インド映画夜話

Meow 2021年 135分
主演 ソービン・シャーヒル
監督 ラール・ジョゼ
"これは、砂漠のように乾ききった家族のお話"




 アラブ首長国連邦所属のラアス・アル=ハイマ首長国。
 そのオマーンとの国境沿いの町ワーディ・ガリーリアーに住むマラヤーリー(*1)のダスタキル(通称ダシューまたはドストエフスキー)は、インドのケーララ州出身。亡き父が設立した食料品店の後を継ぐためこの町に引っ越して来たものの、結婚直前に野良猫のせいで交通事故に遭ってから、胸痛を患い続けている。

 過剰なストレスのせいだと診断する主治医の言いつけ通り、ヨガ教室に通い、食料品店運営では出来るだけストレスを感じないよう笑顔を振りまくダスタキルだったが、古い店は電気配線がすぐ故障するわ、請求書は大量だわ、売り物を勝手に食べるスタッフはいるわで心の休まる暇もない。ドバイ在住の別居中の妻スレーカーは毎朝ビデオ通話で小言ばかりだし、3人の子供達ルバ、アシーム、ルーミはダスタキルの嫌いなペットの猫ダイアナで騒ぐし、長女ルバは勝手に彼氏と結婚の約束をしてるようだしで、ヨガ講師お勧めのストレス解消方(誰もいない所で、皿を地面に叩きつける)もなかなか効き目がない。

 ストレスフルな毎日にどんどん意固地になっていくダスタキルは、ある夜家に帰ってくると、空き家のはずの隣家に潜り込むダイアナの行く先で見知らぬ女性を発見する。
「誰だ? ここで何をしている?」
「…私は、仕事をするためにここに来ました。アゼルバイジャンからです……ジャメーラと言います…家政婦として雇われるはずだったんです」
 困惑するジャメーラを見たダスタキルは、迷惑が1つ増えた所でなんでもないと彼女を自宅に案内し、弟分チャンドランと子供達の前で「新しい家政婦さんが来た」と紹介。彼女を家に住まわせることにするが、これを知ったスレーカーは…


挿入歌 Mehajabi


 タイトルは、英語で猫の鳴き声のこと。
 アラブ在住の猫嫌いの男が巻き起こす家族劇マラヤーラム語(*2)映画。

 実際にラアス・アル=ハイマ首長国で撮影されたと言うインド映画、ってだけでも目新しい景色の連続で興味深い映画なわけだけど……予告編で予想されたほどには猫映画でも、猫飼いあるある映画でもなく、意固地な主人公によって崩壊し再生していく家庭をじっっっくり描く家族映画でありました。

 主要登場人物のほとんどがイスラーム教徒(*3)と言うのも、インド映画…特に南インド映画では珍しい(*4)。それでもお話は特にイスラーム圏を意識する話ではなく、どこにでもある意思疎通がおろそかになって機能不全を起こしているご家庭のディスコミュニケーションそのものを描いていく話で、要所要所で家族間の緊張や緩和状態に転機が起こるシーンに飼い猫ダイアナが顔出す程度。最後のどんでん返しで、猫が担っていた意味が立ち現れていく構成は見事ではあるものの、物事があまりにスムーズに、静かに、のんびりと進むので、眠気とはまた違う形で飽きがくる映画にはなってしまっているか。
 まあ、冒頭の野良猫が起こした交通事故といいインド映画における猫の扱いは、やっぱりネ、と言いたくなる酷さになるはこの映画でも健在なのが、覚悟したほうがいい点ではありますが…。イスラーム圏では猫は大人気な動物なのに、なんでインドはそうなんでしょうねえ…。

 ラアス・アル=ハイマで暮らすインド系移民たちの様子が、どこまでリアルなのかはわからないけど、それなりに広い家に暮らし、(ある程度)自分たちで全てを賄っているとはいえ、そこまで不自由していないで、普通に中流家庭を営んでる「普通さ」をどこまでも描こうとしているかのよう。
 後半知り合う、大学時代の同級生たちに招かれて初めて主人公が行く家族ぐるみの同窓会にて、大学時代の熱血漢だったあの頃を回想する主人公の人生の重みとともに、異郷において団結する同郷人たちの相互補助の様子もリアルでありつつ、日々の慰みとしてのパーティーと、そこで披露される各々の芸能の技を見て「うちの子供が、こんなにも人を感動させる歌を歌えるなんて」と言う驚きに見える、インド人たちの持つ歌や踊りの必要性を強調するシークエンスも興味深い。厳しい日常や家族の悲喜こもごもにあって、同じ言葉と衣食住を共有する人々との触れ合いを促進させる慰みに、歌と踊りはもってこいなんだねえ…。

 人気映画俳優に混じって、主人公の子供たちを演じる子役もあまりに自然でインドの子役たちは相変わらず芸達者だなあ…と感心してしまう演技を見せつけられるわけですが、映画スターに混じって新人教育的な側面もありそうなキャスティングの中で、しっかり存在感を見せていたジャメーラ演じるヤスミーナー・アリドドヴァの情報が錯綜していてよくわからないのが悔し。インド人歌手兼女優とか、ドバイを中心に活躍する歌手兼ダンサーで演技経験もあるマルチタレントとか出てくるんですけど、将来有望な人、なんかし、らん…? と言うか、アラブ諸国って映画に厳しいイメージが強いけど、それなりに映画誘致や女性タレントの進出とか進んでるんでしょかどうでしょか。あまり見たことのない、インド視点から見たアラブ社会を爽やかに描く映画として、注目して行くのも、ありかもしれませんゼ。



挿入歌 Chundeli




 


「Meow」を一言で斬る!
・インド映画の携帯の呼出音で、ジ○リ音楽聴けるとわ…。

2025.10.17.

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*1 マラヤーラム語を母語とする集団。






*2 南インド ケーララ州と連邦直轄領ラクシャドウィープの公用語。
*3 途中から家族に関わる家政婦ジャメーラがクリスチャン。主人公の弟分であり同居の使用人? チャンドランが、名前からしてヒンドゥー教徒? の他は全員イスラーム教徒のよう。
*4 南映画ではマラヤーラム語映画界では、そこまで珍しくない…こともない?