インド映画夜話

Mugamoodi 2012年 162分
主演 ジーヴァ & ナライン & プージャー・ヘーグデー
監督/脚本 マィスキン
"お前が死のうと勝手だが、マスクマンは死んではならない"
"…その武勇で、悪を滅ぼすまでは"




 インド中を荒し回る謎の強盗殺人集団が、ついにチェンナイでも活動を始めた。
 どんなに捜査しても手がかり1つつかめない警察は、極秘案があると言うガウラヴ警視長官に3日の猶予を与え捜索に当たらせる事に。ガウラヴは言う…「1つ、誰も信じるな。2つ、犯人逮捕まで単独行動するな。3つ、警察の制服はいらない。私服で捜査せよ」

 その頃、タミル・ナードゥ州チェンナイ下町の功夫(カンフー)道場に通う大学生アーナンド(通称"リー")は、ブルース・リーに憧れて修得した功夫を持て余していた。国際功夫大会優勝者を一瞬で倒すほどの実力を持ちながら、師匠チャンドルの道場の立て直しも出来ず、将来を悲観する父親とは口喧嘩の毎日。すさんだ生活の中、魚市場で暴れる彼の前に突然現れ、慌てる彼を警察に引き渡した女性にリーは怒り爆発!! しかし、その女性…シャンティの事を知るうちに、いつしか逆に彼女を恋するようになっていく…。
 彼女の気を引こうと、お手製スーパーヒーローの格好で彼女の家の前にやって来たリーだったが、格好つけることも叶わず、情けない姿だけを晒して帰る事になる。その帰り道、彼は偶然警察に追われる強盗団と鉢合わせしてしまい…!


挿入歌 Maayavi


 タミル語(*1)映画界初のスーパーヒーロー映画、とのこと。
 公開後、テルグ語(*2)吹替版「Mask」、ヒンディー語(*3)吹替版「Mahabali Ek Super Hero」も公開。
 ヒロイン演じるプージャー・ヘーグデーの映画デビュー作で、本作でSIIMA(南インド国際映画賞)の女優デビュー賞にノミネートされている。

 2006年の、ヒンディー語映画初のアメコミ風覆面ヒーロー映画となった「クリシュ(Krrish)」から6年。ついにタミル語映画界でも新たに覆面ヒーロー映画が登場! …って興味で見てみたら、こっちもこっちで独自に覆面ヒーロー映画を模索していて新鮮!!
 それまでのタミルヒーロー像のパターンを踏襲しつつ、冒頭にブルース・リーへの賛辞を捧げて、功夫アクションを本格的に導入した新風ヒーロー映画へと昇華させているのも素晴らしきかな。

 功夫自体、どこまでリアルなのかは詳しくないのでわかんないけれど、ワイヤーアクションを使った超スピード&超能力的スーパーパワーが売りの「クリシュ」に対して、流れるような功夫アクションのみで立ち向かうヒーロー像も目新しい(*4)。
 香港のスタントチームが多数参加し、主要キャストたちの6ヶ月に渡る功夫訓練によって、映画の説得力は格段にレベルアップされ、全体としてアメコミヒーローもの+ハリウッドテイストの功夫アクション映画って感じ。多少話や演出に強引さはあるものの、さまざまな格闘アクション映画を研究した上で作りたいものを明確にして作ってる感じに見えるのが、好感度大。ラストの決着の付け方も、格闘アクションものへの哀愁を漂わせて終わるあたり、ニクいよこのぅ。 
 これが映画2作目の音楽担当となったK(本名クリシュナ・クマール)のBGMも重厚で目新しくて、良きかな。

 主役"マスクマン"ことリーを演じたのは、1984年チェンナイ生まれのジーヴァ(生誕名アマル・B・チョウドリー)。父親は、スーパー・グッド・フィルムズ社長で高名な映画プロデューサーのR・B・チョウドリー。兄に映画プロデューサーのB・スレーシュ、製鋼事業家のジーヴァン、男優ジータン・ラメーシュがいる。
 父の手伝いで子役として映画デビューした後、03年の父親プロデュース作「Aasai Aasaiyai」と「Thithikudhe」の2作で主演デビュー。続く05年「Raam」で、キプロス国際映画祭の注目主演男優賞を獲得。翌06年には「Keerthi Chakra」でマラヤーラム語映画にもデビューし、07年に幼なじみのインテリアデザイナー スプリヤーと結婚。本作と同じ12年には、「きっと、うまくいく」のタミルリメイク「Nanban(友は、いつまでも)」で助演、「Neethaane En Ponvasantham(君は、僕の黄金の春)」に主演、特別出演でテルグ語映画「Yeto Vellipoyindhi Manasu(僕の心はどこかへ行ってしまった)」にもデビューしている。
 なんでも、98〜02年にすでに功夫を習っていたとかで、本作に抜擢されたのはまさに適役も適役?(*5)

 敵役"ドラゴン"を演じるのは、1979年西ベンガル州コルカタ生まれのナライン。
 チェンナイのアディヤール映画研究所で撮影コースを修了して有名な撮影監督ラジーヴ・メーノンの元で働きはじめると共にモデル業も始め(?)、02年のマラヤーラム語映画「Nizhalkuthu(暗殺)」で俳優デビュー。主にマラヤーラム語映画で活躍しながら、06年にマィスキン監督作「Chithiram Pesuthadi(写真は語ります、愛する人よ)」でタミル語映画にデビューし、両映画界で活躍している。
 本作では、SIIMA(南インド国際映画賞)とヴィジャイ・アワードの悪役賞にそれぞれノミネートされている。

 ヒロイン シャンティを演じたのは、本作が映画デビューとなるモデル プージャー・ヘーグテー。1990年マハラーシュトラ州ムンバイ生まれ。両親はカルナータカ州ベンガルール出身で、母語はトゥル語(*6)。本作以前には他に英語、カンナダ語、ヒンディー語を習得していた。
 大学時代に、母親のネットマーケティング業を手伝ってその技術を学びながら、学内ダンスショーやファッションショーに参加してモデル業を始める。一度ミス・インディア2009に落選するも、翌年ミス・ユニバース・インディア2010で2位獲得、ミス・インディア・サウス・グラマラス・ヘアーに選抜されている。
 この成功によって映画界から声がかかり、本作に抜擢。慣れないタミル語台詞と格闘しつつ(*7)主演女優を演じきるも、批評家からは好評を得ることが出来なかったとか。
 この後、14年に「Oka Laila Kosam(愛する人から)」「Mukunda(ムクダ)」の2本でテルグ語映画デビューして好評を得、16年にはヒンディー語映画「死の丘(Mohenjo Daro)」でも主演女優を務めることとなる。

 まあたしかに、ヒロイン シャンティは綺麗所と言う立ち位置から一歩も出ないあつかいだし、ダンスも怪しい感じだけど、その美貌と愛嬌だけでインパクト大の有望株ですゼ〜…と、その後の活躍をある程度知った身で言ってみる。
 対する主役リー扮するマスクマンの、前半のダサダサ感からの映画後半のスーパーマン+バットマンかと言うマッチョスーツへの変身はナイスながら、そのマッチョっぷりで功夫スタイルがちょっと削ぎ落とされてるかな、って感じがしなくもない(*8)。覆面の目の周り部分の厚みが結構あるので、パッと見タレ目に見えてしまう角度があるとか、あの厚みで視界はどんだけ狭くなったんだろうとか、色々考えちゃう部分もあるけれど。
 あと印象的なのは、前半にはリーの良き助言者として、後半にはリー扮するマスクマンの良き協力者として登場するリーの祖父2人の強烈な存在感。ピエロコスプレといいホームズコスプレ(?)といい、タミルのお爺ちゃんは、精力的かつ芸達者だネ!!

病院内ファイトシーン(テルグ語吹替版)



「Mugamoodi」を一言で斬る!
・リーの祖父が語る名台詞『他人に尋ねるな、自分自身に尋ねろ』は、やっぱ『考えるな、感じろ』ヘの対抗意識からかな?

2019.1.25.

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*1 南インド タミル・ナードゥ州の公用語。
 この娯楽映画界は、製作拠点のチェンナイのコーダーンバーッカム地区+ハリウッドで、俗にコリウッドと呼ばれる。
*2 南インド アーンドラ・プラデーシュ州とテランガーナー州の公用語。
*3 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。
*4 ワイヤーアクションは多用されているけれど。
*5 本作企画当初は、スーリヤが主演予定だったそうだけど。
*6 カルナータカ州南部のトゥル・ナードゥ地域を起源とする、トゥル族が使う言語。南部ドラヴィダ語派の1つ。
*7 母語のトゥル語と似てるのが助かった、と言っていたそうな。
*8 マッチョスーツは10kgもあって、そのためにジーヴァは着用時に足を痛めたとか。