インド映画夜話

マジック (Mersal) 2017年 169分
主演 ヴィジャイ
監督/脚本 アトリ
"さあ、祭りが始まる"




 その夜、救急車の運転手・薬剤仲買業者・病院マネージャー・外科医と言う医療従事者たちが誘拐される事件が次々と発生。
 警察は、すぐさま貧民地区に住む"5ルピー先生"ことマーラン医師を一連の事件の犯人として逮捕。担当警部ラトナヴェルは、廃屋にマーランを連行して尋問を開始する…。

 マーラン医師。彼は、無償医療確立を目指す世界医学会の改革を推進する人物で、パリにて表彰を受けるほどの人物。貧困層からたった5ルピーかそれ以下の治療代しか取らないで高等医療を行う彼を、人々は尊敬を込めて"5ルピー先生"と呼ぶ。
 そのパリにて、高額医療ビジネスを推進するダニエル・アロッキヤラージ医師の秘書をしているアヌー・パーラヴィは、ギャングに襲われている所をマーランに助けられて思いを寄せていく。彼が招待してくれたマジックショーに上司ダニエルとともに出席したアヌーは、素晴らしい手品の数々を披露するマーランに驚くものの、そこで手品"死の箱"に参加したダニエルが、そのままマーランに殺される所を目撃する…!!


挿入歌 Aalaporaan Thamizhan (タミルよ、世界の規範となれ)


 ヴィジャイ主演作「テリ(Theri)」を手がけたアトリ監督の、3作目の監督作となるタミル語(*1)映画。
 2017年度最高売上を記録したタミル語映画であり、今まで「イライヤタラパティ(若大将)」とクレジットされていた主演男優ヴィジャイが、「タラパティ(大将)」に昇格した第一号映画となった。

 フランスでプレミア公開された翌日に、インドと同日公開でオーストラリア、英国、アイルランド、ミャンマー、米国で、1日遅れでデンマーク、クウェート他でも公開。テルグ語(*2)吹替版「Adirindhi (別題 Adirindi)」、ヒンディー語(*3)吹替版でも公開。
 日本では、2017年にSPACEBOX主催で英語字幕上映で初上陸。翌18年のICW(インディアン・シネマ・ウィーク)にて日本語字幕付きで上映された他、2021年のIMW(インディアン・ムービー・ウィーク)パート3、2023年のマーダム・オル・マサラ、同年のIMWでも上映。2024年には兵庫県の塚口サンサン劇場にて1週間限定上映、シネ・リーブル池袋のゴールデンウィークインド映画祭で上映されてもいる。

 本作は、劇中で語られる医療制度の腐敗が医療界や現政権への批判に当たるという論争を巻き起こして、該当シーンの削除が要求される大騒ぎになっていったと言う。ツイッター上でも、これに反応して「#MersalvsModi」の大論争が行われていた。

 もう、映画全編ヴィジャイの三面六臂の大活躍を映し出す、ヴィジャイによるヴィジャイのためのヴィジャイ映画。劇中でも、何度も"タラパティ"と呼ばれ賞賛されるヴィジャイ演じる主人公が、全てをなぎ倒し、難題を解決し、未来を切り開き、弱気を助け悪をくじく。その全てがヴィジャイが如何にカッコ良いかをアピールしまくるスター映画であり、ヒーロー映画である超絶テンションに彩られた前代未聞のパワフルな映画ですことよ。
 個人的には、物語構成としては「テリ(Theri)」とか「Thalaivaa(指導者)」の方が好きな私なんですが、好きだ嫌いだという前に映画そのものの持つ圧倒的パワーに「ハハ〜」とひれ伏したくなってしまう。その溢れまくってダダ漏れしているヴィジャイのスターオーラの光輝にやられまくりですよ。あそこまで主人公推しで、社会悪を徹底的に攻撃する映画なのに、それでもエンタメ的ド派手な物語がちゃんと成立して楽しめるんだから、その話術のスゴさも、無茶な映像力学的説得力も、スター映画の継承される伝統もハンパなさすぎやで!
 ヴィジャイのタラパティ昇格を祝うが如く、三者三様のヒロインとのロマンスとミュージカルの多彩さ・画面的カラーリングの違いも豪華の一言(*4)。そのヒロインごとに、見せ場ごとに、物語展開ごとに色々な魅力を見せつけてくるヴィジャイの圧倒的スターオーラと演技力の幅がハンパねえ! 外科医とマジシャンという、指先の細かな技術と知識を要する仕事の、一見共通点のなさそな2つの要素を明暗の対比として見せてくるたー、カッコ良すぎてため息しかでねえですよ!(しなくても良い深読み)

 それにしても、どこかで「中国やインドでは、出産はだいたい帝王切開が主流。病室もベッドも常に足りないし、みんな吉日を誕生日にしたいと一族で言ってくるし、自然分娩なんて痛いの嫌がるから」と聞いてたけど、余裕のある富裕層の話だとしても、その辺なんかを考えて行くと医療界のみならずもっと問題の根は深いんじゃないかなあ…と思わんでもない。まあ、医療ミス隠蔽による社会問題は実際にインドでシャレにならない事件を起こしてるみたいだし、インドのみならず世界中でも色々に出てくる問題だけどねえ。

挿入歌 Maacho (マッチョ)


受賞歴
2018 Ananda Vikatan Cinema Awards 主演男優賞(ヴィジャイ)・音楽監督賞(A・R・ラフマーン)・女性プレイバックシンガー賞(シュレーヤー・ゴーシャル / Neethanae)・衣裳デザイン賞(ニーラージャー・コナ & アルチャー・メータ & コマル・シャハーニー & パラヴィ・シン & ジャヤラクシュミー・スンダレーサン)・話題・オブ・ジ・タウン賞
2018 Edison Awards 監督賞・悪役賞(S・J・スールヤー)・男性プレイバックシンガー賞(サティヤプラカーシュ / Aalaporaan Thamizhan)・作詞賞(ヴィヴェーク)・振付賞(ショービ)・撮影賞(G・K・ヴィシュヌ)・美術監督賞(T・ムトゥラージ)
2018 Filmfare Awards South タミル語映画助演女優賞(ニティヤー・メノン)・タミル語映画音楽監督賞(A・R・ラフマーン)
2018 英国National Film Awards UK 外国作品賞
2018 Norway Tamil Film Festival Awards 作詞賞(ヴィヴェーク)・女性プレイバックシンガー賞(シュレーヤー・ゴーシャル / Neethanae)
2018 Techofes Awards 作品賞・監督賞・主演男優賞(ヴィジャイ)・悪役賞(S・J・スールヤー)・男性プレイバックシンガー賞(サティヤプラカーシュ / Aalaporaan Thamizhan)・女性プレイバックシンガー賞(ポージャ・ヴァイデャナート / Aalaporaan Thamizhan)・作詞賞(ヴィヴェーク)・振付賞(ショービ)・撮影賞(G・K・ヴィシュヌ)・美術監督賞(T・ムトゥラージ)
2018 Vijay Awards 注目作品賞・注目監督賞・注目歌曲賞(Aalaporaan Thamizhan)
2018 South Indian International Movie Awards 監督賞・悪役賞(S・J・スールヤー)・音楽監督賞(A・R・ラフマーン)・作詞賞(ヴィヴェーク / Aalaporaan Thamizhan)・男性プレイバックシンガー賞(シド・スリラーム / Macho)


「マジック」を一言で斬る!
・世の中には、いったい何人のヴィジャイ顔がいるんだー!!!(イイゾモットヤレー)

2018.9.22.
2021.11.26.追記
2023.5.6.追記
2023.6.17.追記
2024.2.24.追記
2024.4.13.追記

戻る

*1 南インド タミル・ナードゥ州の公用語。
*2 南インド アーンドラ・プラデーシュ州とテランガーナー州の公用語。
*3 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。
*4 最初のヒロイン アヌー演じるカージャルとのシーンは、パリと言いつつロケはポーランドやマケドニアで行われたそうだけど。