80年代末から活躍する名匠スレーシュ・クリシュナ監督による、27本目の監督作となるテルグ語(*2)映画。脚本を、男優兼映画監督としてテルグ語映画界で活躍するポサニ・クリシュナ・ムラーリーが担当している。
のちに、ヒンディー語(*3)吹替版「Sanyasi: The Warrior Saint」、マラヤーラム語(*4)吹替版「Sakthi」も公開され、2006年にはスレーシュ監督自身によるヒンディー語リメイク作「Rocky: The Rebel(ロッキー: 反逆者)」も公開された。
本作監督を務めたのは、1959年ボンベイ州都ボンベイ(現マハーラーシュトラ州都ムンバイ)生まれのスレーシュ・クリシュナ。
妹(姉?)に、マラヤーラム語映画とタミル語(*6)映画界で活躍していた女優シャンティ・クリシュナがいる。
経済学を修了し、映画男優兼プロデューサー兼監督のL・V・プラサードのムンバイ事務所に就職して会計士として働く中で、次第に事務所そのものを取り仕切るようになっていく。L・V・プラサードがプロデューサーを務めていた1981年のヒンディー語映画「Ek Duuje Ke Liye(互いのために生まれて)」のロケハン協力で映画現場入りして、その映画の監督K・バーラチャンデルの助手を務め、そのまま同監督作で同年公開のタミル語映画「Thaneer Thaneer (水…水…)」から助監督として働き出す。
助監督から副監督を経て、1988年のタミル語映画「Sathya(サティヤ / *7)」で監督&脚色デビューを果たし、続く89年のテルグ語映画「Prema(愛)」でナンディ・アワード監督賞を獲得。以降、この2言語映画界で活躍する中、91年の「Love(ラブ / *8)」でヒンディー語映画界にも監督デビュー。92年のラジニカーント主演のタミル語映画「Annamalai(アンナマライ / *9)」の大ヒットによって知名度を上げヒットメーカーの仲間入りを果たす。95年の監督作「バーシャ(Baashha)」は、主演ラジニカーントと共にキャリアの転機と称されるほどの記録的大ヒットを飛ばした映画で、監督自身の回顧録「My Days with Baashha(バーシャとの日々)」で当時の思い出を綴っているそうな。
1996年には「The Prince(プリンス)」でマラヤーラム語映画に、2003年の「Kadamba」でカンナダ語(*10)映画にも監督デビューしていて、各言語圏のトップスターたちを主演に起用する人気監督になるが、2012年のカンナダ語映画「Katari Veera Surasundarangi」を最後に映画界から退き、同年のタミル語TVシリーズ「Aaha」からTVやネット配信ドラマの監督やプロデューサーを務めている。
第二幕のヒロイン シリーシャを演じたのは、英国ロンドン生まれのアンシュ(・アンバーニー)。
カメラマンのカビールに見出されてK・ヴィジャヤ・バースカル監督に紹介され、2002年のバースカル監督作テルグ語映画「Manmadhudu」で映画&主演デビューを果たし、同年のヒンディー語+英語映画「Om Jai Jagadish」で衣裳デザインを担当。続く2003年には、本作と「Missamma(マダム・メーグナ)」に出演、ヒンディー語映画「Ishq Vishk(愛)」で衣裳制作担当している。その後、2004年のタミル語映画「Jai(ジャイ)」に主演しているものの、本作公開後すぐ結婚したためか以降は映画界から引退。映画界とは別に、自身のファッションレーベル「Inspiration Couture (インスピレーション・クチュール)」を展開しているそう。
第一幕と第三幕のヒロイン マハラクシュミーを演じているのは、1986年マハーラーシュトラ州都ボンベイ(現ムンバイ)に生まれたシュウェーター・アガルワール。
ミュージック・ビデオ出演から2001年放送開始のヒンディー語TVドラマ「Shagun」出演を経て、2002年のテルグ語映画「Allari(騒動)」で映画&主演デビュー。続く2003年には、カンナダ語映画「Kiccha」にも準主役(?)出演。「C.I.D. Moosa(捜査官モーサ)」でダンサー出演してマラヤーラム語映画デビュー。本作と同じスレーシュ監督作テルグ語映画「Idhi Maa Ashokgaadi Love Story」にも出演しているらしい。
その後、スイス初のボリウッド映画と称されたスイス映画「Tandoori Love(タンドーリ・ラブ)」などに出演後、2010年のヒンディー語ホラー映画「Shaapit(呪い)」を最後に女優業を退いているよう。この「Shaapit」で共演した歌手兼男優のアーディティヤ・ナラーヤンと2020年に結婚している。
マントララヤム村の聖廟を舞台に、聖人ラーガヴェンドラに言及しつつもその事績、宗教哲学には深く踏み込まず、「全てを我慢して悲劇を受け入れる非暴力」か「世に蔓延る悪を滅する暴力による改革」かを両天秤にかけた上で、「社会がうまく機能しないままであるなら、民衆が立ち上がって法の正義を書き換えるべき」とパワフルに歌い上げるストーリーラインは、まあ刺激的。非暴力の抵抗運動の理想なんて、現代社会では通用しないんだよとでも言いたげなほど高まる、現代インド社会への絶望度の高さの表現としてみれば、そのカタルシスは相当な高さを表現していますわ。
興味深いのは、こうした絶望と諦観による非暴力、そこから一転する弱きものの自制だけでは社会の腐敗が広がる一方であるのだから暴力による改革を庶民こそが進めるべきという双方の主張を、主人公の両親が共に行って先導している点。特に、いつものマサーラー文法では父親の主張だけが重要視されるものであるのに、母親もまた父親とともに2つの相反する主義主張を声高に演説するシーンが挟まれるのは、両親役に名優ムナーリー・モーハンとプラバーと言う人気俳優を起用しているが故でございましょか。両親が、それぞれの場面で引き起こされる悲劇に対して、共に家族の未来を見るが故に「非暴力」と「暴力」の主張を揺れ動きながら息子の更生のために厳しい言葉で物事を進めていこうとする姿が、その主張の激しさ、演説の巧みさもあって最も印象的になるよう演出されているのがさすが。
その親の移り変わる善悪のあり方が嫌味に見えず、どの場面でも親としての役割をきっちりこなしてるように見える絶妙なバランスを渡りきっているのは、脚本の巧みさか、演出の優秀さか。ベテランのヒットメーカー監督による、期待の若手から熟練の映画人を含めたあらゆるタレントをぶつけながら、その時代その時代にあった「怒れる民衆の姿」を見せつける映画人の語りの余裕さをも見せつけるような構成でございますわ。各場面の喜怒哀楽に簡単にコロコロ転がされる心地よさが、「I Like It」 ですゼ!
OP Nammina Nammadi ([聖ラーガヴェンドラよ] 貴方の中の私の心は [マントララヤム村のよう])