インド映画夜話

Puli 2015年 154分
主演 ヴィジャイ & シュリーデーヴィー & スディープ
監督/脚本/原案 シンブ・デーヴァン
"岩によりて道と為し、名を捨てて力と為せ"
"死神の寝床を砦として、洞を抜けよ"
"恐れられし者からまずちびり上がりて、日が陰りては鎖を弾け"
"しかして後、汝に勝利あらんや"




 遥かなる昔。
 海を越えてやってきた青い目と牙を持つ強靭なヴェーダーラ人によって、我らが祖先の平和は破られ、殺戮と混沌が訪れた。
 平和を模索する老いたヴェーダーラ王とその娘である魔法を操るヤワナ王女の意思に反して、王宮は残虐なる将軍ジャラダランガンの思うままに。そんな中、悪魔たちに立ち向かう勇者"プリー"(=虎の意。本名プリヴェンダラン)が現れるが、ジャラダランガンの計略にかけられ夫婦ともに殺されてしまい、村は全て焼き払われてしまう…ただ一人、鳥に連れ去られていったプリーの赤ん坊を残して…。

 知己の司祭の魔力を持って王国を牛耳り、王と婿王子を殺してヤワナ王女を洗脳したジャラダランガンの専制が到来する頃、川下の村の村長が川を流れてきた赤ん坊と喋る鳥を発見する。村の司祭に不吉視されながらも"マルディーラン"と名付けられたその赤ん坊は村長の息子として育てられることになるが、この子供こそ"プリー"の忘れ形見だと知る者は誰もいない…。


挿入歌 Puli Puli


 タイトルは、タミル語(*1)で「虎(*2)」の意(*3)。
 タミルのイライヤタラパティ(若大将)ことヴィジャイ主演の、ファンタジーアクション大作。インド国内でテルグ語(*4)吹替版、ヒンディー語(*5)吹替版も同時公開された他、国外ではフランス、アメリカ、クウェートでも公開。
 日本では、2015年に埼玉県にてSPACEBOX配給による英語字幕版で上映。

 「バーフバリ(Baahubali)」を向こうに張ってのタミル・ファンタジー大作登場! …と思って見てたけど、「バーフバリ」との差別化を図るためか方向性の異なるファンタジー映画でありました。
 例えるなら、「バーフバリ」がマハーバーラタのオマージュ(*6)なら、こちらはクリシュナ神話のような民話系テイスト(*6)。「ロード・オブ・ザ・リング」に対する「ナルニア国物語」、マンガアクションに対するゲームアクション、みたいな感じ。
 結構派手に魔法が登場するし、小人(*7)や、一つ目巨人、予言力のある巨大亀(*8)なんかも登場するからメルヘン度もそれなりに高し。実は珍しい、本格タミル・ファンタジー映画として注目ですよ奥様!

 青い目と牙、人間よりも強靭な身体能力を持つヴェーダーラ人のスーパーパワーに対し、小人や喋る鳥を味方にした主人公が、人間側勇者として活躍するその様は、ギリシャ神話のティターン神族と人間側英雄のような構図(*9)ながら、お話自体はわりと軽快でアクションよりもアドベンチャー度合いの方が高い。そういや、各キャラクターの衣装なんかはフランスやスペインテイストがインド的なものに付加されてる感じで「三銃士」とか「ドン・キホーテ」的なカラッと明るい世界での時代劇って感じもする。

 冒頭、珍しくロン毛ヴィジャイが大活躍していて「おお、時代劇だ!」と思ってたら、やっぱりその子供が主人公となって、いつものヴィジャイの短髪ヘアスタイルに戻ってよりノリノリなお調子者主人公へスライドして行くのも、1粒で2度美味しいってもんでございます。
 この映画で、そのヴィジャイの活躍以上にインパクト大なのは、異様な目力を終始見せてくれる魔女ヤワナ演じるシュリーデーヴィーと、全ての暗躍の大元ジャラダランガン演じるスディープ。その、妖しカッコええ立ち姿の妖艶さとオーラと色気が、映画の屋台骨として常に機能している存在感がすごいのなんの!

 2012年の「マダム・イン・ニューヨーク(English Vinglish)」の復活から、タミル語映画としては2本目のシュリーデーヴィー出演作(*10)となった本作だけど、今までにない彼女の悪役演技を存分に発揮する素晴らしさ。まあ、この人の目の大きさは、王女姿だとより魔女っぽいよなあ…。そのインパクト「オズの魔法使」に登場する西の魔女っぽいと言うのは、言いすぎだろかどうだろか。

 日本でも「マッキー(Eega)」のスディープ役、「バーフバリ」のアスラム・カーン役で徐々に人気を獲得している、ジャラダランガン役のスディープ(・サンジーヴ。別名キッチャ・スディープ)は1973年マイソール州シモガ(*11)生まれ。
 バンガロール(別名ベンガルール)の大学にて、産業工学と生産工学の学士号を取得しつつ、クリケット選手としても活躍していたそう。
 97年のカンナダ語(南インド カルナータカ州の公用語)映画「Thayavva」で映画デビュー(*12)。00年の「Sparsha(接触)」で主演デビューして、フィルムファン協会カンナダ語映画主演男優賞を始め多数の主演男優賞を獲得する。翌01年の「Huccha(狂おしく)」からフィルムフェア・サウスのカンナダ語映画主演男優賞常連獲得者となり、同年の主演作「Vaalee」では挿入歌2曲を歌って歌手デビュー、06年の主演作「My Autograph」で監督&プロデューサーデビューもしていて、その後もカンナダ語映画界を支える役者&監督として活躍中。
 08年には「Phoonk(一息)」でヒンディー語映画に、10年の「Raththa Sarithiram(血の歴史)」でタミル語映画に(*13)、「Eega」でテルグ語映画にそれぞれデビューし、以降も各言語映画界で活躍中。
 俳優活動のほか、クリケットチームのキャプテンに就任していたり、イベント管理会社「ステージ360°」を夫婦で立ち上げたりもしている。

 監督を務めたシンブ・デーヴァン(またはシンブデーヴァン)は、1975年タミル・ナードゥ州マドゥライ生まれ。
 学生時代には美術に秀でて、週刊誌アンダンダ・ヴィカタン主催の美術会で最優秀賞を獲得するほどだったそう。科学とジャーナリズムを専攻して、卒業後にはアンダンダ・ヴィカタンの風刺漫画家兼編集助手として働き出して読者から大いに賞賛されるほどだったと言う。
 その後、00年のタミル語映画「Vetri Kodi Kattu(勝利の旗は揚がる)」の助監督として映画界入りして、06年の「Imsai Arasan 23m Pulikesi(拷問王プリケセイ23世)」で監督&脚本デビューする。以降、監督&脚本家として活躍していて、本作は5本目の監督作になる。

 監督が(風刺)漫画家出身と聞けば「ああ、なるほど」って感じの漫画的(*14)絵面や物語構成が随所に見られる、わかりやすさ優先の勧善懲悪世界と、子供をとことん楽しませて見まっせ的な楽しい仕掛けで彩られた映画で、重厚な破天荒さを武器にしている「バーフバリ」とは、やはり狙ってる方向そのものが違う。
 ダブルヒロインの出番がそれなりにしかないのもご愛嬌。主演ヴィジャイとその周りの登場人物たちとの早口掛け合い漫才で話を転がしていくタミル話芸のテンポの良さが、心地よく爽快。
 青い目の種族に混ざるために、青い汁でブルーのカラコン作るって展開に「おい!」ってツッコむのが楽しい映画ではあるけど、その青い目を強調するようにヴィジャイやスディープの目が他の映画よりも印象的に大きく見開かれているようで、それに連れて目力というか色気のようなものも倍加されている表情芝居のカッコ良さが、なんとも心地よい映画でもあるのです。巨大目好きには必見だよー!

挿入歌 Mannavanae Mannavanae

*テルグ語吹替版バージョン。



「Puli」を一言で斬る!
・いつかスディープ主演のスピンオフ『ジャラタランガンとアスラム・カーン』とか作ってもいいのよ…(願望

2018.3.23.

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*1 南インド タミル・ナードゥ州の公用語。
*2 を代表とする大型のネコ科動物?
*3 かの南方熊楠は、著作「十二支考」で虎の名義について「タミル語でピリ」って書いてたネ!
*4 南インド アーンドラ・プラデーシュ州とテランガーナー州の公用語。
*5 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。
*6 って言い切ると、色々語弊があるけども。
*7 ノリがガリバー旅行記のリリパットやー!
*8 ネバー・エンディング・ストーリーやー!!
*9 って説明する前に、インド神話にも似たような何種類もの神族や半神族が出てきますけども。
*10 そして、タミル語映画では最後の出演作となってしまった…合掌。
*11 現カルナータカ州シヴァモッガ。
*12 同年に、他に2本の映画にノンクレジット出演しているとも。
*13 この映画は、ヒンディー語映画とテルグ語映画で公開された「血の抗争(Rakta Charitra)」2部作を、1本にまとめたタミル版映画になる。
*14 あるいは絵本的。