インド映画夜話

プリンス (Prince / 2010年ヒンディー語版) 2010年 139分
主演 ヴィヴェーク・オベローイ
監督 クーキー・V・グラーティー
"さあプリンス、ショータイムよ"




 8月4日深夜。ムンバイのDCOI(ダイヤモンド・コーポレーション・オブ・インディア)は、一夜にして所蔵ダイヤを全て強奪された。この犯人…世界中に出現するハイテク強盗…その名は"プリンス"。
 しかし、その約3ヶ月後の11月11日夕刻。南アフリカのダーバン近郊の屋敷で目覚めた彼は、その時過去の記憶全てを失っていた…。

 彷徨う彼を突如襲撃したインド政府情報局I-GRIPは、インドの危機回避のため、彼が裏社会のボス サランと取引していたコインを買い取りたいと脅迫。「4日間の猶予をやる。コインで失った記憶を取り戻し、サランとの取引を止めてコインを我々に譲れ」
 だが、その後彼の前に現れる"マヤ"を名乗る複数の女性たちは、彼とコインの過去についてまったく違う話を語り、その裏で暗躍するある人物の名前を上げるのだった…。


OP O Mere Khuda (ああ神よ )


 デビュー当時はイケメン俳優としてそこそこ活躍してたと言うヴィヴェーク・オベローイ(*1)主演のヒンディー語(*2)SFアクション大…作? 同名タイトルでテルグ語吹替版、タミル語吹替版も公開され、ヴィヴェーク自身がそれぞれの言語で主役プリンスの吹替を担当したそうな。
 日本では2013年に、「ロボット」日本公開の騒ぎの中「『ロボット』の次は『プリンス』だ!」のキャッチでDVD発売されてました。

 そういや、ヴィヴェーク映画はまだちゃんと見たことなかったなぁ…と思いつつ見てたけど、あれ? こんな棒演技な悪役顔の兄ちゃんだったっけ彼?(*3) 映画自体は、OPアクションからなんとなくトム・クルーズのアクション映画を意識した感じに見えて来て、「これからヴィヴェークをトム・クルーズくらいヒットさせるゼ」って意気込みでもあるのかな……とか思ったんだけども、それ故になんか色々と惜しい映画になってる感じ。もっとも、インド映画には珍しいSFアクションとして見れば、その試金石となるだろうインパクトはある。ドラマよりもアクションに比重が傾いてる所なんかは「Blue」にも通じるかもだけど、あれよりは話の筋をしっかり通そうとしているのでそこは好感触。

 主役プリンスを演じるヴィヴェーク・オベローイは、1976年ハイデラバード生まれ。父親はクエッタ出身のパンジャーブ人俳優スレーシュ・オベローイ。
 ロンドンでの俳優ワークショップで見出されてニューヨーク大学で演技を学んで映画界入り。最初はスクリプトライターとして働いていたそうな。
 2002年にラーム・ゴーパル・ヴァルマー監督作「Company(カンパニー)」で俳優デビューしフィルムフェア新人賞と助演男優賞を獲得。同年公開作「Saathiya(みちづれ)」では主演男優に昇格し映画も大ヒット。フィルムフェア主演男優賞にノミネートされた。その後様々な映画に出演するも伸び悩み、本作で「ヴィヴェークが返り咲くか」と注目されてましたが…、さて。
 ちなみに、本作と同年公開の2部作伝記映画「血の抗争(Rakta Charitra)」でテルグ語映画、タミル語映画(*4)デビューも果たしており、この年に、カルナータカ州大臣の娘プリヤンカ・アルヴァと結婚している。

 本作が単独での初監督作となるクーキー・V・グラーティーは、2003年の「Ishq Vishk(ラブ・ロマンス)」以降助監督で活躍していた人。
 歌曲監督も兼任していた06年のヴィヴェーク主演作「Pyare Mohan」でインドラ・クマールと、同年公開作「Chup Chup Ke (静かに、静かに)」でプリヤダルシャンと共同で監督デビューし、本作で単独監督デビューとなる。…んが、その後の情報が出てこない…ムゥ。

 映画自体、ヴィヴェークだけがアレってわけではないけれど、色々と雑な作りが目立ってしまって。ボリウッドには珍しいSFアクションを目指そうとするやる気は伝わって来るも、演技・撮影・編集・衣裳・小道具大道具・音響その他それぞれの部署同士のシンクロ具合がどーも空回りしてるシークエンスが多くて、後半になればなるほどそればっか気になってしまう。序盤のダイヤモンド強奪シーンは「ルパン三世」や「ミッション・インポッシブル」的で期待できる分、その落差がやっつけ的でキツい…。

 ま、ツッコミ所満載とは言え、やはりSFの土壌が未開拓(*5)なボリウッドにおいて、ハリウッドアクション映画や「ドン」や「Dhoom」シリーズの向こうを張ってアクション映画作ると、ここまでは出来ると言う見本ではある。インド系移民が多いと言う南アフリカはダーバンの景色も新鮮だし、全員峰不二子か! ってヒロイン3人も新顔な美人さんばかりなのも高ポイントでっせ!

挿入歌 Jiyara Jiyara ([今すぐ、あなたが欲しいと] 心は叫ぶ)

*ヒロインの一人を演じるネーヌー・バジワー(カナダ生まれのパンジャーブ人女優兼プロデューサー)のためのPVミュージカルシーン。


受賞歴
2011 Golden Kela Awards 最悪お馬鹿シークエンス賞
2011 The Ghanta Awards 最悪パロディ映画賞


「プリンス」を一言で斬る!
・日本版DVDに入ってるオリジナルトレイナー、ちゃんと日本語字幕がついてるー!!

2018.3.16.

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*1 ミス・ワールドのボリウッド女優アイシュの元カレってことで有名!
*2 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。
 その娯楽映画界を、俗に"ボリウッド"と呼ぶ。
*3 脇が締まらない嘘くさい筋肉と、薄い眉が余計にそんな雰囲気を助長する…。
*4 タミル版のタイトルは「Raththa Sarithiram(血の歴史)」。
*5 …なのかなあ結局。