インド映画夜話

フィッローリ ~永遠の詩~ (Phillauri) 2017年 131分
主演 アヌーシュカ・シャルマー(製作も兼任) & ディルジット・ドーサンジ & スーラジ・シャルマー
監督 アンシャイ・ラール
"愛の嘴が、僕の名前をつぶやきますように"
"鳥の歌の中で覚えておいて。心を貫くように"
"バラの棘と花びらの血によって、永遠の春が訪れる如くに…"




 その日、悪夢とともに目覚めたカンナン・ギルは、久しぶりのインド帰国を果たしていた。
 彼は、幼馴染の恋人アヌーとの結婚式にのぞまなければいけないのだが、式を取り仕切る司祭から「不吉な星まわり」を取り除くため、式の前にある老木と結婚しないと人生を破滅させることになると言われ大笑いするが、周りのインド人たちは真剣だったのだ…。

 馬鹿馬鹿しいインド式習慣に付き合わねばならないカンナンは、嫌々ながら両家一族の眼前でフィッローリの大木を相手に結婚式にのぞみ、式後にはその大木は親戚の指示で切り倒される。…その晩、カンナンの寝床に突如女の幽霊が現れ、朝になってもカンナンを追い回してくる!!「あなたは一体誰? なぜ私は、この屋敷に連れてこられたの…?」


プロモ映像 Wats Up (なんなんだ! [皆が騒いで踊りたがっているぞ])


 モデルから助監督になったアンシャイ・ラールの初監督作となる、ヒンディー語(*1)・メルヘンロマンス映画。
 製作は、FOXスター・スタジオ&主演アヌーシュカとその弟カルネーシュ・シャルマーが設立したクリーン・スレート・フィルムズ(*2)。インドのほか、クウェート、フランス、オランダ、米国でも公開。
 日本では、2018年のIFFJ(インディアン・フィルム・フェスティバル・ジャパン)にて上映。

 パンジャーブの一地方を舞台に、カンナンとアヌーの現代パンジャーブ人コンビの婚約式〜結婚式と、現代機器のない時代を舞台にした幽霊シャシーの生前の恋愛劇〜結婚式を対比的に描いていく物語に、それぞれの時代的ギャップやパンジャーブの歴史伝統なんかが絡んでくる軽快なメルヘン映画。
 幽霊との恋愛劇といえば、ラジャスターン地方の民話をもとにした「Paheli(謎かけ)」「夫になりたかった幽霊(Duvidha)」なんてのがありましたが、本作は女性側が幽霊となったパンジャーブのお話。幽霊も、死亡後に地縛霊的に木に取り憑いていた状態の存在で、「Paheli」の精霊的な幽霊よりはずっと日本や西洋の幽霊観に近い感じ(というかまんま)になっていまする(*3)。

 カナダ在住でインド的文化に否定的な主人公カンナンと、英語や現代機器を理解できず詩を愛する幽霊シャシーとの凸凹コンビぶりが楽しい前半、シャシーの生前の思い出が語られる中盤を経て、歴史的事件を効果的に物語に取り入れた後半の怒涛の展開に「おお〜」と唸らされる展開が嬉しい。まあ、伏線とかかなりハッキリ「伏線ですよ〜」と出てくる一直線シナリオなので、インド映画的濃さでいえばあっさり気味な読後感ではある。この辺は世界公開を見据えたバランス感覚なのか、単純に制作上の都合なのか。綺麗にまとまった佳作ではあるけども。

 現代編主人公カンナンを演じたのは、1994年ニューデリーのマラヤーリー家系(*4)に生まれたスーラジ・シャルマー(・チュライ)。父親はソフトウェアエンジニアを、母親は経済学者をしているそう。
 学生時代に、演技経験皆無ながらアン・リー監督作「ライフ・オブ・パイ(Life of Pi)」のオーディションを勝ち抜き主人公パイを演じて映画デビュー。数々の映画賞に輝く。デリーの大学に進学して哲学を学びつつ、14年のハリウッド映画「ミリオンダラー・アーム(Million Dollar Arm)」出演に続き、15年の「Umrika」でヒンディー語映画デビューする。本作は、映画デビューから数えて5本目の映画出演作。映画の他、米国ドラマシリーズ「HOMELAND」などTVドラマでも活躍中。
 本作では、なんかやたらぶ厚い唇が印象的。

 監督を務めたアンシャイ・ラールは、モデル出身。
 デリーの大学で報道&マスコミュニケーションの学位を取得し、モデルとしてムンバイで働き出した後、06年の「Pyaar Ke Side Effects(愛の副作用)」で助監督の仕事を得て映画界入り。数々の映画の助監督を経験したのち、本作で監督デビューとなった。

 現代編ヒロイン アヌーを演じるメフリーン・ピールザーダーや、過去編の恋の相手ロープ・ラールを演じるパンジャーブ人歌手ディルジット・ドーサンジなど、実際にパンジャーブ人を配置した映画は、後半になると、そのパンジャーブ人にとって忘れることのできない歴史的事件によって、運命を変えられた人々の姿を描き出して行く。
 自殺や他殺された人が幽霊となって現場に居続けるってのは、インドの幽霊観…というよりは世界共通の感覚でしょか。星をまとって礼服で現れる幽霊と言うところにメルヘン的な美しさがありますけども。

 そういや、木と結婚させるってインドの習慣も時々聞くけど、同じような話でよく聞く犬と結婚させるってのとどう違うのか誰か教えておくれやす(*5)。
 基本、占星術的に星巡りの悪い組み合わせの当事者が持つ悪運を、仮の結婚でその相手となる木なり動物なりに移してしまう事で、結婚の障壁をなくす意味でやるんだそうだけども。本作では、儀式後に木を切り倒して「死が二人を分かつまで」が成立したとみなして正式な結婚式に入ろうとしてたっぽいけど、実際のとこもそうなの? 動物と結婚させた場合はどうなるのー!!??

挿入歌 Dum Dum (君の名前を唱える僕の祈りは [何百もの翼で空をゆく])


受賞歴
2017 Jagran Film Festival 最優秀VFX賞


「フィッローリ」を一言で斬る!
・"スカイプ"のヒンディー発音は"スカイペー"。覚えました(ローマ字発音そのままでいいんですね! ジャパングリッシュにも取り入れましょ!!)

2018.9.7.
2018.10.6.追記

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*1 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。
*2 「国道10号線(NH10)」に続き、2本目の元請け映画。
*3 日本と同じで足がない幽霊というのも注目!!!
*4 ケーララ州の公用語であるマラヤーラム語を母語とするコミュニティ。
*5 星巡りからくる不運の種類による…のでしょか。