インド映画夜話

ムンバイ昔話 (Once Upon a Time in Mumbaai) 2010年 135分
主演 アジャイ・デーヴガン & イムラーン・ハーシュミー
監督/脚本 ミラン・ルトリヤー
"ムンバイ、我が愛しき故郷よ。…ただ1つの間違いで、お前と袂を分かつとは"






 1993年3月のムンバイ。入水自殺しようとしていたアグネル・ウィルソン警視正が発見・救出され、上司は彼に詰問する。
「何故こんなことをした? 君は職務を放棄する人間ではなかったはずだ」
「恐怖などではありません…が、私は、この街に大きなトラブルを生み出してしまった責任を取りたかったのです…」

 アグネルのマークしていた人物の名は、スルターン・ミルザー。
 70年代。洪水が多発していたムンバイに、小さな子供だった彼はやって来た。低賃金の仕事に就きながら、人心をつかむ術に長けていた彼は、スルターン(帝王)を名乗り裏社会で名声を高め、いつしか禁輸政策の裏をかく密輸業でムンバイを支配するまでになっていく。
 ある時、スルターンは有名な映画女優リハーナーの心を射止め、半ば公式の仲と認められるも、ムンバイマフィア一掃を誓うアグネルに目をつけられ、リハーナー共々警察は彼らの動勢を監視し始める。
 同じ頃、アグネルの部下フセイン・カーンの不肖の息子ショエーブは、その素行の悪さから父の逆鱗に触れ、ついにはスルターンがその身を預かる事に。
 スルターンをいつか逮捕しようと言うアグネルと、スルターンの元で裏社会の頭目へとのし上がっていくショエーブ。スルターンを中心に、暗黒街の変化の兆しは着実に近づいている…。


挿入歌 Baburao Mast Hai (バブラーオに注意せよ)



 70年代に実際にムンバイで活躍していたマフィアのドンと、そのドンに成り代わろうとした次代のドンをモデルにしたマフィアヒーロー・ヒンディー語(*1)映画。
 モデルとなったと言われるハージー・マスターンの遺族が、映画公開に際してクレームを公表したそうだけども、映画側はこれを否定している。2013年には、同じ監督による続編「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ムンバイ・ドバラ(Once Upon ay Time in Mumbai Dobaara!)」が公開。
 日本では、2015年のインド映画同好会 大映画祭にて上映。

 続編の方を先に見ていたけど、やっぱり第1作の方がやりたい事がハッキリしている分、内容が濃く、よりギャングものとしての"男のロマン度"が高め(*2)。スタイルにこだわる義賊スルターンと、頂点を目指す野心あふれる若者ショエーブの生き様の対比がカッコいい。あとはとにかく、レトロ色満載な70年代ムンバイと言う時代性を楽しめるかどうかで、大きく評価が変わりそうな映画。

 監督のミラン・ルトリヤーは、助監督から映画界に入った人で、1999年のアジャイ・デーヴガン主演作「Kachche Dhaage」で監督デビュー。以降、映画監督としてのキャリアを伸ばし、本作が6本目の監督作となる。
 親戚に、マヘーシュ・バット、イムラーン・ハーシュミー、プージャー・バット、アーリア・バットなどの映画人がいる。

 お話は、アグネル警視正の回想を軸にして、スルターンがムンバイの暗黒街でのし上がり、人気を勝ち取って行く前半、ショエーブの陰謀が動きだし、スルターンの栄光が陰って行く後半で構成され、ムンバイマフィアの帝王の栄枯盛衰の様、前世代のツケを自らのモノにして行く次世代の台頭を描き出して行く。
 スタイルにこだわり、麻薬や銃器を否定した暗黒街を作り上げて行くスルターンと、彼を支え彼に支えられるトップ女優のレハーナー、スルターンに取り入りながらその地位を手に入れるために手段を選ばない野心的な若者代表ショエーブ。3者3様にムンバイと言う都市に集まり、その裏側を見つめながら、街を構成する渦を作って行く。
 その渦が大きく交わって行く緊迫感を70年代の時代性と共に描くのはよく出来てるし、主要3人(*3)の存在感も見事ながら、下克上に乗り出したショエーブの野心と不安と危うさが、スルターンとレハーナーのロマンス共々やや駆け足気味になっているのが残念。まあ、2人の対立がプライドとビジネス、政治力上での対立と言う画面にしにくい要素で描かれてしまってるから、分かりやすい爽快さが前面に出てこないってのが一番難しい所かもしれないけども。
 それがために、演じるアジャイとイムラーンの眼力、台詞の名調子、それぞれの役者としてのスタイル対決をこそ楽しむ映画になってるのかもしれない。ミュージカルの入り方、衣裳やメイク、セピア調の強い画面など、70年代へのノスタルジーに満ちた作品ではある。


挿入歌 Pee Loon (酔わせてくれ)

*ショエーブの恋人ムムターズ役で出演してるのは、映画女優プラーチー・デーサーイ。登場時はそれなりの存在感だったのに、映画後半はほぼ出番がなくなってしまうのがさみしい…。



受賞歴
2010 Lion Gold Awards 人気主演男優賞(アジャイ)・人気助演男優賞(ランディープ・フーダ)・人気助演女優賞(プラーチー・デーサーイ)
2011 Star Screen Awards 人気音楽賞(プリタム)
2011 Stardust Awards スリラー/アクション映画賞・スリラー/アクション映画主演男優賞
*アジャイ・デーヴガンは、翌12年にも「Singham」で同じスリラー/アクション映画主演男優賞を獲得している!
2011 Apsara Film & Television Producers Guild Awards 脚本賞(ラジャット・アローラー)・助演女優賞(プラーチー・デーサーイ)
2011 Zee Cine Awards 助演女優賞(プラーチー・デーサーイ)・男性プライバックシンガー賞(モーヒト・チャウハン "Pee Loon")・台詞賞(ラジャット・アローラー)
2011 International Indian Film Academy Awards 助演女優賞(プラーチー・デーサーイ)
2011 Global Indian Film and Television Honours 主演男優賞・男性プライバックシンガー賞(モーヒト・チャウハン "Pee Loon")・リレコーディング賞(アジャイ・クマール)・台詞賞(ラジャット・アローラー)・美術監督賞(ニティン・チャンドラカント・デーサーイ)・衣裳デザイン賞(ルシ・シャルマー & マノーシ・ナス)

2011 Global Indian Music Awards アレンジ&プラグラム賞(サンディープ・シロドカール "Pee Loon")・作詞賞(イルシャード・カミル "Pee Loon")・男性プライバックシンガー賞(モーヒト・チャウハン "Pee Loon")・ソング・オブ・ジ・イヤー賞(Pee Loon)・MTV・オブ・ザ・イヤー賞(Tum Jo Aaye)




「ムンバイ昔話」を一言で斬る!
・イムラーンの、その韓流スターみたいな髪型はなんやねん(70年代ヘア?)。

2016.1.15.

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*1 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。
*2 続編は、三角関係によるロマンス映画度が高い。
*3 +影の薄いショエーブの恋人ムムターズも?