レディース・オンリー (Magalir Mattum) 2017年 140分
主演 オールヴァシー(歌も兼任) & バーヌプリヤー(歌も兼任) & サランヤー・ポーンヴァンナン(歌も兼任) & ジョーティカ
監督/脚本/作詞 ブランマ
"さあお嬢様方、大胆に、どこへでも歩いていこう"
"虎を追い払う、殻竿のように"
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1978年のマドラス(現タミル・ナードゥ州都チェンナイ)の裏通り。
ルームメイト同士の5人の少女たちは、お祭りの日に映画を見るためこっそり学生寮を抜け出し、そのうち3人が瓦礫をよじ登って映画館を目指していく…。
「無理だよ。先生にバレたら退学だよ! 私たちが言いつけてやるんだから!!」
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時は移り2016年のチェンナイ。
ドキュメンタリー作家のプラバー(本名プラバーヴァティ)は、米国を旅立つ夫を見送った後、仕事と家庭事情で義母である個人塾講師ゴームス(本名ゴーマター・シルクラヤッパン)の家にしばらく厄介になることになり、同時にチェンナイを題材としたドキュメンタリー取材も始めていた。そんな彼女は、ゴームスにiPadの使い方を教えながら、SNSを駆使してゴームスの希望の元、彼女の昔の親友を見つけ出すことになる。
かつて…カトリック系全寮制学校に通っていたゴームスとラー(本名ラーニー・アムリタクマーリー・ゴータンダラマン)、スッブ(本名スブラクシュミー・マンガラムールティ)は、夜中に寮を抜け出して映画を観に行こうと計画した友人グループの中にいて、計画が学校側に発覚した事から、非タミル・ナードゥ州出身者のゴームスたち3人だけが退学処分になっていた。
そのラーがアーグラに住んでいることを突き止めたプラバーは、ゴームスと一緒にアーグラへと旅立って旧友との再会を演出。さらにスッブがハイデラバードにいることも同時に判明する。女嫌いの夫や選挙に出馬する息子のために良妻賢母を演じるラーも、文句ばかりの義母と酒浸りの夫の世話ばかりで美容師になりたいという夢を諦めたスッブも、家族のしがらみから抜け出せない毎日の暮らしの中、ゴームスとの思い出話の間だけかつての元気さを取り戻していく。ついに、プラバーの提案のもと、半ば強引に3人の親友たちは"女性だけでの"北インド旅行へと旅立っていく事に…。
OP Adi Vaadi Thimiraa
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原題も、タミル語(*1)で「女性だけ」の意。劇中で、プラバーが提案する主要女性キャラ4人の旅のことを指した用語に、色々な意味が仮託されたタイトルか。
2015年の「Kuttram Kadithal(手痛い失敗)」で監督デビューした、ブランマ(・G)の2本目の監督作。1994年の同名タミル語映画とは別物、のはず(*2)。
インドより1日早く英国、クウェートで公開が始まり、インドと同日公開で米国、オーストラリア、デンマーク、フランス、ニュージーランド、シンガポールでも一般公開されたよう。日本では、2018年のICW(インディアン・フィルム・ウィーク)にて英訳タイトルを使った「レディース・オンリー」の邦題で上映。
クリエイターとして活躍するジョーティカ演じるプラバーの思いつきによって引き合わされる、世間や家族に縛られ続けるかつての親友3人の女性たちのSNSを介した再会の幸福感と、38年という時間が積み上げてきた人生の苦難、捨て去った青春との再会、"レディース・オンリー"の旅の間の解放感とそれぞれの家庭の閉塞感のギャップを鮮やかに描いていく女性応援賛歌な1本。
なんと言っても、主演の大女優ジョーティカよりもさらに上世代の女優3人を結集させて生き生きとした喜怒哀楽をこれでもかと演じさせる、中年女性大活躍映画の元気さ、少女期と現在との思い出の応酬からくるノスタルジーの美しさ、長い人生をしっかり背負った大人たちのささやかな幸せの姿、可愛らしく、美しく、物悲しく、したたかな人生応援劇に仕立ててある映画のなんと爽やかさなことよ!
旅の道連れの旧友3人のうち、ゴームスを演じたのは1969年ケーララ州コッラム県コッラム生まれのオールヴァシー(別名ウルヴァシー。本名カヴィタ・マノランジニ。生誕名カヴィタ・ランジニ)。
祖父は有名なマラヤーラム語(*3)作家ソーラナド・クンジャン・ピッライ。父親は男優チャヴァラ・V・P・ナーイルで、姉も女優カラランジニとカルパナ、兄(弟?)も映画出演経験のあるカマル・ローイとプリンス(*4)と言う芸能一家出身。
学生時代に州都トリヴァンドラム(現ティルヴァナンタプラム)に住んでいた頃からマラヤーラム語映画やカンナダ語(*5)映画に子役出演していて、高校時代にタミル・ナードゥ州都マドラス(現チェンナイ)に移住してタミル語映画「Mundhanai Mudichu(サリーの結び目 / 1983年公開作)」で本格的に女優&主演デビュー。サヴィトリー・アワード主演女優賞他の映画賞を獲得。この映画の大ヒットによって翌1984年にタミル語映画だけで15本もの映画に出演する映画スターにのし上がり(*6)、同年に「Rustum」を始め3本の映画でテルグ語(*7)映画にもデビュー。以降、タミル語映画を中心に南インド映画で大活躍して数々の映画賞を贈られている他、TV番組司会や映画脚本、プロデューサー、歌手(*8)としても活躍中。
3人の旧友の1人ラー役には、1967年アーンドラ・プラデーシュ州イースト・ゴーダーヴァリ県ラージャムンドリー(*9)近郊のランガンペーッタ生まれのバーヌプリヤー(またはバーヌー・プリヤー。生誕名マンガバーヌー)。妹に女優シャンティプリヤーがいる。
テルグ人家庭生まれで、マドラス(現チェンナイ)に家族で移住。ダンススクールで見出されて1982年のタミル語映画「Thooral Ninnu Pochchu(霧雨は止んだ)」の主役に抜擢されるも、役に対して若すぎるとの理由で降板させられ、翌1983年の「Mella Pesungal(早く話して)」で正式に映画&主演デビュー。さらに翌年の1984年には「Sitaara(星)」でテルグ語映画デビューし、同年にはさらに8本ものテルグ語映画に出演する人気スターになり、その舞踏力を武器にのちに「もう一人のシュリーデーヴィー」と称される人気を勝ち取っていく。
1988年のテルグ語主演作「Swarna Kamalam(黄金の蓮)」でフィルムフェア・サウスのテルグ語映画主演女優賞他を受賞。以降、テルグ語映画を中心に南インド映画界で活躍して数々の映画賞、功労賞も贈られている。1998年の結婚で一時アメリカ移住して女優業を縮小するも、娘と共にインド帰国して女優業を継続。TVシリーズ出演や番組司会としても人気を博している(*10)。
3人の旧友の最後の1人スッブを演じたのは、1970年ケーララ州アーラップラ県生まれで、タミル・ナードゥ州都マドラス(現チェンナイ)育ちのサランヤー・ポーンヴァンナン(生誕名シェーラ・クリスチーナ)。
父親は、キリスト教徒の映画監督A・B・ラージ(本名アントニー・バースカル・ラージ)。
1987年のマニ・ラトナム監督作のタミル語映画「Nayakan(英雄)」で映画&主演デビュー。1989年の「Neerajanam」でテルグ語映画に、同年の「Artham(目的)」でマラヤーラム語映画にもそれぞれデビューして、タミル語映画界を中心に各言語圏で活躍。1991年からはタミル語TVシリーズ「Penn」を始めTV界でも活躍が始まり、1996年の「Appaji(アッパジ)」でカンナダ語映画デビューも果たすも、同年には他に5本の映画出演をしながら前年の結婚で一旦この年で女優引退する。
その後、2000年のタミル語TVシリーズ「Veetuku Veedu Looty」で女優カムバックを果たし、2003年にはタミル語映画「Alai(波)」で映画復帰して以降、主に母親役で人気を取り戻して、2005年の「Thavamai Thavamirundhu(懺悔とともに)」、2006年の「Em Mahan(我が息子)」で2年連続フィルムフェアのタミル語映画助演女優賞を獲得。以降もタミル語映画を中心に大活躍していて、数々の映画賞を獲得している。
2014年の出演作「Ennamo Nadakkudhu(なにか起こっている)」で挿入歌の1曲"Meesa Kokku"を担当して歌手デビューもしていて、本作でも挿入歌"Time Passukkosaram"を担当している。
監督を務めるブランマ(・G)は、タミル・ナードゥ州都チェンナイのコーダーンバッカム地区で育ち、チェンナイの大学で物理学士と経営学修士を取得。学生時代にパントマイム全国選手権に優勝したのを皮切りに舞台パフォーマンスでも活躍し続け、数々の舞台演劇の脚本・演出を手掛けていたと言う。
演劇組合の設立や、州立エイズ対策協会のプログラム地域マネージャーや共同ディレクターを務めたりと、社会福祉事業やアート活動支援などを手掛ける中、2015年のタミル語映画「Kuttram Kadithal」で監督&脚本&作詞を務めてナショナル・フィルムアワードのタミル語映画注目作品賞他数々の映画賞に輝く。続く2017年の本作でも大ヒットを飛ばし、2022年からはタミル語TVシリーズ「Suzhal: The Vortex」を始め複数のTVシリーズ、配信ドラマの監督を務めている。
かつてタミル語映画界において、深刻なセクハラ問題告発を掲げた画期的な映画として知られた1994年の同名映画(*11)のタイトルを踏襲させているのも意図的な演出ってやつで、家庭だけでなく世間一般、出産や子育てで様々に人生が変遷していく女性の生活の変わりようが、1994年の世相をノスタルジックに思い出せながら、変わらない社会の姿と変わっていく世の中を同時対比的に描いていく意図も含んでいるか。あっけらかんと現状を受け入れてたくましく生きていく姿を見せながら、家族や社会のしがらみから自身の希望を諦めていくことをも受け入れていくことを当然のこととされたゴームスたちの世代。それに対して「明日生きるために、旅に出るよ!」と積極的に情報機器を駆使して事態を変えていこうと動くプラバーたち下の世代の元気さは、変わっていく世代の現れか、少女期の反抗心を忘れない個人の気概の表れか。プラバーが仕掛ける3人のレディースたちへのサプライズが、旧友との再会と解放的な旅にとどまらず、その家族をも巻き込んで個人の尊厳を取り戻すまでを描いていく目端の細やかさが、娯楽としても小気味好い。
早速、3人の旧友演じる大女優たちの過去作をチェックしたくありますことよ。と同時に、少女期の3人を演じた新人女優さんたちの未来にも大きな期待をしてしまいますわー! 特に大人しい現在のラーに対して、やたら強気な態度の少女期のラーの姿の対比が鮮やかすぎて、この2人の共演とかまたどこかで見たいですわー!!
挿入歌 Gubu Gubu Gubu
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受賞歴
2017 Vikatan Awards 原案賞
「MaMa」を一言で斬る!
・カトリック学校の体罰がわりと強めなのは、ヨーロッパの教育方針の影響? インドの元々の教育方針?
2025.9.5.
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*1 南インド タミル・ナードゥ州の公用語。スリランカとシンガポールの公用語の1つでもある。
*2 こちらの映画にも、本作主演のウルヴァシー…と本作出演のナーサル…が主演していたりする!
*3 南インド ケーララ州と連邦直轄領ラクシャドウィープの公用語。
*4 17才で自殺したと言う。
*5 南インド カルナータカ州の公用語。
*6 そのため、忙しすぎて学校を中退する事になったそう。
*7 南インド アーンドラ・プラデーシュ州とテランガーナー州の公用語。
*8 本作でも、挿入歌"Carratu Pottazhaga"を担当している。
*9 現トゥールプ・ゴーダーヴァリ県ラージャマヘンドラヴァラム。
*10 本作では、ラー役の他に挿入歌"Karu Karunnu"の歌も担当している。
*11 本作出演しているナーサルが悪役で、オールヴァシーがヒロインの1人で出演している。本作でもその役を投影して2人に役作りさせている? 最初に2人が出会うシーンでわざわざゴームスが驚いてブツブツ言ってるシーンが入ってるけど…。