インド映画夜話

Ready 2008年 174分
主演 ラーム & ジェネリア・デスーザ
監督/脚本 シュリーヌ・ヴァイトラ
"お前ら、暴れる用意は…出来てるな!!"



挿入歌 Get Ready! (ゲット・レディ!)



 かつてのインド独立闘士だった父亡き後、一族の長となったラグパティには、弟2人(皮肉屋ラーガヴァと末弟ラージャーラム)と妹(スワラジャム)がいる。
 そのラーガヴァの息子チャンドゥ(本名チャンドラシェーカル・ラーオ)は正義感厚い大学生で、一族よりも友情を大事にする青年。今日も、望まない結婚を強いられる従妹スワプナを友達たちと助け出し、本当の恋人との駆落ちをセッティング。怒るラグパティの命令で家を勘当されつつも、その行動理念は揺るがない。

 ある日、友人"グーグル"ゴーピーの恋人が親の決めた相手と無理矢理結婚させられると聞いて、チャンドゥと仲間たちはすぐさまその結婚式会場に向かい新婦プージャを助け出すが、なんとゴーピーの恋人と言うのはまったくの別人! 無事恋人同士で結婚式を迎えたゴーピーを尻目に、あせるチャンドゥたちだが、当のプージャは「天の助けだわ! ちょうど結婚式から逃げ出す計画を立ててた所なの!! このままカルヌールまで連れてってほしいんだけど!」と訴える。折しも、結婚式場からプージャを追って来た彼女の叔父にあたるナイドゥ兄弟配下の暴力団が、チャンドゥたちに迫り来る…!!


挿入歌 Ayyo Ayyo Ayyo Danayya! (こんにちは、ダナイヤ![男の子は皆、生贄の羊よ])

*ダナイヤとは、プージャと共に逃げるチャンドゥが彼女に名乗った偽名。
 2人だけで迷い込んでしまった森の中で、それぞれを罵りながら距離を近づけていくヒーロー&ヒロインの図。


 日本公開作「バードシャー(Baadshah)」のシュリーヌ・ヴァイトラ監督による、2008年に大ヒットしたテルグ語(*1)映画。監督作としては9本目で、この5年後の「バードシャー」まで3本の監督作(+出演作2本)を挟んでいる。
 本作は、公開後の09年にカンナダ語(*2)版リメイク作「Raam」、10年にはタミル語(*3)版リメイク作「Ulthama Puthiran」、11年にはヒンディー語(*4)版リメイク作「Ready」が製作公開されている。

 映画開始早々、チャンドゥの家族紹介から始まる情報量の多い映画ではあるけれど、序盤はチャンドゥとプージャの逃避行と両者の急接近が、中盤は行き場をなくしたプージャを家族に迎え入れたチャンドゥとラーオ家の家族再生劇が描かれ、インターミッション直前あたりから、プージャ側の家族再生劇へとシフトしていくと言う、主軸のハッキリしたお話。
 登場人物の多い映画の中に仕組まれた、ラーマーヤナ構造をウマく機能させつつ(*5)、根本的には「家族」を大上段に掲げたインド娯楽ど真ん中な正統派なお話は見やすくてイイネ! …って感じですが、その中に次々ぶっ込まれる大量の映画・芸能ネタをどこまで理解して大笑いできるか、お客それぞれの映画レベル、インドレベル、テルグレベルが計られるようなてんこもりサービス精神はあいかわらずでございます。もっとも、喜怒哀楽さまざまに変化する主人公チャンドゥ役のラームの演技の多彩さ、ヒロイン プージャ演じるジェネリアの可愛さだけでも一見の価値あり。

 そのチャンドゥ役のラーム(・ポティネーニー)は、1988年タミル・ナードゥ州チェンナイ生まれでハイデラバード育ち。親戚にスラヴァンティ・フィルムズ創設者でテルグ語映画界で活躍する映画プロデューサー スラヴァンティ・ラヴィ・キショーレーがいるそう。
 06年のテルグ語映画「Devadasu(デーヴァダース)」で、モデル出身のイリヤーナー・デクルーズと共に大型新人として映画&主演デビューして、イリヤーナー共々フィルムフェア・サウスの新人賞を獲得。続く07年の「Jagadam」を挟んで、本作が3本目の主演作となる。その後もテルグ語映画界で主演男優として活躍中。
 コロコロ変わる表情や芝居っ気が見てて楽しい人ながら、角度によってはボリウッドで活躍するニール・ニティン・ムケーシュに似てるような、でもないような。

 ヒロイン プージャを演じたのは、1987年マハラーシュトラ州ムンバイのマンガロール系カトリックの家(*6)に生まれたモデル兼女優ジェネリア・デスーザ。
 多国籍企業パルマのマネージャー業をしていたコンカーニー系の母と、IT企業タタ・コンサルタンシー・サービシス重役を務めていた父親の間に生まれ、ボンベイ証券取引所に務める兄を持つ。15歳からモデル業を初めて好評を得た他、学生時代は、さらに短距離走とサッカーで州代表レベルの成績も上げていたとか。
 元々役者志望ではなかったと言うものの、大学で経営学位を得る間、再三にわたって彼女のモデル業での活躍を見た映画人からオファーが舞い込み、03年のヒンディー語映画「Tujhe Meri Kasam(君への約束)」で映画&主演デビューする。同年に役名のハリーニー名義でタミル語映画「Boys」に、本名でテルグ語映画「Satyam」にもそれぞれデビューし、「Satyam」でCineMAA女優デビュー賞を獲得。以後、テルグ語映画界を中心に主演女優として活躍し、06年のテルグ語映画「人形の家(Bommarillu)」でフィルムフェアのテルグ語映画主演女優賞を始め複数の映画賞を獲得する。
 08年には「Satya in Love」でカンナダ語映画に、11年には「秘剣ウルミ(Urumi)」でマラヤーラム語映画にデビューし、12年に同期デビューのリテーシュ・デーシュムクと結婚(*7)。14年にはカメオ出演した「Lai Bhaari」でマラーティー語映画にも出演している。

 序盤、チャンドゥのヒーロー性を見せつけるシーンとして用意された大学の不良たちとのサッカー対決で「へえ、テルグ映画にサッカーって初めて見たなあ(*8)」とか思ったら、あれよあれよとルール無視の暴力サッカーを華麗に切り抜けるチャンドゥと言う絵面に流れていって「ああやっぱテルグ映画はこうでないとね!」って感じ。ルール無視なのは大学内での出来事だからだよねきっと!
 特に映画前半は、主役チャンドゥとプージャの愛嬌たっぷりの芝居や関係性の変化がじっくり描かれつつ、アクションありロマンスありダンスありコメディあり泣かせ所もありと言うボリュームで飽きるヒマなし。主役2人の魅力全開のパフォーマンスが存分に堪能できるってもんですわ。これ1本見て、さっそく主役2人の主演映画を色々掘り起こしたくなって来てしまう。
 そして後半、叔父兄弟に連れ戻されたプージャの奪回のために、チャンドゥが色々と立ち回るまわりくどい救出作戦は、プージャをめぐる家族一同やチャンドゥの家族を巻き込む大量の登場人物たちの台詞劇を中心とするため、早口の台詞を追う英語字幕を必死に読まないといけなくて大変。そこにぶっ込まれる大量のテルグネタ、映画ネタの数々も少しは理解できるけど、100%理解できるようになるのはいつの日か。ラスト10分まで広げまくった風呂敷を、どうやって畳むのか興味津々だったんだけど、見てると「おぉ!」と膝を打つくらいちゃんと劇が盛り上がりつつ収束していくんだからビックリ。

 にしても、早口のテルグ語のテンポ聞いてると、なんとなく広東語っぽく聞こえてくるのが不思議。どっちも勉強したことないから、理解できないワタスですけど。


挿入歌 Ninne Pelladukoni Rajaipota (僕は、君と結婚して王様になる [そして君を女王にするんだ])




受賞歴
2008 Nandi Award 人気娯楽映画賞・コメディ男優賞(ブラムハナンダム)・子役賞(マスター・バラス)
2008 Santosham Film Awards 台詞賞(コナ・ヴェンカト)




「Ready」を一言で斬る!
・【クリシュ(Krrish)】見た人は、必見映画ですゼ!!w (後ス○イダーマンも!!w)

2017.4.7.

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*1 南インド アーンドラ・プラデーシュ州とテランガーナー州の公用語。
*2 南インド カルナータカ州の公用語。
*3 南インド タミル・ナードゥ州の公用語。
*4 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。
*5 一人っ子チャンドゥに対して、敵になるプージャの叔父が兄弟で迫ってくるのは意味深デスネ。
*6 元々インド西海岸コンカン地方から現れたカトリック系コミュニティ。
 コーンカニー語を母語とするゴア人たちが、マイソール王国や英領インドなどの支配下に入って従属を強いられる中で、マンガロール周辺文化と混じり合って結束していったキリスト教信者のコミュニティである。
*7 長年その関係を取りざたされながら、デーシュムク家から反対されたりと結婚までに色々あったらしい。結婚式は、ヒンドゥー式とキリスト教式両方で行なわれたそうな。
*8 個人的には、ヒンディーやタミルでは数回出て来たかなあくらいの頻度って感じだったので。