インド映画夜話

愛と憎しみのデカン高原 (Preminchukundam Raa) 1997年 151分
主演 ヴェンカテーシュ & アンジャラ・ザヴェーリ
監督 ジャヤント・C・パーランジ
"庶民よ、負けるな。"


むんむん様企画のなんどり映画倶楽部vol.17にてご紹介頂きました!
皆様、その節はお世話になりました。なんどりー!

挿入歌 Pelli Kala Vachesinde



 デカン高原のとある巨岩遺跡にて、対立する村同士の男女が村長を無視して結婚儀式を執り行った。しかし、村長ヴィラヴァドライヤは弟分のシブドウを使ってこの二人を抹殺。この結婚を取り仕切ったシブドウの父親をも、制裁のため殺してしまう!
「シブドウ、村長に逆らう者を殺す事は是か否か!?」シブドウは答える「是なり!!」

 ハイダラバードの大学生ギリダール(通称ギリ)は、食堂で起こしたケンカ騒動の責任をとらされて、カルヌールの姉の嫁ぎ先の家での謹慎を命じられる。そこでギリは、姉の3人の子供たちと過ごす中で、時々見かける隣の家の美女カーヴェリに一目惚れ!
 あれやこれやでなんとか両者が急接近した頃、ギリの実家で彼の縁談が持ち上がり、ギリは一度帰宅しなければならなくなった。この縁談を誤解したカーヴェリはギリを突き放そうとするも、ギリが縁談をわざと破断させてカーヴェリと結婚したいと思っている事を知らされ、彼女もまたギリとの結婚を強く望むように!!
 …しかし、そこに現れた彼女の父親ヴィラヴァドライヤは、問答無用に娘を連れ帰り、手下の暴力団を使ってギリとの縁を切ろうとする。「身分違いの結婚なぞ認めない。お前は親の言う通りに生きればいいのだ!!」

 その頃、村の対立を理由に結婚儀式直後に殺された新郎の兄が、ヴィラヴァドライヤヘの復讐のため、その娘カーヴェリ誘拐を計画していた…。


挿入歌 Ala Choodu Prema

*なんとなくノリが、同年公開作のヒンディー語映画「イエス・ボス」に通じる所があるネ。


 原題の意味は、パンフによれば「愛し合おうよ、さあ!」。
 年間製作本数150〜200本以上(*1)と言う競争激しいテルグ語(*2)映画界では初めて、映画館100館で120日以上のロングランを達成したと言う傑作。
 日本では、1999年にテルグ語娯楽映画では初めて一般公開された作品(*3)。2004年にNHK-BSで放送。
 日本のテルグ語映画公開では、これ以前には唯一、85年と97年に文芸映画「シャンカラーバラナム」のみが特別上映されていたそうな。

 邦題のせいで、最初「アルターフ(Mission Kashmir)」みたいな戦争もの(未見だけど…)か、「ゴッドファーザー」みたいな何世代にも渡って渦巻くお家騒動みたいな話かと勝手に思ってたけど、ふたを開けてみれば、直球テルグ娯楽作な恋愛・アクション・家族もの・青春映画で、特に原題で強調されるように新世代の自由恋愛讃歌を歌い上げる作品になっていた。
 一般庶民の主人公、強気なヒロイン、親子の対立、街のギャングたちの襲撃、よくわかんない不思議なCG効果、愛と人生に対する名台詞のオンパレード、血みどろアクション(*4)、鬼顔親父群、爆発で吹っ飛ぶ車……と、00年代以降のテルグ語娯楽映画の基本要素は、すでにこの時点でしっかり息づいていたのね!! …と感心しきり。今もよく見る出演者も何人か出てくるし。本作でも出演してるシュリーハリ出演作「Brindavanam(ブリンダヴァーナム屋敷にて)」との共通点とか色々勝手に結びつけながら見てしまいましたわ。

 主役のヴェンカテーシュ(本名 ヴェンカテーシュ・ダッグバティ)は、テルグ語映画界で活躍する男優。父親は高名な映画プロデューサー Dr. ラーマナイドゥ・ダッグバティ、兄は本作のプロデューサーでもあり、映画製作配給会社スレーシュ・プロダクションの創設者スレーシュ・バーブ・ダッグバティ(*5)と言う映画一族出身。
 タミル・ナードゥー州チェンナイで育ち、子役から映画界入り。米国のモントレー・インスティテュート・オブ・インターナショナル・スタジオで学んだ後、1986年の「Kaliyuga Pandavulu」で主演デビューしてナンディ・アワード主演男優賞と新人男優賞を獲得。その他、1988年の「Prema」1995年の「Dharma Chakram(正義の車輪)」を始めとして各作品で多数の映画賞を受賞し続けている。

 ヒロイン カーヴェリを演じるのは、印英ハーフのアンジャラ・ザヴェーリ。
 英国ロンドンのグジャラート系家庭生まれのポーツマス育ちで、演技と共に医療を修了しているそうな。
 1997年のヒンディー語映画「Himalay Putra」の端役で映画デビュー。同年に本作でテルグ語映画界に初出演&主演デビューした他、タミル語映画「Pagaivan」でもタミル語映画界初出演&主役デビューしている。2001年の「Dubai」ではマラヤーラム語映画に出演し、2005年の「Nammanna(私たちの兄さん)」ではカンナダ語映画にも出演&主演しているそうな。

 本作の監督ジャヤント・C・パーランジは、グジャラート州ガンディナーガルやカルナータカ州バンガロールで育った映画監督で、学生のうちから芸術にのめり込み、ハイデラバードに移って脚本を学んだ後、テルグ語テレビドラマで頭角を現した人。
 ドキュメンタリーやCM製作、美術(小道具)製作を経て、2002年にオリヤー語(*6)映画「Nyaya Anyaya」で監督デビュー(らしい)。2本目の監督作となる本作で、テルグ語映画界での監督デビューとなる。その後の監督作ほとんどが大ヒットすると言うテルグ映画界の名匠で、音楽家マニ・シャルマー(*7)とのコンビも有名。2014年には、初のカンナダ語映画となる「Ninnindale」を大ヒットさせたと言う。

 つかみの凄惨な事件、前半のラブコメ、中盤以降不穏な空気が流れはじめての、後半のアクション&家族劇と言う、インド映画の基本のような構造の映画で、テルグにしてはカット割りもわりとゆるい(*8)。
 自由恋愛に突き進む男女ってことで、後半からDDLJ(*9)っぽいシーンが所々にあったけれど、インド全体がそう言う空気を共有してた頃とかあるんでしょか。まあ、ヒロインの態度、ラスボス親父と主人公の決着の付け方なんかはDDLJとは全く違うものになってるあたり、テルグ映画らしさ全開。あいかわらず、ナタ振り回すギャングたちが堂々と街中で登場人物たちを追い回す物騒な世界だったりしつつ、"愛"を体現する主人公たちが"憎しみ"を体現するギャングたちを、言葉と勢いで圧倒する様はまさしく清々しい。「尊敬に値しない人間の言う事に、従う理由はない」とか、戯曲的名台詞もポンポン出るから要チェック!!(その分、ツッコミ所も満載だけど)

 とかなんとか言いつつ、映画の最後の最後までシブドウ役の人を、プラカシュ・ラージだと思いこんでて「あれはシュリーハリさん」と指摘されて「マジでぇぇぇぇー!!!!」と驚いていたテルグ初心者なワタス。くぅ、日々これ修行ゼヨ。シュリーハリさん恰幅と眼力ありすぎゼヨ。


挿入歌 Chinni Gundelo







「愛と憎しみのデカン高原」を一言で斬る!
・最初と最後に出てくる巨岩遺跡って、セットなのか本物なのか? なんとなーくストーンヘンジっぽかったけども…?

2014.7.19.

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*1 当時。現在は製作環境の充実によってさらに増加の一途らしい。
*2 南インド アーンドラ・プラデーシュ州とテランガーナー州の公用語。
*3 …なんだけど、ソフト化はされなかったよう。
*4 と言うほど、本作は血飛沫はなかったけど。
*5 ヴィンカテーシュ自身も、この会社の副社長だったりする。
*6 東インド オリッサ州の公用語。
*7 本作の音楽担当でもある。
*8 Ashokのイメージがあるせいか…テルグが、インド映画で一番テンポが速い気がしてたもんで。
*9 1995年のヒンディー語映画「花嫁は僕の胸に(Dilwale Dulhania Le Jayenge)」。