インド映画夜話

Rakhi 2006年 166分(173分とも)
主演 Jr. NTR & イリヤーナー・デクルーズ
監督/原案/脚本/台詞 クリシュナ・ヴァムシ
"女性が外出し帰宅するまでの間、この国でなにが起こっているのか…!!"


挿入歌 Rakhee Rakhee

*ラッキラッキラッキーな川崎〜♪
 主役のNTR Jr.&イリヤーナー・デクルーズと一緒に踊ってるのは、ガウリ役で出演している女優チャールミー・カウル。


 ハイデラバードでは、白昼さまざまな性暴行・人身売買事件が多発し、女性たちは抵抗する術すらなく、ただ自身の身に起こる出来事を嘆くしか出来ないでいる…。

 駅長の息子ラーキー(本名ラーマクリシュナ)は、母亡き後、父親や祖父と同じ駅員を目指しつつ妹ガーヤトリーの面倒を見る事を生き甲斐にしていた。お隣さんの恋人トリプラ・スンダリとの仲が親公認にまで進展する中、DV被害から逃げてきた叔母とその娘ガウリの世話まで買って出た事で忙しい毎日を過ごすラーキーのために、トリプラがご機嫌斜めな日々が続く。

 そんなある日、妹の親友が大学構内でストーカー男に殺される事件が発生。目の前で惨劇を見ていたガーヤトリーはトラウマで大学に行くことができなくなり、家族は、そんな彼女を結婚させる事で現場から遠ざけて事件を忘れさせようと、必死に見合い相手を見つけてきた。しかし、先方の家から結婚には10ラーク(=100万ルピー)の持参金が必要と言われて途方にくれる家族を前に、叔母が「娘ガウリとラーキーの結婚」を承諾するならガウリの持参金用に守ってきたお金を出してもいいと言う…。
 妹のために、トリプラに別れを告げてガウリと結婚する決意をしたラーキーは、妹の結婚式を祝福して送り出すのだったが…!!


挿入歌 Vasthava Vasthava


 タイトルは、主人公のニックネーム。アルファベット表記は「Rakhee」とも。
 劇中で重要なモチーフとなる、兄弟姉妹の祭ラーキー(別名ラクシャー・バンダン)とかけたタイトル。その名義はお祭りで使う兄妹間の守護を司る「吉祥の紐」の意。

 テルグのヤングタイガーことJr. NTR主演の大ヒットテルグ語(*1)映画で、同名タイトルのタミル語(*2)吹替版、ヒンディー語(*3)吹替版「The Return of Kalia」も公開された。

 女性が兄弟またはそれに近い関係の男性に贈り物(*4)をして、その相手も贈り物を返しつつ女性の守護を約束する夏のお祭りラーキーをメインモチーフに、家族や恋人の結びつきを祝福しながら、より過酷で悲惨な状況にある現代インドの目を覆うばかりの性犯罪・家庭内暴力・人身売買と言った女性をめぐる現実を糾弾するマサーラー映画な1本。

 前半は、ややコミカル風味の強い家族劇が中心で、主人公ラーキーと恋人のTVレポーター トリプラ、従妹ガウリとのラブコメや人身売買組織取材での派手派手なアクション、ラーキーと妹ガーヤトリーとの穏やかな交流の様がのんびりしていて楽しい。
 その中で、貧困層に属する主人公家族が大臣一家に足蹴にされるシーンや、それを正論で言い負かすシーンを喝采を持って描く階級差を越えた正義の在り方が現れるのは、後半への伏線もしくは本題に入る前の準備的な起伏か。
 そういや、同じく駅員を描く映画として、往年の名作「不可触民の娘(Achhut Kanya)」でも駅員は公務員でありつつ低賃金の貧困層であり低カーストの人々を雇用させているために差別対象として扱われている描写があったけど、インドにおける駅員の立ち位置ってどういうものなんだろう…?(*5) まあ、本作に関しては駅員の立場が弱いというのもあるけど、それ以上にラスボスでもある富裕層の政治家一家のゲスさがあまりにひどいって描写でしょうけども。

 そんな中で、色々に散りばめられた性暴力事件の悲惨さが、ハッキリと主人公たちに降りかかる中盤以降、怒涛の社会悪との対峙とその復讐に走るラーキーの怒りが、徹底的に世の男たちを糾弾し、女性を利用し搾取しその命まで奪い取ろうとするインド社会そのものの理不尽さを、女性たちのシュプレヒコールで見せつけるシークエンスの凄まじさったら相当なもの。そんな街中の人混みで、目標の男一人だけをガソリンぶっかけて都合良く瞬殺なんてできるんかいな…とか思わんでもないけど、ヒンドゥー教やゾロアスター教で宗教的重要モチーフである「火」で社会悪を滅するという正直すぎる絵面の強烈さはインパクト大。まあ、そこまでの規模の殺人をいかにゲスい犯罪者相手とは言え、簡単に肯定できるのか…って話もあるでしょうが、そこまでの怒りが晴らせないほど現実があまりにも悲惨で救いがないってことなんだろうね…。

 監督を務めた(パシュプリティ・)クリシュナ・ヴァムシ(生誕名パシュプリティ・ヴェンカタ・バンガッラージュー)は、1962年生まれ。
 89年のテルグ語+ヒンディー語映画「Shiva」あたりから助監督として映画界に入り、95年のシヴァ・ナゲーシュワーラー・ラーオ監督作テルグ語映画「Money Money(マネー・マネー)」でノンクレジットながら共同で監督デビュー。同年公開作「Gulabi(薔薇)」で正式に監督クレジットデビューを飾り、続く96年の監督作「Ninne Pelladata(僕の結婚相手は君)」で脚本デビューもしながら、ナショナル・フィルム・アワードのテルグ語映画注目作品賞他を受賞。以降も映画賞を獲得し続けるヒットメーカーとしてテルグ語映画界で活躍中。02年には、「Shakti: The Power」でヒンディー語映画監督デビューもしていて、03年に、女優ラムヤー・クリシュナと結婚し息子1人がいるそう。

 まあ、女性を慰みものとしか見ない男社会への復讐を、主人公の男性キャラが全面的に担って女性たちはそれを祝福しつつ応援するだけって物語構造は、テーマ的にどうなの? って話にもなるけれど、まあマサーラー映画の物語文法は少年漫画のそれだからねえ…と思えばまあ…?(*6)
 前半〜中盤での三角関係ラブコメ劇の一方を担うガウリ役のチャールミー・カウルも、イリヤーナー演じる都会っ子トリプラと対比される形での保守的ながら前向きなキャラとして存在感を発揮してましたけど、結局見せ場が限定的だったのは主人公ラーキーの必殺仕事人っぷりを全面的に魅せるためになっちゃってるのは惜しい…かなあ。よくこれだけの登場人物揃えて全部収束させたよなあ…とも感心しちゃうけど。

 映画冒頭に、祝詞のようなOPテーマを流しながら画面を埋め尽くしていく女神からインドの歴史上有名な女性たちの肖像を並べつつ、最後にはそれら全てを女神ドゥルガー(*7)のビンディー(かな?)に収束していく意味深な始まりもスゴく印象的にしてスンバラしきかな。

挿入歌 Ninnu Choosthe


受賞歴
2007 Filmfare Awards South テルグ語映画女性プレイバックシンガー賞(マムタ・モーハンダス / Rakhee Rakhee)


「Rakhi」を一言で斬る!
・後半、突然画像が荒くなるのは仕様?

2020.12.11.

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*1 南インド アーンドラ・プラデーシュ州とテランガーナー州の公用語。
*2 南インド タミル・ナードゥ州の公用語。
*3 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。
*4 ラーキーと呼ばれる飾りつきミサンガ。
*5 他にも名作駅員映画があるらしいけど、見れてないです…シクシク。
*6 主人公の味方として助力してくれる女性キャラも数人いますけど。
*7 かな? よく見ると、その肌や服にいろんな神様が刻印されてる絵だったけど…。