インド映画夜話

ペーッタ (Petta) 2019年 172分
主演 ラジニカーント他
監督/脚本/作詞 カールティク・スッバラージ
"黙って見てろ。これがカーリのゲームだ"




 その日、大学講堂で暴れる暴漢たちを、たった1人で制圧する男がいた。
「ぜ…全員やられちまった。1人だ。たった1人のせいで…!!」

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 山間の避暑地ウーッティ(タミル・ナードゥ州ニーラギリ県ウダカマンダラム)の大学は、"恐怖組"と呼ばれる留年組生徒に支配される荒れた学校。そこに、新たな寮長として奇妙な男カーリが赴任してくる。
 恐怖組リーダー マイクは、地元ギャングを手駒にする父親の権力をかさにやりたい放題だったものの、カーリは彼らを一瞬で鎮め、反省動画をネットにアップさせて学寮に平和をもたらしてしまう。
 前代未聞の破天荒さを現すカーリへの復讐に燃えるマイクは、カーリが特に目をかけている新入生アンワルを狙って仲間たちと深夜に寮の襲撃を仕掛けるが、待ち構えていたカーリとの乱闘が始まるさなか、自分の命令を聞かずに敵味方関係なく攻撃する見知らぬ男たちが襲撃犯に混ざっていることに驚愕する…!!


挿入歌 Ullaallaa


 タイトルは、主人公の名前。単語としては「縄張り」の意味になるとか。
 2012年のタミル語(*1)映画「Pizza」で長編映画監督デビューした、カールティク・スッバラージの5本目の監督作。

 インド本国に先駆けて、フランス、アメリカで公開。インドと同日公開でデンマーク、クウェート、マレーシアでも公開している。検閲対策のため、オーストラリアとイギリスでは暴力シーンを削った編集版での公開となったそう(*2)。
 日本では、2019年にSPACEBOX主催で英語字幕版が自主上映。NETFLIXにて日本語字幕版「ペッタ!」が配信され、同年のIMW(インディアン・ムービー・ウィーク)では別の日本語字幕版「ペーッタ」のタイトルで上映されている。

 ラジニカーントの大ファンを標榜するカールティク・スッバラージ自身がラジニカーントを迎えて作った、ラジニ・リスペクト映画であり、理想的ラジニ・スタイル映画でもある。そこかしこに過去のラジニ映画のオマージュやネタが仕組まれ、善悪2面の顔を場面場面で使い分けるラジニの魅力をこれでもかと画面に焼き付けるラジニファン垂涎の映画、でしょか(*3)。

 お話は、前半が山間の大学を舞台にしたスクールウォーズ的学園ドラマ。ある事実の暴露とともに過去の回想シーンを挟んで、後半は北インドを舞台により血で血を洗うギャング抗争ものへと変化する2部(3部?)構成。
 霧に包まれた景勝地ウーッティ(*4)を舞台にした前半は、コメディやロマンス劇成分多めでつかみはOK。そこから謎の暴漢増し増しによる襲撃アクションでのラジニ無双っぷりに口あんぐりしていると、さらに治安最悪な北部州を舞台にした「人殺し上等」なシリアルキラーしかいないギャング映画へと変化して行く。その変幻自在な映画スタイルは、そのまま主演のラジニカーントの変幻自在っぷりと共鳴するようで、底の見えない不敵なラジニのひょうきんさ・強面さ・喜怒哀楽のこれでもかというスタイルの変遷を一気に堪能してしまえる。

 まあとにかく、「きっと、うまくいく(3 Idiots)」や「Mirchi (ミルチ)」でも思ったけど、インドの大学って行きたくないな…と思ってしまうほどには荒れた学校を舞台に、その辺にある鉄格子なんかを即凶悪な武器に使って闘いまくるアクションシーンのトンデモっぷりも最の高。「不満があるなら、声をあげて改革しなければ」と言う最初の学生への呼びかけが、ギャング抗争ものへと変化して行く映画の伏線ともなり、主人公を描く鍵ともなっていくテンポの変調具合も良きかな。後半になると、「南インドから見ると、北インドって行きたくないな…」って思えてしまうドンパチ具合と「殺そうか?」の(文字通りの)殺し文句もまぁオソロシイ。マルチスター出演による、トップスターたちの競演も花を添えて、いろんな角度で楽しめてしまう映画になっておりますことよ。

 監督&脚本を務めるカールティク・スッバラージは、1983年タミル・ナードゥ州マドゥライ生まれ(*5)。
 父親は、ラジニ映画「カバーリ(Kabali)」にも出演している男優ガジャラージ。
 大学で工学を修了して、バンガロール(別名ベンガルール)でソフトウェア・エンジニアとして働き始めるも、映画への興味から1日映画制作ワークショップを受講して短編映画を作り始める。短編「Kaatchipizhai」で注目され、12年のタミル語映画「Pizza」で長編映画監督デビューし国際南インド映画賞の新人監督賞他を獲得。これにより、当初企画していた「Jigarthanda(冷たい心)」の製作予算を手に入れて14年に公開させてやはり大ヒット。16年のオムニバス映画「Aviyal」ではプロデューサーデビューもしている。

 喧嘩上等な寮長による問答無用の学校直しが、いつの間にか裁けぬ悪を裁く愛する人々の復讐に走る世直しへと様変わりしていく様は「必殺仕事人」のノリを彷彿とさせるかのよう。そういうノリの多いマサーラー映画って、やっぱり時代劇的な物語構成と近いのかもしれないなあ…と日本での人気もさもありなん、って納得しつつ見てたけど、この映画は音楽なんかはインド+中南米音楽的なノリも感じさせる(*6)。そんな、映画の密度を加速させる多国籍な雰囲気も善悪の価値観も飲み込んで、インド映画は日々変わっていくのですなあ。

挿入歌 Aaha Kalayanam



「ペーッタ」を一言で斬る!
・また、『ブルース・リー道場』と言いつつ柔道だか空手習わせてるんだから…(イイゾモットヤッテー!)。

2019.10.25.

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*1 南インド タミル・ナードゥ州の公用語。
*2 そのイギリス公開版が、ニュージーランドでも公開されている。
*3 さっそく、過去のラジニ映画見まくってネタ元を確認せんければ…!!
*4 と言いつつ、ロケはダージリンで行われたらしい。
*5 劇中のペーッタの生まれ故郷ですね!
*6 特に、マドゥライでの結婚パレードあたり…似てない? 似てないかなあどうかなあ。
*7 多少メルヘン的なニュアンスも匂う?