インド映画夜話

Missamma 2003年 162分(150分とも)
主演 ブーミカー(・チャウラー) & シヴァージー & ラヤ
監督/脚本/台詞/原案 ニーラカンタ
"明日オフィスに来なさい。…テストを始めましょう"


挿入歌 Ney Padithey Lokamey Padadha (私が歌えば、世界も共に歌い出す)


 ムンバイにあるヴィッタル農園の主人ディーピカに会いに、インド有数の複合企業JPグループの会長メーグナ(通称マダム)がやってきた。
 頑固で高圧的な彼女は、家族ぐるみの付き合いであるディーピカに向かって「貴女が結婚しようとしている男は、財産目的のただの役立たずですよ」と言い放って驚愕させてしまう…!!

 同じ頃、JPグループのハイデラバード支社勤務の会計士ナンダ・ゴーパルは、愛する妻ラトナ・マーラーと養子の娘に囲まれて幸せな毎日を過ごしていた。
 順調に仕事をこなす傍、尊敬する故JP会長に読んでもらおうと書きためた経済論文の束を、今度会社に来訪すると言う現会長メーグナに見せようと奮闘する日々を過ごす。
 そんな会社を訪れたメーグナは、すぐにナンダを呼んでハイデラバードの自宅兼新オフィスを整えさせつつ、彼の論文を読んで力量を見定めにくる。
 「良きビジネスマンとは、その機会が来ることを待ってるような人ではないわ。私がここにいる2日の間、貴方の実力とやらを証明してみせなさい」
 「それではマダム、1つお願いが…」

 その翌日、ナンダに会長命令による解雇通知が届いていた…!!


挿入歌 Entha Sukhamidho (多くの喜びを与えてくれる [私の愛する人よ])


 タイトルは、テルグ語(*1)で「奥様」の意。劇中ではヒロイン メーグナへの尊称として出て来る単語ながら、冒頭以外では「マダム」と呼ばれてる方が多いような。副題は「she is the BOSS」。
 のちの2014年には、カンナダ語(*2)リメイク作「Namaste Madam(こんにちはマダム)」も公開されている。
 1955年の同名映画とは別物、のはず。

 当時デビューしたてのブーミカー・チャウラーの代表作の1つと聞いて、「やたら嫌味な悪役やってたのねえ」とか思って見てたら、またまた爽快なほどのドンデン返し映画で「ああ、これは人気出るわ」って感じのブーミカーの魅力全開さに支えられた映画でありました。

 高圧的で自己中な実業家セレブの横暴に振り回される庶民サラリーマンといえば、97年のヒンディー語映画「イエス・ボス(Yes Boss)」なんてのもあったなあ…と思いつつ、その女性上司版かと思ってたけど、物語はよりセレブたちの腹黒さが強調され、既婚者のサラリーマン主人公を徹底的に振り回し、人生をぶち壊し、家庭に介入して「私と結婚するために、今の奥さんとは別れろ」とムリクリな事言いながら大笑いしてる女性社長が、仕事そっちのけで主人公を攻撃し続けると言うセレブたちへの不信感、庶民層との対立感を強調した階級格差への不満を爽快に物語化したドラマツルギーになっておりました。
 セレブ社長が主人公を振り回す嫌味さをメインにして話をつなげているので、主人公たちの会社がなんの会社なんだとか、マダムの1日のスケジュールはどうなってるんやろとか、主人公の家とマダムの別荘はどれくらい離れてるもんやろかとか、そう言う細かい背景は無視されてる感じで、セレブ社長はこう言う風に部下や庶民をいたぶるんでしょ、と言う庶民側の富裕層への偏見や諦観がそのまま形になってる所に、経済成長の勢いに乗っているインド社会における社会の分断や矛盾という現実の深刻さ、庶民側の声にならない悲痛が透けて見えてくるよう。

 本作監督&脚本を務めたのは、アーンドラ・プラデーシュ州ラーヤラシーマ県カダッパー(現カダパ)生まれの(G・)ニーラカンタ(・レッディ)。
 当初は法律大学に進学していたものの、映画への情熱に駆り立てられて大学をやめてチェンナイへと移住。94年に、タミル語(*3)映画「Priyanka(プリヤンカ / 93年のヒンディー語映画『Damini』のリメイク版)」で監督&プロデューサーデビューを果たす。続く2本目の監督作、02年のテルグ語映画「Show(ショー)」で脚本家デビューもしていて、ナショナル・フィルムアワードのテルグ語映画注目作品賞と脚本賞、ナンディ・アワード脚本賞を獲得。3本目の監督作である本作の大ヒットで大きな評判を勝ち取り、以降、テルグ語映画界で監督兼脚本家として活躍中。「Zam Zam」でマラヤーラム語映画監督デビュー予定とか。

 本作の顔と言えるマダム・メーグナを演じるブーミカーは、00年のテルグ語映画「Yuvakudu(青年)」で映画デビューして間もない期待の女優枠。すでにこの頃から貫禄の演技で、本作の演技を絶賛されてナンディ・アワード主演女優賞を獲得している。

 物語的主人公である翻弄されるサラリーマン ナンダ役には、1977年アーンドラ・プラデーシュ州グントゥール県ナルサルソペット生まれのシヴァージー。
 ジェミニTVの編集スタッフとして働いていた所、顔の良さが評判となってTVドラマ出演し、その縁から映画界からも声をかけられ97年のテルグ語映画「Master(マスター)」で映画デビュー。以降、テルグ語映画界で男優兼吹替男優として活躍。03年の本作で主演デビューして大きな評判を勝ち取り、同年公開作「Dil」では主演ニティン(・クマール・レッディ)の吹替を担当して、ナンディアワード吹替男優賞を獲得している。
 政治運動にも積極的に関わっていて、インド人民党員でありつつ、アーンドラ・プラデーシュ州の地位向上運動の中でテルグ・デサム党を支援していたそう。

 ナンダの妻ラトナ・マーラーを演じたのは、アーンドラ・プラデーシュ州クリシュナ県(現NTR県)ヴィジャヤワーダのブラーミン(=バラモン)家系に生まれた女優ラヤ。
 母親は高校の音楽教師、父親は医者という家で育つ。地元の学校に通う中で、チェスの州大会で7回優勝を果たし、全国大会でも2回準優勝していたそうな。ハイデラバードに移住後、古典舞踊クチプディを特訓してダンサーとして舞台で活躍しつつ、コンピューター・アプリケーションの学位を取得している。
 92年の子供用テルグ語映画「Bhadram Koduko」に子役(&主演?)出演して映画デビューし、99年の「Swayamvaram」「Maa Balaji」から本格的に女優としてテルグ語映画界で活躍。前者でナンディ・アワード批評家選出特別賞を獲得。00年の主演作「Manoharam(魅惑)」でナンディ・アワード主演女優賞を獲得している。
 その後、テルグ語映画への出演数を増やす中で、01年の「Maduve Aagona Baa(結婚しよう)」でカンナダ語映画に、05年の「Alice In Wonderland(アリス・イン・ワンダーランド)」でマラヤーラム語(*4)映画にもデビューしている。
 06年の結婚で米国ロサンゼルスに移住して女優引退となっていたものの、テルグ語神様映画「Brahmalokam To Yamalokam Via Bhulokam」で一時的に女優復帰。18年の「Amar Akbar Anthony(アマル・アクバル・アンソニー)」にもゲスト出演しているよう。

 素直で家族思いの主人公、良妻賢母で伝統を重んじる妻、その夫婦に迎えられて幸せな家庭を築く養子の娘、その全てをぶち壊す都会的・西洋的で自己中なセレブ社長という構図は、わかりやすさ優先のカリカチュアそのもので、その女性観も特に新規性なんてものもないほど使い古された対立構造ながら、「なんでそこまで、1社員の主人公の家庭を執拗に攻撃し続けるんだろう?」と言う疑問が、映画終幕の20分で見事に氷解し、それまでの善悪構図の全てがひっくり返るどんでん返しは「なにかあるんだろうな」と言うこちらの予想をはるかに超えてくる爽快さ。あまりの価値の転倒に、「そんなウマい話なんてあるかい!」とその理想的・願望的すぎる解決法にツッコミを入れるのも忘れるほど。
 徹底的に苦しみ続けた主人公家庭に対してもたらされる、その隠された事実によって、それまでの物語における価値観が別の側面に染められ、笑顔で主人公を踏みつけにするマダムの真の顔が現れる瞬間のインパクトは、毎度ながらインド映画の語り口の得意とする所であり凄まじい所。ベタベタな人物関係図や芝居・台詞の演出法が、最後にここまで効果を発揮すると言う、映画的インパクトは、まさに一見の価値あり。あなたも一瞬でブーミカーに魅了されること間違いなし! さあ、一緒にブーミカー社長に踏みつけにされましょーぞ!!!(アカン)



挿入歌 Andala Gummaro Aa Bapu Bommaro (妻の美しさは、娘のお人形にも並び得る)




受賞歴
2004 Nandi Awards 注目作品賞・主演女優賞(ブーミカー・チャウラー)・脚本賞(ニーラカンタ)・吹替女性声優賞(サヴィター・レッディ)
2004 CineMAA Awards 主演女優賞(ブーミカー・チャウラー)


「Missamma」を一言で斬る!
・主人公を脅し家庭崩壊の最終的な引き金を引く警察の名前が『アムジャード・カーン』って!!!(*6)

2024.4.13.

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*1 南インド アーンドラ・プラデーシュ州とテランガーナー州の公用語。
*2 南インド カルナータカ州の公用語。
*3 南インド タミル・ナードゥ州の公用語。スリランカとシンガポールの公用語の1つでもある。
*4 食だけでも小麦中心か米中心か、菜食か肉食か、アルコールを飲むかどうかも地域やコミュニティごとに大きく異なってくる。
*5 南インド ケーララ州と連邦直轄領ラクシャドウィープの公用語。


*6 【炎(Sholay)】の伝説的悪役ガッバル・シンを演じた役者名ですね!!