インド映画夜話

Nannaku Prematho 2016年 161分(168分とも)
主演 NTR (Jr. / 歌も兼任) & ジャガパティ・バーブ & ラクル・プリート・シン
監督/脚本/原案 B・スクマール
"どんな時も笑顔で向き合ってくれたのは、父だけだった"




 ロンドン在住のビジネスマン アビ(本名アビラーム)は、"負け組"呼ばわりされて会社を辞めさせられるが、すぐさま父の教えを元に新会社KMCを立ち上げ強力な融資を取り付ける。だが、会社が順調に成長していた矢先、彼の父親スブラマニアム危篤の知らせが…!!
 人には、全動物共通の食欲・性欲・睡眠欲の3大欲求の他に、人にしかない欲求がある。アビは、父の中にそれを見出ていたと言うのに…。

 末期の膵臓癌で余命1ヶ月と診断されたスブラマニアムは、末子アビを始めとする息子3兄弟を前に彼らの幼き日の思い出を語り始め、陰謀によって社会的に抹殺されたあの日…在英インド人1の富豪ラメーシュ・チャンドラ・プラサードと言う名前を捨ててスブラマニアムとして生きざるを得なくなったあの日の顛末を語り懇願する。「負け組スブラマニアムとしては死にたくない。ラメーシュ・チャンドラ・プラサードとして死にたいんだ。奴の…奴の名前はクリシュナ・ムルティ…複合企業Kグループ総帥に復讐を…!!」
 長男ヴァムシが法的にクリシュナ・ムルティを訴えようと申し出る中、アビは「1ヶ月しかない。そんな事をしていたら、父さんが先に死んでしまう」と1人行動を開始する。彼が父のために計画する"オペレーション・ゼロ"に必要なのは、父を尊敬しアビのために働く3人の人物。最初に標的とすべきは、クリシュナ・ムルティの娘でグループ企業の4割の株を保有するディヴィヤー(本名ディヴィヤンカ・クリシュナムルティ)…!!


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*歌っているのは、主演NTRその人!


 タイトルは、テルグ語(*1)で「父へ、愛を」。
 2004年の「Arya(アーリヤ)」で監督デビューした、スクマール7本目の監督作。公開当時、Jr.NTR主演作中、外国売り上げ1位を樹立した大ヒット作である。

 後の21年には、ベンガル語(*2)リメイク作「Baazi(挑戦)」も公開。

 ピタゴラスイッチのようなOPクレジット(全部CGだけど)から始まる本編は、ロンドンとその周辺を舞台に、父親が願う復讐に突き進む主人公の「バタフライ・エフェクト」の名の下に仕掛けられた小さな出来事が実現不可能と思われた敵の粉砕へと繋がって行く一大リベンジアクションへと発展して行く。

 新会社立ち上げから、わりとムリクリな勝利理論で「私は全てわかっていたのさ!」とNTR演じる主人公アビがドヤるシーンを説明するために「バタフライ・エフェクト」が言及され、画面上を蝶が舞い、ちょっとした出来事の積み重ねによる未来予測によって主人公の思惑通りに事態が推移して行く(*3)。
 父親の余命というタイムリミットを設定され、父性絶対の理論のもとに復讐に疑問が挟まれず、目標のクリシュナ・ムルティの娘とのロマンスにヒロイン側の父性が発揮されないんだなあ…とか思っていると、きっちり伏線が機能して悪役の悪要素が最大限発揮されまくり、同情の余地もなく主人公父子の復讐の達成に喝采を贈ってしまうインパクトに彩られた脚本の巧みさ。前半、わざと端折られたシーンの意味がラストに明かされるちょっとしたどんでん返しもイキだね! そりゃ、所構わず蝶が画面を横切りますよ。うん。

 この、小気味よいほどの悪役演技で映画の裏の主人公的存在感を発揮するクリシュナ・ムルティを演じるのが、1962年アーンドラ・プラデーシュ州クリシュナ県マチリーパトナムに生まれてタミル・ナードゥ州都マドラス(現チェンナイ)で育ったジャガパティ・バーブ(生誕名ヴィーラーマチャネーニー・ジャガパティ・チョウダリー)。
 父親は有名な映画プロデューサーのV・B・ラージェンドラ・プラサード(生誕名ヴィーラーマチャネーニー・ラージェンドラ・プラサード)で、その父親監督&プロデュース作となる1974年のテルグ語映画「Manchi Manushulu(善き人)」に子役出演後、89年の父親プロデュース作「Simha Swapnam(獅子の夢 / *4)」で主役級デビューして男優活動を開始。同年公開の主演作「Adavilo Abhimanyudu(森の中のアビマニュ)」でナンディ・アワード批評家選出特別賞を受賞。92年の主演作「Peddarikam(長老)」の大ヒットによって知名度を上げ、以降も主演・助演・悪役演技によって複数の映画賞を獲得して行く。
 テルグ語映画界を中心に活躍する中で、06年の「Madrasi(マドラス人)」でタミル語(*5)映画に、13年の「Bachchan(バッチャン)」でカンナダ語(*6)映画に、16年の「Pulimurugan(虎のムルガン)」でマラヤーラム語(*7)映画にそれぞれデビューしていて、22年にはテルグ語とヒンディー語(*8)同時製作映画「Radhe Shyam」でヒンディー語映画デビューも果たしている。

 「新種の蝶が発見されたのさ。これで事業は中止。俺の蝶…俺のバタフライ・エフェクトによってな」の一言で主導権を我がものとして、事業乗っ取りを企てるクリシュナ・ムルティの飄々としたトンデモ理論に対抗する、主人公の仕掛けるバタフライ・エフェクトの三段論法も爽快ながら、そこに裏の思惑が重なり、「全てはお見通しだ!」と勝利宣言する仕掛け(*9)が紡がれて行くのは、結果ありきかつ漫画的リアリティレベルとはいえ、サスペンスフル。善悪どちらもがバタフライ・エフェクトを自分のものとしてコントロールして時流を自らの手の内に転がそうとする勢力争いは、他のマサーラー映画とは差別化された別の魅力を生み出して行くよう。ま、伏線の張り方があからさまだったり、言葉による説明に頼りすぎてるきらいはありますが…。
 このノリで、「名探偵NTR」とかいつか作ってくれたら超見たいのですよわたしゃ。

 にしても、全てを失った主人公の父親が再起を誓う時に眉毛を剃っていたのは、なんかのオマージュ? 最後に同じように全てを失った人物もやってのは、変装の意味合いが強かったけども(*10)。



Love Me Again (ラブ・ミー・アゲイン)




受賞歴
2016 Nandi Awards 編集賞(ナヴィーン・ノーリ)
2017 Filmfare Awards South テルグ語主演男優賞(Jr. NTR)・テルグ語助演男優賞(ジャガパティ・バーブ)・テルグ語映画音楽監督賞(デヴィ・スリ・プラサード)
2017 IIFA (International Indian Film Academy Awards) Utsavam 悪役男優賞(ジャガパティ・バーブ)
2017 SIIMA (South Indian International Movie Awards) テルグ語映画主演女優賞(ラクル・プリート・シン)・テルグ語映画悪役男優賞(ジャガパティ・バーブ)
Mirchi Music Awards South センセーショナル歌手スター賞(Jr. NTR / Follow Folow)


「NP」を一言で斬る!
・「ボス、休憩にしますか?」「ああ…休憩…は、まだだ」とインターバルを拒否できるラスボス強えええええええええ!!!!!(その後一通り腹の探り合いが終わってから「さあ、休憩にしよう」とインターバルになるのもカッコええぞ!)

2023.5.5.

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*1 南インド アーンドラ・プラデーシュ州とテランガーナー州の公用語。
*2 北東インドの西ベンガル州とトリプラ州、アッサム州、アンダマン・ニコバル諸島の公用語。バングラデシュの国語でもある。
*3 …バタフライ・エフェクトってそんな意味の用語だっけ?
*4 88年のヒンディー語映画「Khatron Ke Khiladi (無鉄砲な奴ら)」のリメイク作。
*5 南インド タミル・ナードゥ州の公用語。スリランカとシンガポールの公用語の1つでもある。
*6 南インド カルナータカ州の公用語。
*7 南インド ケーララ州とラクシャディープ連邦直轄領の公用語。
*8 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語で、フィジーの公用語の1つでもある。
*9 …はわりと単純なんだけども。
*10 ラストシーンと同調させるための強調演出?