インド映画夜話

ミルチ (Mirchi) 2013年 154分
主演 プラバース & アヌーシュカ・シェッティ & リチャー・ガンゴーパディヤーイ
監督/脚本/原案/台詞 コラターラ・シヴァ
"お前はまだ変わらないのか? まだ変われないのか!?"




 イタリアはミラノに住むインド人青年ジェイは、ある夜暴漢に追われるインド人留学生マナサを暴力に頼らず助けたことで、徐々にその仲を縮めていく。
 いつしか二人は友達公認の仲になって楽しい時を過ごすものの、マナサはある晩「あなたとは一緒にいられない。私の実家の村は、殺人と復讐がいつも続いてるような場所。卒業したら、ここみたいな幸せな人生はもうないの」と別れを切り出してくる…。

 次の日、ジェイはマナサに告げずにインドへと帰り、彼女の従兄ポールナが通っている大学に編入して学校を支配する彼のグループに取り入っていく。ついにポールナの信頼を勝ち取ったジェイは、「今度の休みに行く所がないなら、俺の実家に来ればいい」と誘われてマナサの故郷であるグントゥール県マチャーラ近郊のイルグヴァーラム村にやって来るが、その日も村は復讐に狂う派閥争いによって人死を出していた。
 同じ頃、ミラノからマナサもまた村に帰省していて、従兄の友人としてジェイを紹介されるのだが…!!


挿入歌 Mirchi (チリ [チリ、チリ、彼は一味違う香辛料のよう])

*メインで踊ってるのは、マハラーシュトラ州プネー出身の女優兼モデル ハムサー・ナンディニ。


 コラターラ・シヴァ監督デビュー作となる、2013年大ヒットテルグ語(*1)映画。
 タイトルは、テルグ語で「チリパウダー」の意だそう。「刺激的なヤツ」とか「ヤベえこと(もの?)」「山椒は小粒でもピリリと辛い」みたいな意味? 真っ赤な唐辛子が集まってタイトルを作る冒頭部分のカッコよさよ!!

 公開後に、ヒンディー語(*2)吹替版「Khatarnak Khiladi」、カンナダ語(*3)版リメイク「Maanikya(ルビー)」、ベンガル語(*4)版リメイク「Bindaas」も公開されている。
 日本では、2013年にIndian Panaroma in JAPAN主催で埼玉県にて(字幕なし版で?)上映。2019年には、Indoeiga.com主催の「#魅惑のテルグ映画〜プラバース編」にて「Darling (ダーリン)」とともに埼玉県のSKIPCITY川口で英語字幕上映。2021年には、配信サイトJAIHOにて「MIRCH/ミルチ」のタイトルで配信。


 テルグ映画でよく見る、因習に支配された辺境農村部にやって来た主人公が、その人間性を高らかに謳い上げ人々を因習から解放する物語は、「あなたがいてこそ(Maryada Ramanna)」や「Brindavanam(ブリンダーヴァナム屋敷にて)」と共鳴する部分も多い。なんか、前半の舞台となるマナサの実家が「あなたがいてこそ」に出て来たお屋敷に似てるなあ…テルグの田舎の屋敷はみんなあんな構造なのかしらん、とか思ってたら、やっぱり「あなたがいてこそ」で使われていたセットを流用したものだったそうな。納得。
 こうした過去の名作テルグ・マサーラー映画を踏襲する形で進む本作はしかし、暴力と非暴力の狭間とその悲惨な結果を見せつけつつ、既視感のあるモチーフをつなげて全く新たな映画を作り上げることに成功している傑作でもある。映画前編と後編で劇的に変わる内容と、その家族劇・恋愛劇・コメディ劇・勧善懲悪アクションが、時にフルスロットルな過激さをもって、時に叙情的な感情のうねりをもって映画を盛り上げて来るんだから「マサーラー演出ってすげえ!」でありまする。

 この大ヒットした傑作が初監督作となる、コラターラ・シヴァ(*5)はアーンドラ・プラデーシュ州グントゥール県グントゥール生まれ(*6)。
 元々はソフトウェアエンジニアとして働いていたものの、従兄弟ポサニ・クリシュナ・ムラーリーのアシスタントで映画界に参加し、テルグ語映画のダイアログライターの仕事を請け負うことになる(*7)。本作で監督デビューして大ヒットを飛ばし、以降も監督兼脚本家として活躍中。本作でナンディ新人監督賞を受賞した他、16年の監督作「Janatha Garage(国民整備工場)」でもナンディ人気映画作品賞と脚本賞を受賞している。

 前半のヒロイン マナサを演じたのは、1986年ニューデリーに生まれたリチャー・ガンゴーパディヤーイ(*8)。父親はネット開発会社の副社長を、母親は米国のIMLS(*9)理事会のメンバーをしているそう。
 幼い頃を米国ペンシルベニア州とミシガン州で過ごし(*10)、米国の大学で栄養学と健康管理学を修了する。在学中からモデル業を始めて、07年にミス・インディアUSAに選ばれ、翌08年にムンバイに移ってアヌパム・ケール演技学校で演技を習得。
 CM出演などを経て、10年のテルグ語映画「Leader(リーダー)」で映画&主演デビュー。11年度スーパーヒット・フィルム・アワード最優秀デビュー・オブ・ジ・イヤー賞を獲得する。その後もテルグ語映画を中心に活躍しつつ、11年の主演作「Mayakkam Enna(この幻はなに?)」でタミル語映画デビューしエディソン主演女優賞他複数の映画賞を獲得。翌12年には「Bikram Singha(獅子のビクラム)」でベンガル語映画にもデビューしている。

 インターミッション後に劇的に変わる物語に、前半ヒロインの扱いの軽さが気になるっちゃなるけれども、主役演じるプラバースを始め、非暴力を説くガンディー的にも見えるサティヤラージ演じるデーヴァや、後半ヒロインとしていろんな顔を見せてくれるアヌーシュカ・シェッティ演じるヴェンネラーなど、後の「バーフバリ(Baahubali)」でも共演しているメンバーが別の演技力を見せつけて来るのも必見。超絶アクションで、その身体力とながーい手足の所作の美しさを見せてくれる主演プラバースの魅力全開の映画構成も素晴らしか。

 ま、ずっと育ててくれた母親をおいて、離れて暮らしていた父親に会いに行った途端父親の方に肩入れしまくりな主人公に「やっぱこういう所は、母性よりも父性の方に軍配が上がるのが、マサーラー映画のお約束なのかねえ」って感じではありをりはべり…(*11)。まあ、それによって起こる悲劇が、家族劇をより濃密に盛り上げてくれるわけですが。

挿入歌 Barbie Girl (バービー・ガール!)


受賞歴
2013 Nandi Awards 作品金賞・新人監督賞・主演男優賞(プラバース)・悪役賞(サンパート・ラージ)・美術監督賞(A・S・プラカーシュ)・男性プレイバックシンガー賞(カイラーシュ・ケール)
2014 Filmfare Awards South 男性プレイバックシンガー賞(カイラーシュ・ケール / Pandagala Digivachavu)
2014 South Indian International Movie Awards テルグ語映画悪役男優賞(サンパート・ラージ)


「Mirchi」を一言で斬る!
・インドの大学に転校してきた初日のジェイ、着てるTシャツのカラーリング的に鉄人28号みたいだなす。

2018.5.4.
2019.3.2.追記

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*1 南インド アーンドラ・プラデーシュ州とテランガーナー州の公用語。
*2 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。
*3 南インド カルナータカ州の公用語。
*4 北東インド 西ベンガル州とトリプラ州の公用語。
*5 またはシヴァ・コラターラ。
*6 劇中舞台と同じ県ですよ!
*7 この時「Brindavanam」にも、脚本アシスタント兼台本担当で参加していたそう。
*8 生誕名アンターラー・ガンゴーパディヤーイ。
*9 米国大統領承認の美術館・図書館サービス研究所。
*10 一時、タミル・ナードゥ州コインバートルに住んでいたこともあるそう。
*11 必ずしも、全部がそうとは限りませんけど。