インド映画夜話

Race 2 2013年 145分
主演 アニル・カプール & サイーフ・アリ・カーン & ディーピカ・パドゥコーン & ジャクリーン・フェルナンデス & アミーシャー・パテール & ジョン・エイブラハム
監督 アッバス=ムスタン
"裏切りは、生き残るための鍵"




 その日、北キプロスの街路にてランボルギーニが狙撃され炎上した…。その犯人の思惑とは…!!

 それから数年後のイスタンブール。ここに、裏社会の大物たちが集結していた。
 地下闘技場の常勝レスラー出身で、この街の支配者となったマフィアのドン アルマーン・マリク。
 マリクの婚約者で抜け目ない窃盗犯でもあるオミーシャー。
 マリクの異母妹(異父妹?)にして、手段を選ばない実業家兼殺し屋のアレーナ。
 マリクの取引相手のカジノ王ヴィクラム・ターパル。
 この裏世界を仕切る4人の前にその日、嵐がやってくる…その男の名は、ランヴィール・シン。突如イスタンブールのカジノで大金をばらまいた男。
 ランヴィールから「最近盗まれたユーロ紙幣原盤を持っている」と取引を受けたヴィクラムは、彼から偽造ユーロ紙幣を買い取る契約を交わすが、これこそランヴィールが仕掛けた一連の裏切りの始まりだった…!!


挿入歌 Party on My Mind (パーティー・オン・マイ・マインド)


 2008年のマルチスター・ピカレスク・ヒンディー語(*1)映画「レース:裏切りの応酬(Race)」の続編! 副題は「Betrayal Is Survival」。
 主演のアニル・カプールとサイーフ・アリ・カーン(*2)は同じ役で続投。あとは配役を一新した作品となる。

 インド本国と同日公開で、オーストラリア、英国、アイルランド、モロッコ、オランダ、ニュージーランド、パキスタン、タイ、米国、ベトナムでも公開されたよう。
 のちに、タミル語(*3)吹替版、テルグ語(*4)吹替版も公開。大ヒットによって、リブート版になるシリーズ第3作「Race 3」も2018年に公開されている(*5)。

 前作「レース」から直接繋がっている物語で、前作主人公のサイーフ演じるランヴィールが、イスタンブールを舞台に新たな復讐計画のもとに、裏社会の有力者たち相手に丁々発止の情報戦を仕掛けるド派手なサスペンス。
 冒頭に車両事故を装った殺人事件が描かれるのも前作と同様ながら、よりド派手な画面と舞台作りによるバブリーな映画になっていて、そのハッタリ具合の暴走っぷりも清々しい。出演者それぞれに見せ場も用意された視野の広さもあり、それぞれに油断ならない騙し合いを繰り広げる腹黒いセレブたちの裏切りの競争を楽しめるものにはなっている。…んだけども、本作と同じアッバス=ムスタン監督作でもあるシリーズ前作、それに続く12年の監督作「ゴールド・プレイヤーズ(Players)」でもハマったあまり盛り上がらないマルチスター映画の穴にまだハマってる感じもあって、せっかくのド派手舞台にド派手映画スター集結が100%発揮されてないような不完全燃焼具合も感じてしまう。

 まあ一番の要因は、サイーフ演じるランヴィール、ジョン演じるアルマーンの悪ぶりがなんとなく取って付けたような単純な悪者演技に見えてしまう、全体として人の良さそうな雰囲気が見えるところか。サイーフなんか、前作「レース」や主演作「エージェント・ヴィノッド(Agent Vinod)」でのダンディズムヒーローとほぼ同じノリで「こう言うジェームズ・ボンド的なキャラがやりたくてしょうがないんだろうなあ」って直球悪ぶり演技が逆に微笑ましいほど(*6)。
 「Dhoom」シリーズみたいな、欺しテクニックの過程にはあんま注目しないで「実は○○○だったんだよ…騙されたな!」って台詞の応酬によるザマア展開が続くのも、映画の差別化なのかもしれないけど、画面の派手さが一定に固定されてしまって飽きやすい要素でもあるかもしれない。

 その分、ヒロイン アレーナ演じるディーピカ、オミーシャー演じるジャクリーンのパワフルな存在感が光っている映画で、特にドレスアップ姿、フェンシングスタイル、潜入工作スタイルと色々な衣裳に身を包みながらアクションあり腹芸ありダンスありを披露するジャクリーンの活躍がお美しい。アレーナと言う役の立ち位置がやや中途半端になってるのが惜しいディーピカ側も、出てくるだけで他の出演者を圧倒させる眼力は、前作ヒロインたちにも負けない力強さをアピールしておりますわ。総じて、マルチスターの中では女優たちの元気さが目立って、男優たちが悪目立ちしてる感じが強い印象。

 まあ、制作時に色々とトラブルが多発していたそうで、キャスティングで色んな映画スターにオファーをしては断られが続いたり、撮影に入った時点でプロデューサーがディーピカの演技を全否定して撮影中断に追い込まれたり、実生活上の恋人関係の破局からビバーシャとの共演NGを条件に出演しているジョンが、結局ビバーシャ出演作となったことに抗議したりと(*7)、「ゴールド・プレイヤーズ」に続いて撮影が大変な現場となっていたよう(*8)。

 と言いつつ、ノリの軽い作風だけを楽しんでいればいいか、と思い始めたところにかぶる前作ヒロインの影、と言うサスペンス要素はやっぱり映画としては秀逸。
 申し訳程度ではありつつ、前作設定の競走馬のセレブオーナーと言う主人公設定もしっかり描き、前作では食いしん坊警部だったアニル演じるロバートが本作では探偵やってる時間経過演出もいい感じ(*9)。
 謎解き要素やドンデン返しが前作ほどの衝撃度がない本作で、だいたい先は見えてるとはいえ、マルチスターによるバラエティ的な見せ場の連続が、サスペンス劇で盛り上がっていく様はなんだかんだ言ってもやっぱり楽しい。その、映画の最初から最後まで各登場人物の役割上のスタイルが守られ続ける舞台演劇的な作劇が「ルパン三世」っぽい雰囲気を醸し出すとっつきの良さをも生み出してい……るのかなあどうかなあ。

挿入歌 Lat Lag Gayee ([心が勝つか私が勝つか、私は心に賭けたのよ] 貴方に夢中になったから)


受賞歴
2014 Apsara Film Producers Guild Awards 殿堂栄誉賞
2014 Screen Weekly Awards 読者選出主演女優賞(ディーピカ・パドゥコーン / 【若さは向こう見ず(Yeh Jawaani Hai Deewani)】【チェンナイ・エクスプレス(Chennai Express)】【銃弾の饗宴 ラームとリーラ(Goliyon Ki Rasleela Ram-Leela)】と共に)
2014 Zee Cine Awards パワークラブ(大ヒット)賞
2014 ETC Bollywood Business Awards 最高興行成績女優賞(ディーピカ・パドゥコーン / 【若さは向こう見ず(Yeh Jawaani Hai Deewani)】【チェンナイ・エクスプレス(Chennai Express)】【銃弾の饗宴 ラームとリーラ(Goliyon Ki Rasleela Ram-Leela)】と共に)・100カロール・クラブ入り賞


「Race 2」を一言で斬る!
・ポーカーでの、相手の手札を読んで自分の手札を上書きするデジタルイカサマ・サングラス、用途がニッチすぎるのよ!(しかもイカサマがバレる過程が杜撰すぎやしませんか!!)

2022.8.5.

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*1 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。
*2 +特別出演でビバーシャ・バス。
*3 南インド タミル・ナードゥ州の公用語。
*4 南インド アーンドラ・プラデーシュ州とテランガーナー州の公用語。
*5 ただし、興業的には散々な出来だった。
*6 監督&脚本側の方針故かもだけども。
*7 同一画面上での共演はなかったけど。
*8 …と言う報道が飛び交ってたそうだけど、真相や如何に。これ以降、ジョンとサイーフの共演が無いことも色々に憶測を呼んでますけども。
*9 その分、相変わらずセクシー担当の助手の存在感のなさがなんとも。