インド映画夜話

New York 2009年 153分
主演 ジョン・エイブラハム & ニール・ニティン・ムケーシュ & カトリーナ・カイフ
監督 カビール・カーン
"あの時は、だれも理解できなかった…でもあの日、僕たちの人生は変わってしまったんだ"






 2008年の米国。
 FBIがタクシーから押収した銃火器の所有者として、インド人オマール・エイジャースが拘束される。彼を尋問するFBI捜査官ローシャンは、彼と、彼の大学時代の親友サム(本名サミール・シャイク)とマヤの関係を問いただす。ムスリムのサムとオマールは、FBIから9.11テロに関わったテロリストの関係者としてマークされていると言うのだ…!

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 オマールが、ニューヨーク州大学に奨学金留学して来たのは1999年9月。
 登校初日に彼を引率しに来た美女マヤは、同じインド系移民だからと大学のヒーロー サムと一緒になって彼と友情を育んでいく。すぐにマヤに惹かれていくオマールだったが、卒業間際にマヤがサムを愛している事を知ると、自分の気持ちを押し隠して身を引くため、NYを離れようと決心。だが、マヤに別れを切り出そうとしたその時、あの9.11テロが起こり全てが変わってしまった…。
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 サムとの交流を尋問するローシャンを前にして、オマールは気付く。これは全て計画だ。FBIは自分を利用して、サムをテロリストに仕立て上げようとしている。…そんなサムを前に、ローシャンは「サムとマヤは結婚した。今は子供もいる。お前に頼みたいのは、2人に疑われず内部事情を探ることだ。お前とサムの無実を証明するには、それしかない」と語る。動揺するオマールは……


挿入歌 Hai Junoon (僕らは熱狂する […僕らの人生に])



 9.11テロによって、大きく運命を狂わされた青年たちの友情と悲劇を描く社会派サスペンス映画。
 2006年に「Kabul Express(カブール急行)」で娯楽映画監督デビューした、ドキュメンタリー出身のカビール・カーン2本目の監督作。この次の作品が、日本公開もされた「タイガー 伝説のスパイ(Ek Tha Tiger)」になる。本作は、2007年のパキスタン映画「神に誓って (Khuda Kay Liye /英題 In The Name Of God)」にインスパイアされた映画だとか。
 韓国の釜山国際映画祭で上映された際、本作の製作会社ヤシュラジ・フィルム代表ヤーシュ・チョープラが、フィルムメイカー・オブ・ジ・イヤー賞を受賞している。

 ニューヨーク映画委員会の全面サポートによる全編ニューヨークを舞台にした映画で、踊りなし。9.11テロ以降に実際に起こったと言う1200人以上もの南アジア人に対する勾留と拷問、それ以上の南〜西アジア系やムスリム移民に対する迫害や就労差別、そこから展開する「アメリカの守る平和とはなにか?」「アメリカを標的にしたテロは、アメリカ自身が産んでいるのではないか?」「アメリカの自由とは? 自由が生み出す問題と危険とは? 自由が抱える問題とはなにか?」を描いていく。この辺、日本でDVD発売された「マイ・ネーム・イズ・ハーン(2010年公開作)」に通じるテーマながら、「裁く自由」「守る自由」「闘う自由」と言う、よりテロと反テロの境界のあいまいさ・危うさを本作は掘り下げていく。

 オープニングから、明け方のニューヨークの空撮の風景が、白黒に図形化されていくと言う画面だけで不穏な空気を醸し出す緊迫感が秀逸。
 前半は、尋問を受けるオマールが回想する大学時代のインド人3人の友情物語と、オマールと言う留学生の目から見たアメリカの持つ"自由の開放感"を描き、中盤から9.11以後に道を別れたオマールとサム&マヤの再会、後半はサムが体験したFBIによる拷問、釈放後も社会的に苦しめられる南アジア系の人々の怒り、新たなテロリズムの発生と言う、自由の持つ負の面…"裁く自由"が描かれていく。
 これを見ると、ロマンチックなハッピーエンドで描かれるカビール監督の次作「タイガー」がなぜああ言う娯楽系要素が大量にぶち込んだ映画になったのかがわかる気がしてくる(*1)。監督作を追っていくと感想ががらりと変わりそうですわ。

 1999年の大学時代から2008年にそれぞれ社会人やってる主要3人を演じたのは、サム役にジョン・エイブラハム(公開時36才)、マヤ役にカトリーナ・カイフ(25才)、オマール役にニール・ニティン・ムケーシュ(27才)と言う面々。カトリーナやニールはともかく、ジョンの大学生と言うのは…ねぇ。ま、3大カーンも現役で大学生役やってるんだから、なんもおかしくないけどさ。しっかしあいかわらずニールは白いわぁ。白人顔だわぁ。カトリーナはメイキングの方が綺麗だわぁ。
 彼ら3人が通ってた大学は「NEW YORK STATE UNIVERSITY」と書いてあったけど、実際にはそんな名前の大学はないそうな(*2)。

 脇には、インド系移民のFBI捜査官ローシャン役に、名優イルファン・カーン。「めぐり逢わせのお弁当」や「その名にちなんで」のような渋イルファンと違い、彫りの深いしわと厚ぼったい唇が厳つい、ヤクザ風な怖イルファンになっておりました(*3)。
 さらに、「めぐり逢わせのお弁当」「女神は二度微笑む」で注目されるナワーズッディン・シディッキーが、FBIによる人権無視の拷問によって心身ともに深く傷つけられる、南アジア系移民ジルゲイを演じているのも注目。
 「裁く自由」を体現するローシャンが、同じ南アジア人の「裁く自由」自体を裁かなければならない葛藤と、それこそが「自由を守る」ことであるという信念、その表裏一体具合が物語の核となりアメリカと言う国を象徴する構造である、と言う映画構成がなかなか。
 一概にアメリカを責めるだけでなく、"自由"がもつ2面性、そこと表裏一体のテロの危険性、その克服の方法はあるのだろうかと言う問いかけ…。目隠しのまま答えを探すような、混乱した現状の世界情勢に一石を投じる映画…でしょか。


挿入歌 Tune Jo Na Kahan (君が決して口にしなかったこと […それをいつも聞いていた…理由などなくとも])







「NY」を一言で斬る!
・拷問シーンのジョン、本気で苦しそうだ…

2015.9.11.

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*1 サルマン映画だからね、と言えばそれまでだけども。
*2 おそらく元ネタは「STATE UNIVERSITY OF NEW YORK」。ロケがどこなのか…が気になる所。
*3 でも根はいい人な役!