|
政治大会 陰謀のタイムループ (Maanaadu) 2021年 147分
主演 シランバラサン・TR & S・J・スーリヤー他
監督/脚本 ヴェンカト・プラブ
"現れて 撃って 死んで リピート"
時は、過ぎ去れば2度と戻らない。
……もしも、戻ったとしたら?
時に2019年10月10日。
デリーからコインバートル(現タミル・ナードゥ州コーヤンブットゥール県都コーヤンブットゥール)行きの飛行機に乗ったアブドゥル・カーリクは同じ機内で、飛行機恐怖症で、カーリクの目的地と同じウーティーで開催される友人の結婚式に向かう女性シーター・ラクシュミーと知り合う。
そのままシーターと共に結婚式場に到着したカーリクは、友人たちと密かに計画していた花嫁ザリーナ・ベーガム駆け落ちの手配を進めて行くが、何も知らないシーターの一言で大騒ぎになる中、なんとか花嫁の駆け落ちを成功させた……と思った瞬間、婚姻登録所に向かう途中不意に飛び出してきた男を車で牽いてしまう!!
重症の男を運び出そうとした矢先、集まってきた警察の尋問を受けるカーリクたちは見知らぬ廃屋に連れて行かれ、警部から「あの男がやるはずだった仕事を、代わりにお前がやってほしい」と脅される。そのまま、コインバートルの政治大会に運ばれたカーリクは、記者に変装して集会の真ん前に立たされ、持たされた拳銃で州首相を撃てと命令される…「そんな! 俺にはできません!!」「聞こえたか? 今、新郎が死んだぞ。やらなければ、次は花嫁とその付き添いも撃ち殺す」「なにを…? …冗談はやめてくれ!」
友人たちの命を人質に取られたカーリクは、ついに拳銃を発砲。州首相を殺してしまうが、パニックになる群衆の中で警察たちに囲まれ、問答無用で射殺される……!!
***************
その瞬間、カーリクは飛行機の中で目を覚ました。そこは、デリーからコインバートルへ向かう機内。隣には、飛行機恐怖症のシーターがお祈りをしている最中だった…
挿入歌 Meherezylaa (末永く幸せに)
原題も、タミル語(*1)で「公開党大会」の意。劇中で、主人公が巻き込まれる政党大会のこと。
制作中、主演男優シランバラサンの過去作の損害賠償金問題が拡大し、一時プロデューサーが降板。シランバラサンとタミル映画プロデューサー評議会との対立激化、コロナ禍を受けて複数回制作が中断される憂き目にあったものの、延期された公開初日から大きな評判を勝ち取って大ヒットした。
日本では、2021年に千葉にてSPACEBOXによる自主上映で英語字幕版が初上陸。2024年には「政党ラリー」の邦題で再度英語字幕版が上映された他、シネ・リーブル池袋 週末インド映画セレクションでも上映。翌25年にはインディアンムービーウィーク @ 鹿児島ガーデンズシネマにて「政治大会 陰謀のタイムループ」の邦題で日本語字幕版が上映され、DVD/BDも発売。
親友の結婚式出席を名目に駆け落ち支援でコインバートルにやってきた主人公が、政治家と警察が大規模に介入する暗殺計画に巻き込まれ、殺される以外の選択肢がなくなったところを何度もタイムループしてやり直していく不条理な体験を描いていくSFサスペンス。
2015年の「昨日・今日・明日(Indru Netru Naalai)」から始まる、タイムトラベルものタミル語SFの中で、早速出てきましたよ無限ループものの傑作が。
劇中、タイムループを意識した主人公の説明で、その原因として「マドゥライを通過したから」という説明がいちおうあるものの、根本的な部分ではタイムループの因果関係はハッキリしないまま物語が進行するのは、この手のお話の常道展開(*2)。そのゴールを「生き延びるだけではダメだ。州首相暗殺を止めなければ」と推測して突き進む中、暗殺計画の裏側が1つ暴露されていくたびに死んでいくカーリクのタイムループが加速していく様が、最後までその加速度を緩めることなく怒涛のごとく突き進んでいくパワフルさが凄まじい。警察が、組織として陰謀に関わっていて、さらに暗殺者や政党内対立、身代わりにされる無実のイスラーム教徒側の事情もタイムループごとに徐々に見えてくる物語進行の密度の濃さも鮮やか。最初の結婚式のミュージカルですらタイムループの時間経過・人間関係・その裏側で動いていた伏線的事情として描き出していって、カーリク1人が記憶を引き継いでいるタイムループの理不尽さを加速させるさまも楽し美し面白い。
こんな混みいった映画を作り上げた監督は、1975年タミル・ナードゥ州都マドラス(現チェンナイ)生まれのヴェンカト・プラブ(生誕名ヴェンカト・クマール・ガンガイ・アマレン)。
父親は歌手兼作詞家兼役者兼映画監督のガンガイ・アマレン(生誕名アマル・シン)。叔父に音楽監督イライヤラージャがいて、兄は役者兼音楽家のプレムジー・アマレン。親戚に音楽家ユーヴァン・シャンカル・ラージャ、歌手バーヴァタリニ、歌手カールティク・ラージャがいる音楽家一族出身。
大学卒業後、従兄弟のユーヴァン・シャンカル・ラージャとカールティク・ラージャのデモ曲の歌手を務めて歌手デビュー。兄プレムジー・アマレンと友人S・P・B・チャランと共にバンド"ネクスト・ジェネレーション"を結成する。バンド活動の傍ら、父親の監督作「Poonjolai」の主演に迎えられるも制作途中でお蔵入りに。その後の2本の映画出演も途中凍結となってしまう中、2002年公開のタミル語映画「April Maadhathil(4月になって)」の脇役出演で正式に映画デビュー。翌2003年の「Unnai Saranadainthaen」で主演デビューを果たす。
以降、タミル語映画界で俳優活動していく中、友人S・P・B・チャランをプロデューサーに迎えて2007年の「Chennai 600028」で監督&脚本デビューして大ヒットを飛ばし、タミル・ナードゥ州映画賞の最優秀家族映画賞他を獲得。「カルトクラシック」作品と称され一気に注目映画人にのし上がっていく。2016年には続編「Chennai 600028 II: Second Innings」の監督&脚本&台本&原案を務める中、プロデューサーデビューもしている。
2001年にダンス講師と結婚。2人から生まれた娘シヴァニは、5才にしてアルバム「Thaaaii」で歌手デビューしているそうな。
主人公アブドゥル・カーリク役には、1984年タミル・ナードゥ州都マドラス生まれのシランバラサン(・テシング・ラジェンダル。通称シンブ、S.T.R.とも)。
父親は映画監督兼役者兼プロデューサー兼音楽家兼カメラマンで政治家でもあるT・ラジェンダル(本名ヴィジャイ・テシング・ラジェンダル)。母親は女優ウーシャ・ラジェンダルで、弟は役者兼音楽コンポーザーのクラララサンになる。
1984年(*3)の父親の監督作「Uravai Kaatha Kili(つながりを守るオウム)」で子役出演してから、主に父親の監督作で子役として活躍。"リトル・スーパースター"とあだ名され、1989年の父親監督&主演作「Samsara Sangeetham」では助演の他、コーラスで歌手デビューもしている。
2002年の父親監督作「Kadhal Azhivathillai(愛は決して壊れない)」で主役デビュー(*4)。2004年の1人2役主演作「Manmadhan」では脚本デビューもしていて、2006年の主演作「Vallavan(達人)」で監督&台本デビュー。2013年には、テルグ語(*5)映画「バードシャー(Baadshah)」の挿入歌"Diamond Girl"の歌手を担当して、テルグ語映画デビューもしている。
以降も、タミル語映画界で俳優活動を中心に活躍する中、2017年の主演作「Anbanavan Asaradhavan Adangadhavan(愛しく、諦めず、怯むことなく/別意 制御不能な男)」が興行不振に終わったことをプロデューサーのS・マイケル・ラヤッパンとアディクから公然と批判され、シランバラサンの女優からの評判の悪さ、スケジュールやロケ地、出演者やスタッフ配置を勝手に変える行為によって大損害を被ったとして出演料の支払いを拒否することを宣言。事態を重く見たタミル映画プロデューサー評議会はレッドカードをシランバラサンに発行して、当面の新規プロジェクト参加の禁止を言い渡すも、シランバラサン側はレッドカードをの受け取り事実そのものを否定している。世間で数々の論争を巻き起こすも、シランバラサンは2020年の1年間だけ活動休止した後、映画出演を継続。活動復帰となる2021年の主演作「Eeswaran」と共に同年公開の本作もまた復帰作として大々的な人気を勝ち得ている。
パンデミック中の活動休止期間、菜食主義になって30kg以上の減量に成功。古典舞踊バラタナティヤムも学び、インドのロックダウン解除からは映画だけでなくTVショーの司会としても活動している。
本作の悪役として、裏主人公的な存在感を発揮するダヌシュコディ警部を演じるのは、1968年マドラス州ティンネヴェーリ県(現タミル・ナードゥ州テンカシ県)ヴァスデヴァナルール生まれの、S・J・スーリヤ(生誕名セルヴァラージ・ジャスティン・パンディアン)。
物理学の学位取得のためマドラス(現チェンナイ)の大学に進学。卒業後、映画俳優を志して演技を特訓し始め、ホテル業やレジ係を掛け持ちしながら、K・バーギャヤラージ監督オフィスに見習いスタッフとして従事して映画界入りする。
助監督や端役出演が続いたのち、1996年のタミル語映画「Sundara Purushan(美しい夫)」「Purushan Pondatti(夫と妻)」それぞれで1曲ずつ挿入歌の作詞を担当(*6)。映画スター アジット・クマールに見出されて1999年のアジット主演タミル語映画「Vaalee」で監督&脚本&歌手デビュー。フィルムフェア・サウスのタミル語映画作品賞ノミネートされた他、多数のリメイク作も生み出されるほどの評判を勝ち取っていく。続く2本目の監督作「Kushi(幸福)」も好評を得て、2001年の同名テルグ語リメイク作、2003年のヒンディー語(*7)リメイク作「Khushi(幸福)」も監督して、2つの言語圏映画にもデビューしている。
3本目の監督作「New(ニュー / *8)」をアジット主演作で用意していたところ、他の仕事でアジット起用が叶わなくなったため、自身で主演することを決めて主演&プロデューサーデビュー。同時製作テルグ語版「Naani」では、マヘーシュ・バーブを主演に迎えて自分はカメオ出演している。しかしこの映画と、続く2005年の主演&監督作「Anbe Aaruyire(愛する人)」の劇中描写が性的であると問題視されて、検閲委員会に刑事告訴されて裁判に発展。2度逮捕されているが、すぐ釈放されてもいる。
その後、業界から注目されながら立て続けに映画企画が途中凍結される事が多くなると、一旦監督業を止めて俳優業に専念。以降、タミル語映画界で俳優として活躍中、2010年のテルグ語映画「Puli(虎)」から、断続的ではあるものの監督業にも復帰している。
映画中盤から、意外(…でもないけど)な人物のカーリクのタイムループ介入によって、時間の巻戻りは別の意味を持ち始め、それぞれに「今」の時間軸での駆け引きと、記憶を継承していない周りの登場人物たちを巻き込んでの生きるか死ぬかのハッタリ合戦の怒涛の盛り上がりは、最後までノンブレーキで加速し続ける。南インド映画でも珍しいイスラーム教徒主人公の意味付けもそこそこに、リベラルな主人公側とリベラルが故に「金のために動く」を信条とする警察や政治家の極悪さ(腐敗が過ぎる!)の対比と必死さが、タイムループごとにドンドン重層されていくんだから登場人物たちが必死であれば必死なほど、乾いた笑いが止まらなくなりますってばよ。
全てが解決したと思われた瞬間に襲い来る次なる不条理をオチに使うのも卑怯なほど楽しい仕掛けってヤツで、イキッた奴らのイキな計らいによるイキイキした終幕の加速し続けるお話の勢いも…わたしゃ大好物でイッキに見終わってしまう。監督をそのままに、続編と他言語圏でのリメイクが企画されているというけれど、どこまでも話が続けられそうな気もするので不用意にドンドン作っておくれでないかいー!!!
プロモ映像 Voice For Unity (団結の声)
受賞歴
2022 SIIMA(South Indian International Movie Awards) タミル語映画主演男優賞(シランバラサン)・タミル語映画悪役演技賞(S・J・スーリヤー)
「政治大会」を一言で斬る!
・で、結局主人公が飛行機待たせてまで登場するほどの重要人物だというのは、なんだったのー!(運命論はひとまず置いといて)
2025.10.31.
戻る
|