インド映画夜話

Narasimhudu 2005年 174分
主演 NTR(ナンダムリ・タラーカ・ラーマ・ラオ) & サミーラ・レッディ & アミーシャー・パテール
監督 B・ゴーパル
"そは善き人を守り、悪しき人を滅ぼす。時を経て、神はまた生まれくるのだ!!"


挿入歌 Rajamandrike (ああ、ラージャマンドリの [女王たる美しき人よ])

*「ディル・セ(Dil Se)」の衝撃再び! またインド人が走る貨物車の上で踊ってるゼェェェ!!!
 タイトルの「ラージャマンドリ」とは、アーンドラ・プラデーシュ州東ゴーダーヴァリ県の都市名(テルグ語発音?)。別名ラージャムンドリー、ラージャマヘーンドラヴァラムとも。本作ヒロインを演じるサミーラ・レッディの生まれ故郷でもあったりする。


 デリーから赴任した警視長官の目標は1つ。
 街を牛耳る大物資産家JD(=ジェイデーヴ)と殺し屋アムベルペト・ポートラージュと言う、対立する2大勢力を捕えること。この2人の争いは、昼日中に人が惨殺されても誰も抗議できないレベルに発展している…。

 その頃、街中で性暴行未遂を起こした暴漢たちを追い詰め再起不能にした男が、その暴力性ゆえに警察に取り押さえられ一時身柄を拘束されるものの、被害者家族の取りなしでなんとか釈放を許されていた。その家族に招かれて、街中のアパートに養父母とともに越してきたその男に一目惚れする"ケーララの美女"パラッカド・パパだったが、終始無言でその眼光だけで男たちをひれ伏せるこの男…ナラシンフドゥには、ある秘密が…。


挿入歌 Singu Singu (偉大なり [シンハドリ。アディ王のように私を盗んで行って])


 タイトルは主人公の名前で、ヴィシュヌ十化身の1つ"人獅子ナラシンハ"の変化系?(*1)
 本作は、2004年のカンナダ語(*2)映画「Durgi」のテルグ語(*3)リメイク作で、企画自体はオリジナル版公開前から動いてたそうだけど、予算超過などの理由で公開が延期されてしまったとか。
 後にヒンディー語吹替版「The Power Of Narasimha」も公開されている。

 「人にも獣にも殺されることのない悪魔」を退治したヴィシュヌの化身"人獅子ナラシンハ"伝説を踏まえつつ、現代テルグ社会(*4)にはびこる社会悪への復讐に全てを捧げた男の活躍を描く、一大復讐劇マサーラーアクション。
 いつもお調子者キャラや悪ぶりキャラを演じるJr.NTRが、前半ほとんど口を聞かずその怒りと悲しみに満たされた眼力だけで演技する主人公を演じるところは注目所。その憂いを秘めた瞳は、なにか細工があるんじゃなかろかとおもってしまうほどに、見慣れたJr.NTRのイメージを覆す新たなカッコよさを十二分に堪能させてくれる。やっぱテルグスターの一人だけあって、演技力も相当高かったんだね我らがJr.NTR!

 アクションシーンは、わりと大雑把ながらいちいち「ええ〜それはありなの?」とかツッコンでしまいたくなるワイヤーアクションポージングの数々が楽しい楽しい。
 全ては主役ナラシンフドゥ演じるJr.NTRをカッコよく見せるための構成になっていて、その超絶ダンスとともに軽やかに動く手足の乱舞による1対多数の乱戦もテンポ良くて爽快。そこにかぶる大仰な効果音と斜め上なワイヤーアクションが、歌舞伎的な定型スタイルをなぞりつつ妙なインパクトを見せてくれるんだから、映画アクション演出を学ぶ人には必見の映画ですわ。ええ。

 監督を務めたB・ゴーパル(またはゴーパル・B)は、アーンドラ・プラデーシュ州プラカーシャム県M・ニダーマヌル村出身。
 大学卒業後に父親の許しを得て映画界入りし、P・C・レッディ監督やK・ラーガヴェンドラ・ラーオ監督作の助監督として働き出す。12年間の助監督生活の中、プロデューサーのDr. ダッグバティ・ラーマナイドゥに見込まれて86年のテルグ語映画「Prathidvani」で監督デビュー(?)。以降、テルグ語映画の大ヒット作を連発してテルグ語映画界の名監督となっていく。
 99年の監督作「Samarasimha Reddy」(*5)でフィルムフェア・テルグ語映画監督賞を獲得している。

 あんまり出番はなかったものの、本作の前半のヒロイン パラッカド・パパを演じたのは、本作がテルグ語映画デビューとなるサミーラ・レッディ。
 1982年(80年とも)アーンドラ・プラデーシュ州ラージャムンドリー(*6)生まれ。父親はビジネスマンで、母親はNGO活動している微生物学者。姉に、モデル兼VJのメグナー・レッディ、モデル兼女優のスシーマ・レッディがいる。
 ムンバイの大学を卒業後、MV出演を経て01年のタミル語映画「Citizen」に出演予定だったものの、結局出演シーンは全カットされ、02年のヒンディー語映画「Maine Dil Tujhko Diya(君に心を捧ぐ)」で映画&主演デビューを果たす。05年の本作でテルグ語映画デビューした後、07年には「Ami, Yasin Ar Amar Madhubala(アミ、盗撮する人)」でベンガル語映画に、08年には「Varanam Aayiram(千の色、千の象)」でタミル語映画にデビューしヴィジャイ・アワード女優デビュー賞ノミネートされた。10年には「Oru Naal Varum (その日は来る)」でマラヤーラム語映画に、13年には「Varadhanayaka」でカンナダ語映画にもデビューしている。
 女優活動の他、姉妹でストリートチルドレン救済活動"クレヨンズ&ドリームズ・ホームス"を立ち上げている。また、携帯ゲーム"サミーラ・ザ・ストリートファイト"でゲーム内キャラとしてデビューした最初の女優となったという。

 後半のヒロイン スッブー・ラクシュミーを演じたのは、1975年マハラーシュトラ州ムンバイのグジャラート系家庭生まれのアミーシャー・パテール(生誕名アミーシャー・アミット・パテール)。祖父はムンバイ議会総長の弁護士兼政治家バリステール・ラジニ・パテール。弟アシミット・パテールも俳優で、母アーシャ・パテールもアミーシャーの映画デビュー作で共演して映画デビューしている。
 5才から古典舞踊バラトナティアムを習得し、大学では遺伝学を学び2年間主席の座にいたとか。そこから米国留学して経済学部を金メダルを得て卒業。経済アナリストとして働いていたものの、インド帰国ののち両親を説得の上で劇団に参加して舞台俳優兼モデルとして活躍し始める。
 父親の友人ラケーシュ・ローシャンを介して映画オーディションの機会を得て00年のヒンディー語映画「その一言が聞きたくて(Kaho Naa... Pyaar Hai)」で映画&主演デビュー。Zeeシャイン女優デビュー賞を始め多くの映画賞を獲得する。同年公開のテルグ語映画「Badri」でテルグ語映画デビューし、こちらも大ヒット。翌01年のヒンディー語映画「Gadar: Ek Prem Katha(反抗:あるラブストーリー)」でフィルムフェア特別パフォーマンス賞を獲得し、トップスターの仲間入りを果たす。03年には「Pudhiya Geethai(新たなギーター)」でタミル語映画にデビュー。09年以降、参加していた映画の公開が頓挫したり、公開されてもヒットにつながらないことが連続する不遇の時代が続く中、11年にビジネスマン クナール・ゴーメルと共に自身の映画プロダクション"アミーシャー・パテール・プロダクション"を設立して、女優業とともにプロデューサー業も始めている。
 02年の「Aap Mujhe Achche Lagne Lage」以降、プロデューサーのヴィクラム・バットと公然の恋人同士と報じられていたものの、同時期に父親が彼女の財産を切り崩して仕事に使ったことで裁判沙汰の親子対立が起こり、そのためかヴィクラム・バットとの関係も終わってしまう。その後、09年にようやく家族間で和解したと母アーシャがインタビューで答えている。

 復讐の念に支配されて、他の感情が無くしてしまっている前半のナラシンフドゥの無表情ぶりが、ミュージカルシーンのいつもの多彩な表情を見せるJr.NTRといい対比になって効果を発揮するわけだけど、後半のエピソードでいつものJr.NTRのお調子者キャラが出てくると、安心感が違いますな。2人のヒロインに注目女優を配置しつつも、結局見せ場は全部Jr.NTRが持ってっちゃってるのが良いんだか悪いんだかだけど、まあ、それこそがスター映画の面目躍如って感じもするしねえ…。
 ここぞとばかりにナラシンフドゥが懐から出す(*7)三又の穂先が、凶悪かつカッコええんだけど、結局そんな武器無くても悪をふんじばってボコり倒せるよね? って言いたくもありをりはべり…w

挿入歌 Krishna Murariki (若い男と女が [互いの腕の中で恋に落ちた])

*愛!!
 ところどころにある漢字もどきは、なにかロマンチックな飾りなのだろか…w
 後半のヒロイン アミーシャー演じるスッブー・ラクシュミー初登場シーンを飾る豪華ミュージカル!(と言っても、ここはサミーラ演じるパラッカド・パパが「新たな恋敵が現れるだろう」と予言されてショックを受けて見る妄想世界なんだけど)



「Narasimhudu」を一言で斬る!
・主人公が連れてこられるパラッカド・パパ達の住む集合住宅、98年のテルグ語映画【バブーをさがせ!(Choodalani Vundi!)】に出てきたテルグ人の集まるアパートとそっくりな建物だネ!

2019.4.19.

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*1 劇中では、"ナラシンフドゥ"と呼んでる時と"ナラシンハ"と呼んでる時とあったけど。
*2 南インド カルナータカ州の公用語。
*3 南インド アーンドラ・プラデーシュ州とテランガーナー州の公用語。
*4 地名ははっきり出てこないけど、ハイデラバードが舞台…だよね?
*5 本作の主演男優Jr.NTRの叔父にあたるナンダムリ・バラクリシュナ主演作!
*6 別名ラージャマンドリ、ラージャマヘンドラヴァラムとも。
*7 そんなんしまっておける空間なかったじゃん、と素直にツッコみたくなるけどw