インド映画夜話

茶番野郎 (Nautanki Saala!) 2013年 119分
主演 アーユシュマーン・クラーナー(歌/音楽構成補も兼任) & プージャー・サルヴィ
監督/オリジナル脚本 ローハン・シッピー
"もうラーマを気取るはやめて。本当のことを言えないなら、せめて彼女に嘘はつかないで"






 ムンバイで人気の演劇「ラーヴァンリーラー(魔王譚)」の演出家兼主演男優のR.P.(本名ラーム・パルマール)は、ここ3ヶ月ほど不眠に悩まされ精神科医にかかっていた。彼はこうなってしまった顛末を、医者に語って行く…。

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 あの日、同棲中の恋人チトラ・シンの誕生日を祝うための帰宅途中、自殺しようとしていたマンダル・レールを助けてしまってからのR.P.は不幸の連続。
 マンダルの手助けになればとR.P.は自宅に彼を住まわせ、元役者志望だったと聞いて口八丁で欠員の出ていた劇の主役ラーマ王子役へと抜擢するが、彼は超のつく大根役者。共演者たちは呆れ始めて公演の売上もがた落ち。マンダルにかまいすぎるR.P.に怒ったチトラから別れを突きつけられてしまうし、マンダルの元カノ ナンディニ・パテールを探し出してマンダルとよりを戻させようと画策していたR.Pは、いつの間にか彼女と両思いになっている始末。
 周りの人々に良かれと思っての、世話好きなR.P.の嘘と行動はことごとく裏目に出て、気づけば周囲全てを不幸にさせてしまう自分を見つけてしまっていた…。


挿入歌 Dil Ki Toh Lag Gayi (最初は、彼女が愛してると言ったのに)

*踊ってるのは、劇中「ラーヴァンリーラー」の主演女優シーター・デヴィ役の印独ハーフのモデル兼女優エヴリン・シャルマー。
 なんか歌の韻の踏み方の軽快さで、フランス・アニメの「ベルヴィル・ランデブー」のエンディング「Les triplettes de Belleville」を思い出してたんだけど、あとでフランス映画の翻案映画と聞いて「だからあんな歌なのねぇぇぇ!!」と納得した次第(ホンマかいな)。



  2003年のフランス映画「Apre`s vous...(お先にどうぞ)」の翻案もの。
 日本では、2013年IFFJ(インディアン・フィルム・フェスティバル・ジャパン)にて上映。

 インド的な色彩とドタバタラブコメのわりには、なんか全然インドらしくないお洒落でお洒落な映画だなぁ…とか思ってたら、元はフランス映画ですか。納得(…って言うほど、元の映画そのままってわけじゃなさそうだけど)。
 叙事詩「ラーマーヤナ」の主役を逆転させたアーティスティックな劇中劇「ラーヴァンリーラー」を狂言回し的に利用しながら、困ってる人を見捨てておけない主人公R.P.のよかれと思っての嘘から始まる、友情物語の拡大っぷりと混乱ぶりを軽快に、お洒落に、都会的に、色っぽく描いて行くロマンス映画。

 主人公R.P.は、「ラーマーヤナ」の主役ラーマ王子に因んだ名前を持ち(*1)、ラーマと同じく不幸にある人を救い出すヒーローであると同時に、八方美人的にそれぞれの人で顔を使い分ける役者として十頭の魔王ラーヴァナ的でもあり、(当初は)マンダルを兄弟同然に扱い彼の恋路をプロデュースしようと走り回るラクシュマナ王子的でもあり、友情のもとマンダルとナンディニを世話して人生の展望を開かせる猿の勇者ハヌマン的でもある。そして、最後の最後に、実は彼はそのどれでもなく精神病から解放されるべきシーター役であったこともなんとなーく表現されていて、結局R.P.が滑稽な一人芝居をしている事を映画全編で茶化す構成にもなっている。
 そう言う意味では、とてもインド的な物語で、同時にそのインド的な部分を外からツッコミ入れて客観的に笑っている構成で描かれる映画。劇中劇(と言うほど中身を見せてくれないけど)となる、欧米的な装飾の演劇「ラーヴァンリーラー」も全編見てみたいネ。

 主役を演じるアーユシュマーン・クラーナーは、俳優兼歌手兼VJ(TV番組司会者)で活躍しているマルチな人。
 出身地の連邦直轄領チャンディーガルで学生時代から演劇で活躍し始めて賞も獲得。卒業後にデリーでDJを始めながら、テレビショー「MTV Roadies Season 2」に出演・優勝して注目され、以降数々のテレビ番組に俳優や司会などで出演。2012年に「ドナーはヴィッキー(Vicky Donor)」の主役(+歌+音楽構成補)に抜擢されて映画デビューを果たし、数々の映画賞を獲得した。本作は、これに続く2作目の映画主演&歌(Saddi Gali & Tu Hi Tu)&音楽構成補(Saddi Gali & O Heeriye)を担当した作品である。もーまさに、この人なくしては成立しない映画になってて、主演2作目にして、飄々とした自分の持ち味をしっかり形にしてるアーユシュマーン最高!
 ヒロインのナンディニを演じたのは、これが映画デビューとなるモデルのプージャー・サルヴィ。かつて、アイシュと一緒にLUXのコマーシャルモデルを担当してた事もあるとか。
 マンダル役を演じるクナール・ローイ・カプールはTVから映画に進出した俳優で「Loins of Punjab Presents」「Delhi Belly」等に出演、2009年には英語映画「The President Is Coming」の監督も務めている。彼の兄は元UTVモーション・ピクチャーズ のCEOで、2014年からはウォルト・ディズニー・カンパニー・インディアのマネジメント・ディレクターに就任している(!!)シッダールト・ローイ・カプール。彼の弟が「Action Replayy」「愛するがゆえに(Aashiqui 2)」等で活躍するアディティヤ・ローイ・カプールと言う映画一族出身。
 監督/製作を担当したローハン・シッピーは、「炎 (Sholay)」の監督ラメーシュ・シッピーの息子で、「Kuch Naa Kaho(なにも言わないで)」「Dum Maaro Dum(一服吸ってぶっ飛ばせ)」等を監督。プロデューサーとして「チャンドニー・チョーク・トゥ・チャイナ(Chandni Chowk to China)」等や数々のTVショー番組にも参加している。彼の担当するTVショーで頭角を現したアーユシュマーンを始めとするタレントを集めたのが本作って事かもしれない?

 いきなり出てくるアビシェークとかも笑かしてくれるけど、R.P.を中心に色んな人が出たり入ったりするもんで、初見では混乱してしまうかも? って言うか混乱しました。3人のヒロインが全員見た事ない人だったもんで。主演女優のプージャー・サルヴィをアディティ・ラーオ・ハイダリだとばっかり思っておりました。あの時は適当なこと言いまくってすいまそん。
 EDで、それぞれのシーンをバックに、そこに出てきたキャストたちがコミカルに踊る、畳み掛けるようなシークエンスも効果的。叙事詩における十頭の魔王の多様性、ラーマとラーヴァナの対極的対立構造(善対悪、正対負、真実対虚偽、理性対感情、取り繕い対本音…などなど)、ラーマーヤナに潜む人間の持つ多様性の描写を、軽快に映画構造の中で生かしまくった、なんともお洒落映画な一本ですわ。


ED Dhak Dhak (ドキドキと [心臓は轟くの])







「茶番野郎」を一言で斬る!
・あんなセクシー美女な花屋さんあるなら、あっしも常連になりターイ。ていうかそこで働かせてー!

2014.2.21.

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(1) ヒンディー人名は、サンスクリット人名の語末のaがとれる。ラーマ→ラームのように。
 クリシュナの場合は"クリシュ"になったり"クリシュナ"になったり、らしい…?