ボリウッド(*1)のコメディ映画の帝王ダヴィッド監督が、「スチューデント・オブ・ザ・イヤー(Student of the Year)」で役者デビューした息子ヴァルンを主演に据えた脳天気ラブコメ映画。本作は、2011年のテルグ語(*2)映画「Kandireega」のリメイク作となる。
 日本では、2014年IFFJ(インディアン・フィルム・フェスティバル・ジャパン)にて上映。翌2015年にはJICA地球ひろばにて無料上映会が開催。

 基本的には、ボリウッドコメディの王道展開ながら、テンポは軽快だし、映画ネタ満載だし、アホな登場人物がこれでもかとアホに展開してる所がなんとも清々しい。日本人的にはインドのコメディの作り方ってのは時々「???」が続く事があったりするけれど、本作はそんな心配全く必要なしの爆笑必至な軽快ラブコメアクション映画でありました。
 元がテルグ語映画だからか、色々派手なアクションになりそうな所が用意されているものの、血なまぐさい展開を回避して笑いと軽いアクションに持ってくテンポはボリウッド仕様か。なんで舞台がベンガルール&バンコクなんだよ、ってツッコミも忘れるぐらい笑い転げてしまえば、イージャナイ!(*3)

 「スチューデント・オブ・ザ・イヤー」では、悪ぶりつつ実は純粋で大人になりきれない大学生を演じたヴァルン・ダーワンが、2作目の映画で演じたのは破天荒で、超のつくお調子者で、お馬鹿で何事にも口八丁で危険を切り抜け、でも純粋で自分の思った事は死んでもやり遂げるはた迷惑野郎!(*4)
 その無責任な話術が、いい具合に話をこんがらがせつついい感じに展開を盛り上げる。端で見てる分には"いるだけで面白いヤツ"になってる所がこの映画の最大の魅力でしょか。その意味では、ヴァルンの今後もかなり期待大。
 そのダンスパフォーマンスの確かさも相まって、サンジード=ワジードの音楽が最高に盛り上げてくれてスンバラし!

 話は、前半は大学の中で展開するラブコメ、後半はいきなりバンコクに舞台を移してのマフィアたちを巻き込んだ三角(四角?)関係のラブコメ展開で、最初こそ「スチューデント・オブ・ザ・イヤー」を引きずった設定かいなと思ってたらあにはからんや。やっぱりそこはダヴィッド監督作。笑わせるためにはなにからなにまでも作り上げるその姿勢…キライジャナイゼ。
 いつも目を大きく見開いて瞬きしてないじゃないかと心配になるヒロイン スネイナー役のイリヤーナーも、後半登場のセカンドヒロイン アイーシャ役のナルギス・ファクリーも、綺麗所をそろえました的な扱いだったのがさみしいとは言え、その魅力を十分発揮し続けてるのはサスガ。アンガド役の09年映画デビューの若手アルノーダイ・シンも含めて、若手俳優のための売り込み映画としても成功…してる?
 そこにベテランのサウラブ・シュクラやアヌパム・ケール、ラジパール・ヤーダブなんかが配置されてるのも親心か、若手への監督心(?)か。マフィアの使いっぱジョニー役のシャクティ・カプールの無理矢理感が大好き。
 大笑いしたのは、神様の声役のサルマン・カーンの無駄遣い。シーヌーに無理矢理なお祈りされてグチる神様(*5)が、全員サルマンの声で「お前の事なんか知らんわ」と返すのが楽しすぎる。インドの神様は自由すぎるよ!!


挿入歌 Shanivaar Raati (土曜の夜は [眠れない])




受賞歴
2014 Life OK Now Awards 作品賞・主演男優賞・監督賞・月間女優パフォーマンス賞(イリヤーナー)・月間音楽賞(サンジード=ワジード)・男性歌手賞(アリジット・シン/Palat)・女性歌手賞(シャルマリー・コールゲイド/Besharmi Ki Height)・助演女優賞(ナルギス・ファクリー)・月間シーン賞
2015 Apsara Film Producers Guild Awards コミック・ロール賞
2015 IIFAインド国際映画批評家協会賞 コミック・ロール賞(ヴァルン)




「ヒーローはつらいよ」を一言で斬る!
・バンコクにはインド人しかいないのか? …とか言ってはいけません。うん。

2015.4.10.
2015.7.26.追記

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*1 ヒンディー語娯楽映画を指す俗語。ボンベイ(現ムンバイ)+ハリウッドの造語。
*2 南インド アーンドラ・プラデーシュ州とテランガーナー州の公用語。その娯楽映画界を俗にトリウッドと呼ぶ。
*3 劇中のベンガルール大学のロケ地がどこなのかが、気になる所だけど。
*4 いい所がなにもないゾ!!w
*5 ガネーシャ、クリシュナ、さらにはキリスト!