インド映画夜話

Okkadu 2003年 170分
主演 マヘーシュ・バーブ & ブーミカー・チャウラー
監督/脚本/原案 グナシェーカル
"問題ない。オレ達がやるだけだ"




 ハイデラバードのチャルミラー地区カバディチームのキャプテン アジェイ・ヴァルマーは、街で起こったケンカの決着をカバディ全国大会予選の州大会で果たそうと、チームを率いて準決勝を勝ち進む。
 しかし、彼の父親である警察官ヴィジェイは勉強もせずカバディに熱狂する息子を応援はするものの、そのケンカっぱやさを咎め続けて、2人はなにかと口論になってしまう毎日。

 そんな中、州大会決勝戦会場のカルヌールにやって来たアジェイたちは、そこで白昼起こる殺人事件を目撃。これに誰一人抗議も通報もしない様子を見て戦慄する…。
 その翌日。アジェイは、街中で泣き叫ぶ女性を無理に連れて行こうとする先日の殺人犯を目撃する。黙っていられない彼は、男を一発で倒してその手下の反撃から女性ととも逃げ出したのだが、その男こそカルヌールを支配するギャングの頭目オブル・レッディその人だった!
 救出された女性スワプナ・レッディは、オブル・レッディに見初められたために兄2人を殺され、決死の覚悟の両親の指示で単身アメリカに住む叔父のところへ逃げ出す途中だったと言うのだが…!!


挿入歌 Hare Rama

*ハイデラバードの下町に暮らす人々がそれぞれに祈る祈祷の文句は、ヒンドゥーとイスラームの区別もなく、それぞれの寺院が密集する集合住宅地区の屋上で同等に人々の苦悩を聞き、幸せを希求する…。
 このミュージカルを下敷きにしているからこそ、タミルリメイク「百発百中(Ghilli)」は最初のミュージカルにヒンドゥー神仮装の人たちが映されるのネ!


 タイトルは、テルグ語(*1)で「あいつ」「唯一無二」みたいな意味…か?
 「バブーをさがせ!(Choodalani Vundi)」「ルドラマデーヴィ(Rudhramadevi)」のグナシェーカル監督の7本目となる監督作。

 03年の大ヒット・マサーラーアクション。公開後には、ヒンディー語(*2)吹替版「Aaj ka Sharifzaada」が公開された他、翌2004年にはタミル語(*3)リメイク作「百発百中(Ghilli)」、06年にカンナダ語(*4)リメイク作「Ajay(アジェイ)」、08年にベンガル語(*5)リメイク作「Jor(腕力)」、15年にはヒンディー語リメイク作「憤怒(Tevar)」も公開。

 やっぱ面白いわ、この映画!
 リメイクされた「百発百中(Ghilli)」「憤怒(Tevar)」を先に見ていたので、お話自体は頭に入った状態で見ていたんだけども、最初のカバディチーム同士の乱闘シーンから息もつかせぬ展開ってやつで、踊るようなケレン味アクションの数々、危機また危機のメリハリの効いた展開、親子対立から恋愛模様から、ヒンドゥーとイスラームが混在する下町の様子もコンセプトに映えて来て、さまざまに感情を揺すぶるシークエンスの多彩さがなんとも楽しい。カバディの試合や地方都市一帯を支配するギャング団の火薬工場など、当初は関係なさそうに見える要素が、1つ1つ伏線として後々の展開に機能する緻密さ・濃厚さも中毒になりますことよ! なによりまず、いちいちの決めポーズシークエンスの映像的カッコ良さよ!!
 その一方で、ある程度本作の形を残してリメイクしている「百発百中(Ghilli)」も、本作と比べるとしっかりヴィジャイ映画になってたんだなあ…と、インド映画におけるリメイク文化の層の厚さを感じたりもしていたり。

 ヒロイン スワプナを演じたのは、1978年ニューデリーのパンジャーブ系軍人家庭に生まれたブーミカー・チャウラー(生誕名ラチナ・チャウラー)。
 陸軍士官の父親の仕事についてインド中を転々としながら、97年にムンバイに移住してCMやミュージックビデオ、短編映画、TVドラマに出演してモデル業・女優業をスタート。その人気から、映画界の誘いを受けて00年公開のテルグ語映画「Yuvakudu(青年)」で長編映画&主演デビューする。翌01年には「Badri(バドリ)」でタミル語映画デビューするとともに、テルグ語映画「Kushi(幸福)」でフィルムフェア・テルグ語映画主演女優賞を獲得してトップスターの仲間入り。本作と同じ03年には「Missamma(奥様)」でナンディ・アワード主演女優賞を、「Tere Naam(君の名のもとに)」でヒンディー語映画デビューしてZeeシャイン・アワード新人女優賞を受賞する。
 以降、テルグ語映画界を中心に3言語圏で活躍しつつ、07年の「Gangotri」でボージュプリー語(*6)映画に、08年には「Yaariyan」でパンジャーブ語(*7)映画に、09年の「Bhramaram」ではマラヤーラム語(*8)映画に、12年の「Godfather(ゴッドファーザー)」ではカンナダ語映画にも出演している。

 冒頭の、フィンガースナップしながらケンカに発展して行く若者グループの描写で「ウエスト・サイド物語か!」とか思ってたら、そこからのアクションの数々の軽快さがダンスのようにも見え、リメイク作にも踏襲される集合住宅の屋上で展開するどつきあいや友情・恋愛劇あたりなんかも「ウエスト・サイド物語」へのオマージュにも見えつつ、屋上空間を象徴的に使った色々な深読み可能演出でもあるようなところも楽しい。
 泣き顔とかが、どことなくシュリーデーヴィーに似てるブーミカーもそれなりに見せ場を持って行きつつ、極悪ギャングボスを狂わせる美貌を遺憾なく発揮。本作以降、リメイク作「百発百中」「Ajay」でも同じ役を繰り返し演じることになる悪役オブル・レッディ演じるプラカーシュ・ラージの、狂気性と幼児性を兼ね備えたような極悪人演技も最高(*9)。

 それにしても、クリケットとともに相変わらずルールがよくわかんないカバディなんですが、あんなに選手たちは血気盛んなもんなんでしょか(*10)、ってくらいケンカっ早い連中ばっかでしたわ。プロリーグとかでなく、下町の暇な兄ちゃんたちがあんなに強くて良いんだろかとかは、まあ考えないほうがいいよなあ…主人公共々、意気投合してしまえば気のいい兄貴たちだったしぃ。

挿入歌 Cheppave Chirugaali


受賞歴
2003 Filmfare Awards South テルグ語映画作品賞・テルグ語映画監督賞・テルグ語映画主演男優賞(マヘーシュ・バーブ)・テルグ語映画音楽監督賞(マニ・シャルマー)
2003 Nandi Awards 作品銀賞・監督賞・音楽監督賞(マニ・シャルマー)・撮影賞(セカール・V・ジョセフ)・編集賞(A・スリーカル・プラサード)・美術監督賞(アショク・クマール)・振付賞(ラジュー・スンダラム)・アクションマスター賞(FEFSI・ヴィジャヤン)
2003 Santosham Film Awards 作品賞・悪役賞(プラカーシュ・ラージ)・美術監督賞(アショク・クマール)・宣伝デザイン賞(ラメーシュ・ヴァルマー)・助演女優賞(テランガーナー・シャクンターラー)
2004 CineMAA Awards 主演男優賞(マヘーシュ)・監督賞・音楽監督賞(マニ・シャルマー)・撮影賞(セカール・V・ジョセフ)・美術監督賞(アショク・クマール)・作詞賞(シリヴェンネラ・シータラマサストリ)・台詞ライター賞(パルチューリー・ブラザース)
AP Cinegoers' Association Awards 作品賞・主演男優賞(マヘーシュ)・監督賞・悪役賞(プラカーシュ・ラージ)・脚本賞(グナシェーカル)・アクションマスター賞(FEFSI・ヴィジャヤン)


「Okkadu」を一言で斬る!
・そんな何日も泥だらけ状態で生活して、大丈夫なもんか…?(主人公にやられて、復讐を誓うオブルの悲惨さ演出なんだろうけど)

2019.12.7.

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*1 南インド アーンドラ・プラデーシュ州とテランガーナー州の公用語。
*2 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。
*3 南インド タミル・ナードゥ州の公用語。
*4 南インド カルナータカ州の公用語。
*5 北東インド 西ベンガル州とトリプラ州の公用語。
*6 別名ボージュプル語。インド北東部一帯〜ネパール、モーリシャス〜シンガポールなどで使用されるインド東部語群中ビハール語系統に属する言語。
*7 別名パンジャービー。北西インド パンジャーブ州の公用語で、パキスタンでも言語人口の多い言語。
*8 南インド ケーララ州の公用語。
*9 この悪役、なんでもモデルにしている実在の人物がいるそうで…インドこわ!
*10 まあ、スポーツはだいたい血気盛んになるもんだけど。