インド映画夜話

Oosaravelli 2011年 162分(145分とも)
主演 NTR( Jr.) & タマンナー
監督/脚本 スレンデル・レッディ
"あいつは、生きる権利もない男だ"
"…貴方にも、殺す権利はないわ"




 トニー。報酬さえ払えば全ての困難を解決するムンバイ下町の頼れる男。
 人それぞれに彼の評判はまちまちながら、ここ数日、彼の姿は町からふっつりと消えていた…。

 その頃、噂のトニーの姿はカシミールにあった。
 カシミールの武装ゲリラ頭目逮捕の報復を目的にした、ゲリラの観光客狩りに捕まったトニーは、収監された小屋の暗闇の中でファッションデザイナーを夢見る少女と出会う。
「貴方は死ぬ前にやり残した事ってないの? 私はいっぱいあるのよ!」
「そうだな…ただ、愛する人とキスがしたい」
「じゃあ、私が貴方の願いを叶えてあげるから、死ぬまでは私が貴方のガールフレンドよ! なんとか生き延びましょうよ…!!」
 こうしてゲリラたちの処刑から逃げ出した2人だが、少女はすぐにインド軍に保護されたものの、その時にはトニーの姿は見えなくなっていた…。

 数日後、日常に戻った件の少女ニハーリカー(通称ニーハ)は、アメリカに向かう婚約者ラケーシュの見送りにハイデラバードの空港に赴くと、そこでカシミールの命の恩人トニーと突然再会する…!!


挿入歌 Dandiya India (ダンディヤ・インディヤ)

*「ダンディヤ」とは、グジャラート州起源と言われるフォークダンスで、ナブラトリ祭(*1)の間、男女で両手に棒を持って打ち合う踊りのこと。映画などで人気が広がりインド各地で行われるようになったお祭り時の踊りである。


 タイトルは、テルグ語(*2)で「カメレオン」。劇中における、変幻自在な主人公の活躍についたあだ名ではあるけれど、よりいろんな意味がかかっている…よう(*3)。

 スレンデル・レッディ監督&NTR Jr.主演と言う「Ashok(アショク)」コンビが再結集した大ヒットアクション映画。その物語の1部は、2009年の香港+フランス合作映画「冷たい雨に撃て、約束の銃弾を(復仇 / Vengeance)」からインスパイアされているとの指摘もある。
 2013年には、ベンガル語(*4)リメイク作「Rocky(ロッキー)」も公開。

 全てを解決するなんでも屋無頼漢の男が巻き起こすラブコメと、その裏に渦巻く隠された真実を暴くリベンジアクションのマサーラー映画。
 あいかわらず情報の錯綜具合が冒頭からすごい映画で、絶対裏があるよなって主人公トニーのカシミールでの暴れっぷりが伏線として機能する後半からの感情的振幅の揺れ具合がスゴイ。それでなくとも、NTR Jr.とタマンナーと言うころころ表情が変わりまくる主役のおかげで画面的にも飽きる暇がないほどの展開が次々と押し寄せる。ま、「俺の心臓の鼓動は常人より少ない。もしこの鼓動が常人並みになったら…」と言う脅し文句のわけわからん強引な説得力といい、その文句を反映して、走る白骨から血管をまとってNTR Jr.になるOPの主人公登場シーンの意味のわからなさもトンデモね(イイゾモットヤレー)。

 とはいえ、話が本格的に盛り上がるまでの段取りにえらい時間がかかっているとも言える。
 もちろん、前半は明るいラブコメ、後半はシリアスなリベンジ抗争アクションという構成上の措置ではあるわけだけど、今見ると色んなシークエンスへのネタ振りがゆったりのんびりだなあとか思ってしまうのは、10年という時間が確実に映画のスピードを加速させている証拠と見るべきでしょか。物語本編とコメディアンたちの活躍シーンを並走させていたスレンデル・レッディ監督の次の監督作「Race Gurram(競り合い/2014年公開作)」なんかは、よりスピーディーに展開するよう演出されてたんだなあ…とか勘ぐってしまいますよ。この本作のゆったりしたスピード感に、郷愁というか素朴さを感じてもいいのかもしれないけれど。
 新しいことをしよう、という感じはあまりない映画ながら、映像の描き方の発想力にどこか「変」がつきまとう映画で、その辺の突飛さを楽しむ映画でもあるかもしれなくも…どうなんだろうなあ…。

 ヒロインの友人枠かと思いきや、わりと重要キャラだったニーハの同居人チトラを演じていたのは、1989年西ベンガル州コルカタ生まれのパヤル・ゴーシュ(別名ハリカー)。
 コルカタのミッションスクールから地元の大学に進学して、政治学を優秀な成績で修了。その間の17才時に、08年放送の英国TV映画「シャープス・ペリル(Sharpe's Peril)」のオーディションに参加して脇役出演して映画デビュー(*5)する。
 しかし、両親から女優活動を反対されたために、単身ムンバイに移住して演技を特訓しつつモデル活動を開始。そこで注目されて、09年のテルグ語映画「Prayanam(旅)」でインド映画&主役デビューを果たす。翌10年には「Varshadhaare」でカンナダ語映画デビューし、タミル語(*6)映画「Therodum Veedhiyile(公開年不明。未公開作?)」にも参加。12年(または14年)の「Freedom」でヒンディー語(*7)映画デビューもしている。
 しかし、2020年に脚本家兼映画監督兼プロデューサー兼男優のアヌラーグ・カシュヤプからセクハラ被害を受けたと訴訟を起こし、その一連の裁判で女優活動を停止。アヌラーグ・カシュヤプ側から事実無根と否定され続け、さらには女優リチャー・チャッダへの名誉毀損のための賠償などもあって経済的に困窮状態に追い込まれて行く。
 同年10月に、政治家ラームダス・アタワール率いるアタワール・インド共和党(RPI(I)=Republican Party of India (Athawale))に入党し、女性部門副代表に任命されている。
 2022年、ヒンディー語映画「RED」などへの出演によって女優活動を再開しているよう?

 注目新人としては、パヤル・ゴーシュの他に、本作公開年に映画デビューしているヴィドゥユト・ジャームワールが、同年公開のテルグ語映画デビュー作「Sakthi(シャクティ)」に続いてNTR Jr.と共演しているのも注目どころか。登場シーンでいきなり、上半身裸で脇腹に日本刀が刺さってるインパクトが特大すぎる。うん。

 映画後半に展開する「物事の裏に隠された真実」が明るみに出るあたりから、色々と強引だった主人公の行動にどんどん説得力が与えられるのはいいけれど、それにしたってなお強引だよなあ…とか、ヒロインがそんな都合よく動くかなあ…とか思わないでもないけれど、そもそも発端から解決法に至るまで、さまざまな要素が「常人とは違う」描き方がされてる一風変わったマサーラー演出の妙を楽しむ映画ってことなんでしょかどうでしょか。結局はNTR Jr.の大暴れを楽しむべき映画ではあるんだろうけども。

挿入歌 Sri Anjaneyam (聖なるアンジャネヤよ)

*アンジャネヤとは、ここでは「天女アンジャナの息子」の意で猿神ハヌマーンの尊称の1つ。苦難に遭う人々の前に現れ友情のもとに助力する、強力な助力者を体現する存在である。



「Oosaravelli」を一言で斬る!
・ショートヘアのタマンナー 、初めて見た!

2022.10.28.

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*1 季節の変わり目に9日間かけて行われる女神祭。特に9〜10月のシャラド・ナブラトリが大規模で一般的。



*2 南インド アーンドラ・プラデーシュ州とテランガーナー州の公用語。
*3 実際には、企画時にさまざまなタイトル候補が作られた上で選考されたものとか。
*4 北インドの西ベンガル州とトリプラ州の公用語。
*5 さらにカナダ映画にも端役出演したそうな。
*6 南インド タミル・ナードゥ州の公用語。
*7 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。