インド映画夜話

Okka Kshanam 2017年 154分(150分とも)
主演 アッル・シリーシュ & スーラビー
監督/脚本/原案 ヴィ・アーナンド
"真実だって、遠くから眺めれば嘘になる"




 2017年12月25日。
 両親との買い物に連れ出されたジーヴァは、イノールビットモールの地下駐車場B57にて、偶然近く(B58)に停められた車に座っていたジョースナ(通称ジョー)と知り合い、SNSを介して愛し合うようになっていく。

 ついに彼女の家へ招待されたジーヴァは、「綺麗な部屋だね。足を骨折してる間、一日中どうやって暇つぶししてたの?」と何の気なしに聞くと「私、リアリティショーが好きなの。こっちに来てみて」とジョーはベランダへと彼を連れ出していく。ジョーの住む集合住宅のベランダからは、40家族150人の暮らしがつぶさに見えていた。恐妻家の有名人。近所の奥様達のゴシップ会議。ヨガマニアの無職男。そして、喧嘩し続ける新婚夫婦…。

 その夫婦の喧嘩が日増しに激しくなり、夫からの暴力まで出始めたことを心配するジョーに請われて、ジーヴァはこの夫スリーニーヴァスの様子をそれとなく探り始める。精神科に通い、バーに入り浸るこの男に直接馴れ初め話を聞く機会を得た時、ジーヴァは驚愕する…「…妻スワティとは恋愛結婚だったんだ。1年前、両親の買い物に付き合ってイノールビットモールに行った時、地下駐車場で偶然近くの車に座っていたのが彼女だった。足を骨折していてね…」!!


挿入歌 So Many So Many (ソー・メニー・ソー・メニー)


 タイトルは、テルグ語(*1)で「もう1つの」。
 1954年のヒッチコック監督作ハリウッド映画「裏窓(Rear Window)」をアイディア元に展開する、SFサスペンス・テルグ語映画。

 インドと同日公開で、オーストラリア、米国でも公開。
 公開後、09年の韓国映画「パラレルライフ」からの剽窃ではないかとインドにおけるリメイク権利者から苦情を入れられたものの、のちに問題なしと解決したと報道されている。
 のちの2019年には、ヒンディー語(*2)吹替版「Shoorveer 2」も公開(*3)。

 ヒッチコックの名作映画の翻案ものと聞いて、興味本位&期待薄で見てたものながら、わりとアクティブな登場人物による物語の引っ掻き回しようが二転三転して飽きさせない面白い構造の一本。
 前半は、主人公2人の馴れ初め〜「裏窓」を翻案したミステリー展開へとシフトしていく高密度さ。元ネタの「裏窓」と違い足を骨折してる側がヒロインになって、2人の恋愛の進行もきっちり描いていくそのお互いの一目惚れから始まる"お試し期間"もいじらしく微笑ましい(*4)。SNSと言うデジタルツールで繋がる恋人関係に対比されるような、ベランダから直に見える隣人たちの生活をダイレクトに「覗き見る」楽しさと不穏さが「裏窓」よりも密な人間関係を強調してもいる点も興味深…い?(*5)
 SNSでのコミュニケーションを楽しむカフェ集団を見て「これがトレンドなのよ」と息子の恋を応援してるつもりになっている、アナログな主人公の両親の姿も微笑ましきかな。

 そこから、DV疑惑の新婚夫婦を調べさせられる主人公が、自分たちと全く同じ恋愛を前もって体験して夫婦の危機を迎えている事を知らされると言う、主人公たちとの運命の相似性に恐怖する「裏窓」にはない「パラレルライフ」っぽい展開は、サスペンスフルかつSF的にもなっていく展開も新鮮。
 まあ、関係ない別々の人間が全く同じ人生をおくることがあると言う、「平行理論」の説明はエセ科学どころかオカルトのそれよね、って感じではあるけれど(*6)、1年の時差でシンクロする人生のすさみ方を見て自分たちに降りかかる運命に震える運命論への問いかけってのは、インドっぽいといえばインドっぽ…い? まあ、最終的には「実はこうでした!」ってどんでん返しもある展開だけど(*7)。

 監督を務めたのは、1979年タミル・ナードゥ州イーロードゥ生まれのヴィ・アーナンド。
 マドラス(現チェンナイ)の大学で建築学を学んで首席卒業で学士号を取得後、08年にAR・ムルガダス監督のもとで助監督を務めて映画界入り。14年にタミル語映画「Hrudayam Ekkada Unnadi」で監督デビュー。同じ年に2本目の監督作「Appuchi Gramam」も公開させている。翌15年には「Tiger(タイガー)」でテルグ語映画監督デビューし好評を得、続く17年の「Ekkadiki Pothavu Chinnavada」からは脚本も手がけている。

 主役ジーヴァを務めたのは、1987年(1985年とも)タミル・ナードゥ州マドラス生まれのアッル・シリーシュ。
 父親はテルグ語映画界の重鎮プロデューサー アッル・アラヴィンド。祖父もテルグ語圏で活躍した高名なコメディアン男優アッル・ラーマリンガイヤーで、兄に大活躍中の男優アッル・アルジュンがいる、映画一族アッル=コニダラ家の一員。
 1990年の父親プロデュースのヒンディー語映画「Pratibandh」で子役デビュー。TVドラマ企画やCMに参加しながら、08年のヒンディー語版「Ghajini(ガジニー)」でプロデューサー補を務めて本格的に映画界入り。13年のテルグ語・タミル語(*8)同時公開作「Gouravam(潔白)」に主演デビューしてから主にテルグ語映画界で活躍中。17年には本作の他に「1971: Beyond Borders(1971 : ビヨンド・ボーダー)」でマラヤーラム語(*9)映画デビューもしている。

 ヒロイン ジョーを演じたのは、タミル語・テルグ語両映画界で活躍している女優スーラビー(別名スールビー)。
 デリーの美大に通って美術の学士号を取得する間、映画に興味を持ちモデル業のかたわら演技学校で演技を特訓。オーディションを勝ち抜いて13年のタミル語映画「Ivan Veramathiri(彼は違う)」に映画&主演デビューし、1から特訓したタミル語演技が絶賛され、SIIMA(国際南インド映画賞)新人女優賞などにノミネートされる。15年の「Beeruva(小部屋)」でテルグ語映画にもデビューし、以降この2つの映画界で活躍中。

 まあ、「裏窓」構造の舞台を「平行理論」ネタでサスペンスフルに盛り上げる物語は、風呂敷をうまくたためない状態でいつものマサーラーアクションに落とし込んでいる感は否めないオチなんだけど、中盤まではそれぞれの要素をうまく繋げて物語を盛り上げてくれるので、元ネタがどうとか気にしないで楽しめる作りになっている。
 特に、1年の時差で自分たちに襲いかかるかもしれない悲劇を見させられる主人公カップルの必死さが高まっていくドキドキ感は格別でございますよ! 意味深に繰り返される駐車場や車のナンバー、足を引きずるヒロイン、手の傷、利用されるアイスクリームやヒロインの使用済みギブス、その回想シーンで対比される車のカラーや照明などなど、映像効果を高める工夫の数々は基本技法を踏襲しつつ様々に応用を利かせてくれて見ていて実に心地よい。「平行理論」を説明するランダムに放り出されたマッチ棒の演出は、「ジュラシックパーク(Jurassic Park)」のカオス理論を説明する水滴みたいなもんでした…ね? え? 深読みしすぎ?
 ま、「平行理論」の学術性に納得いかなかったとしても、後半に展開する「実は裏でこんなことが起こってました!」のどんでん返しの鮮やかさと、そこから始まる超絶アクションはいつも通りイケイケでカッコええので、そちらも全力で楽しみましょーぞ!(*10)

ED Dillore

*ティラナティラナダンスはまだ続いてるわ。目と目をロックしてちょうだい♪



「OK」を一言で斬る!
・インドの親は、息子に恋人ができたと知るやSNSも全部『覗き見』て恋人を確保しようとするのか…(そして息子自慢のネタにするのか…)w

2021.2.26.

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*1 南インド アーンドラ・プラデーシュ州とテランガーナー州の公用語。
*2 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。
*3 他にも、タミル語吹替版「Parallel Life」、マラヤーラム語吹替版「Parallel Crime」もあるよう。
*4 そして、その恋愛劇はその後の展開に対するあからさまな伏線でもある!
*5 デジタル社会故というよりは、インド人の暮らしがアメリカのそれよりも人間関係が濃密である故って感じではあるけれど。
*6 そんなん、真面目に研究している教授とかホンマにいるんか!?
*7 と言いつつ、人生の平行理論に関しては全否定はしてない感じ。
*8 南インド タミル・ナードゥ州の公用語。
*9 南インド ケーララ州の公用語。
*10 多少、なんでそうなる? って展開もなくはないけど。