マーリ (Maari) 2015年 132分(138分とも)
主演 ダヌシュ(製作も兼任) & ヴィジャイ・イェスダス & カージャル・アガルワール
監督/脚本/カメオ出演 バーラージ・モーハン
"お前を、仕留めてやる!"
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「警部補殿。貴方のお力はよく存じておりますし、この件を赴任したその日に指摘された方は今までいらっしゃいませんでした。だからこそ申し上げます。この件にかかわらないほうが身のためです…ここは、危険地帯なのですから…」
8年前。チェンナイのトリプリケーン地区にて、人気の鳩レース利権に関わる裏社会の抗争が勃発。一帯を仕切る紅木密輸業者のボス ヴェル子飼いの鳩飼い少年マーリが頭角を現し、次第にボスの信任を得て地区全体の利権を手中に収めていくように。しかし、マーリはつまらない騒動を連日起こすトラブルメーカー。そんな騒動全てを楽しむ彼を止められる者は誰もいない。
新任警部補アルジュン・クマールは、8年前の抗争中に殺人事件を起こしたという噂のマーリを、なんとしてでも逮捕するため証拠をつかもうと動き出す…。
ある日の朝、マーリ管轄の下町に無許可でデザイナーズブティックを開店させようとしている家族がいると聞いて乗り込んでいったマーリは、その店の娘シリデヴィの美しさにやられてしまい、悪態をつきながらも彼女の家族の居住を認めてしまう。
その後、鳩レースを乗っ取ろうとしてきたギャングボス ラヴィとの対立が続く中、シリデヴィ一家がラヴィ一党への借金でこの街に逃れてきて、借金返済のための資金繰りに苦しんでいることをマーリの部下たちは知らされた。折しも、そのラヴィがシリデヴィの店を差し押さえに来た時、普段はシリデヴィへの嫌がらせばかり続けていたマーリはラヴィを前に宣言する…「ここは俺のシマだ。俺が好きにする。俺のシマの人間は、俺たちが保護する!」
以降、マーリを気に入ったシリデヴィは彼の鳩飼い仕事を手伝うようになるが、部下から2人の仲を冷やかされたマーリは戸惑い始め、ギクシャクしかけた2人は、ある夜改めて関係修復のために話し合うのだった…
「貴方が嫌いというわけじゃないの。貴方の事が知りたいだけ。貴方は何者? 結局、街の人は貴方の事を恐れて嫌がってるのははなぜ? 昔なにかあったの? 暴力事件とか…殺人とか?」
「殺人…あれは殺人ってほどでもないがな。それでも、殺人は殺人だ…」
挿入歌 Maari Thara Local (マーリ、あんたは地元の威信)
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*最後の方で出てくる、マーリの真似をして一緒にメインで踊ってるのは、本作の音楽監督しているアニルド・ラヴィチャンデル。タミル音楽界を牽引する若手ホープを出して「ボスの誕生日パーティーで踊らせましょう」「変な服とサングラスなんかはずせ」とか言っちゃう、ギャングたちの俺たち流の音楽とダンスに、アニルド自身もノリノリで答えていくところが、もう!
タイトルは、主人公の名前。
短編映画監督出身のバーラージ・モーハン4本目の監督作となる、タミル語(*1)映画。主演ダヌシュの自社プロダクション製作の映画で、ダヌシュもプロデューサーの1人を務めている。
批評家からは賛否両論の評価を受けつつ大ヒットし、2018年には続編「Maari 2」も公開されている。
インドと同日公開で、オーストラリア、英国、アイルランド、マレーシア、米国でも公開されたよう。日本では、2021年のIMW(インディアン・ムービー・ウィーク)タミル・クライム映画特集、IMWパート2にて「マーリ」の邦題で上映。
とにかく全編でノリノリの音楽が流れて、主人公演じるダヌシュの長い手足がキビキビ動く、ダヌシュの一挙手一投足が楽しい映画。そういう意味では、ダヌシュありきのダヌシュのためのマサーラー映画なんだけど、お話自体はマサーラー的な要素を詰め込んだ「売れる映画作ってみまっせ!」な気概を感じつつ、ギャング抗争劇も美女との恋愛も成り上がりストーリーも漫画的アクション演出も、王道を少しひねった穏やかな語り口でまとめた人情コメディ味が強い感じ。これは短編映画出身でラブコメ映画を作って来たバーラージ・モーハン監督の作風の影響か、ダヌシュを主演に迎えてマサーラーヒーロー映画を作ろうとすると、彼の醸し出す悲哀感が作り出すストーリーラインなのでしょか(*2)
下町の口やかましい人間たちには厳しいマーリが、鳩の飼育に見せる人には向けられることのない優しい態度、そのギャップが彼の頑なさ、スレた下町根性の表現にもなっていて、ダヌシュ映画の持つ悲哀感みたいなものも感じさせてくれる。そうは言っても小悪党マーリのやりたい放題のヤクザな性根は最後まで貫かれてるし、人との距離感がつかめない不器用さは治らない。所詮1地区を仕切るチンピラ止まりのギャングたちの器の小ささと、そこからくる団結力というか仲の良さ具合の微笑ましさが、語り口の陽気さと合わさって楽しい映画になっている。
そんな何処かで見たような下町ドタバタ劇を繰り返しつつ、アルジュン警部補の仕掛ける陰謀が露わになってくる中盤以降のどんでん返し、そこから変わってくる下町の勢力図・人間関係変化のひずみは刺激的で目が離せない。この辺が、批評家からの受けがいまいちでありながら観客動員数爆上がりにウケた要因でありましょか。
その、物語のキーキャラクターであるアルジュン警部補を演じたのは、1979年タミル・ナードゥ州都マドラス(現チェンナイ)生まれのヴィジャイ・イェスダス(・カッタセッリィ)。
父親は有名な歌手K・J・イェスダス(本名カッタセッリィ・ジョセフ・イェスダス)。祖父も古典音楽家兼舞台役者の(カッタセッリィ・)オーガスティン・ジョセフになる。
チェンナイの学校を卒業した後、米国留学して音楽の学士号を取得。1997年からカルナータカ音楽(=インド古典音楽)を学びはじめ、数多くの新旧音楽家たちとコラボして数々の楽曲制作に参加している。2000年のマラヤーラム語(*3)映画「Millennium Stars(ミレニアム・スター)」から本格的なプレイバックシンガーとして活躍。2007年の「Nivedyam」の挿入歌"Kolakkuzhal Vili Ketto"で、ケーララ州映画賞の歌手賞を獲得。以降も数々の映画賞、音楽賞を獲得している。
その人気に推されて、2010年のマラヤーラム語映画「Avan」で主演デビュー。続く本作でタミル語映画デビューして、以降、この2つの言語圏映画界で男優として、南インド全般で人気歌手として活躍中。
何処かで見たようなマサーラー文法を揃えつつ、2021年の「プシュパ(Pushpa: The Rise)」でも出て来た紅木密輸で成り上がる主人公像を先取りしてる感じもあり、そのスピーディーな展開は「プシュパ」以上に小気味好い。どこまでも小悪党なマーリ一党が、街の支配権を追われてもふてぶてしいリキシャーワーラーとして小悪党として街中で生き残っていく楽しさとアホらしさなんかは、往年の名作「バーシャ(Baashha )」へのオマージュかいな、といらん深読みも捗りますよ。このあたりまで来て、商店街の人々が「どっちも嫌だけど、頭下げてショバ代払うなら、ノリのいいマーリの方がいい」と態度で示すキメシーンは、この手の映画のパターンながらバーシャ的ヒーローをダヌシュが演じるならありですわ、と妙な説得力と威圧感にこちらまでひれ伏してしまいそう。まったく、チェンナイの下町で生活するのは、楽し大変そ。まず、ナメられないために丸縁サングラスとヒゲで武装したいでありますよ!
挿入歌 Don'u Donu'u Don'u (私は貴方の…)
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「マーリ」を一言で斬る!
・鳩に優しいギャング、と言いつつ持ち方は結構強め。カージャルが『撮影中に鳩とぶつかったりしたから、鳥恐怖症がなくなった』とかいってたそうだけど、そんだけやんちゃな鳩たちだった…のか?
2025.4.25.
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