インド映画夜話

ルドラマデーヴィ 宿命の女王 (Rudhramadevi) 2015年 157分
主演 アヌーシュカ・シェッティ
監督/製作/脚本/原案 グナシェカール
"女王、顕現"




 時に、13世紀のイタリアはヴェネツィア共和国。
 東方の旅から帰還したマルコ・ポーロは、周辺勢力との対立や後継者不在を嘆く貴族たちを前に、インドで見聞きしたある女王の話を語り出す…

 南インドに広がるカーカティーヤ朝はその時、対立する周辺国や王位簒奪を目論む王族内部の脅威を抱え、国民はこれらを平定する強き王位継承者の誕生を切望していた。
 7代目カーカティーヤ王ガナパティデーヴァは、宰相マハマントリ・シヴァ・デーヴァイヤの勧めに従って、生まれてきた唯一の子供…王女ルドラマデーヴィを「正当な王位継承者ルドラデーヴァ王子」であると宣言。生まれてきた赤ん坊が女であることを隠し、男として育てていく事を決意する。近隣国の王子チャールキヤ・ヴィーラバトラとゴーナ・ガンナー・レッディとともに剣技を磨くルドラマデーヴィは、次第に王宮の外の世界を知り、男女の違いを知り、自身に課せられた重荷を知らされることに…。


挿入歌 Anthapuramlo Andala Chilaka (後宮のインコはなぜそうまで美しいの)


 13世紀の南インドに実在した、カーカティーヤ朝8代王にしてインドでは珍しい女性君主ルドラマデーヴィ(*1)の活躍を描く、テルグ語(*2)3D史劇。

 同時公開でヒンディー語(*3)吹替版、マラヤーラム語(*4)吹替版、のちにはタミル語(*5)吹替版も公開。インド本国のほか、1日早くクウェートで、インドと同日公開でフランス、アイルランド、ノルウェーなどでも公開されている。
 日本では、2015年に埼玉県にて英語字幕版で自主上映が行われ、2019年にタミル語版がCS放送された。

 「バーフバリ(Baahubali)」と同時期に、アヌーシュカ主演による同じようなテルグ時代劇映画が出てきたってことで期待大で見てみたのですが…ウーム、なんだろうこのやっつけ感。聞けば、なんども公開延期された映画なんだそうだけど、製作中になんかあったんですかねえ…?
 舞台的な平面性の強い画面、いまいちキレのないアクションやダンス、長台詞で動きの少ない芝居の数々、印象の薄い音楽や全体的な演出密度の薄さが見えてきちゃって、せっかく役者が気合入れて喋ってても、きらびやかな衣裳小道具がそろっていても、そこだけが変に強調される故により安っぽさが強調されて見えてしまうのが悲し。所々で挿入されるアニメーションが絵物語的な雰囲気を見せてくれるけど、なんとなく「実写で描くと面倒だからダイジェストで絵にしてみました」みたいにも見えてしまうのがさあ…。
 グナシェカール監督作といえば「バブーをさがせ!(Choodalani Vundi)」なんかすごく面白い映画なのに、なにがあったのよおおおおって感じぃ。

 13世紀を舞台にしたインド時代劇といえば、色々と物議を醸したヒンディー語史劇大作「Padmaavat(パドマーヴァティの伝説)」なんてのもあるけど、歴史背景的には本作とほぼ同じ時代。「Padmaavat」にて描かれるグヒラ朝メーワール王国の滅亡が1303年ってことなので、本作のルドラマデーヴィの活躍とは数十年差(*6)。ほぼ同時代人をモチーフとした映画という意味では、北インドから見た歴史・南インドから見た歴史の違い、宗教的社会的背景の差異などなど、比較してみるのも一興…かしらん(*7)。
 そう言えばハルジー朝の前には、やはり北インドでも珍しい女性君主ラズィーヤ・スルターンが1236年に奴隷王朝のスルターンに即位してたりするって事では(*8)、強固な父権主義による社会統治が基本のインドにあっても男女の別なく実力がものを言う乱世の時代(の1つ)がこの頃だった…って事でもあったりするのでしょかどうでしょか?

 史実でも、女王の即位には宮廷や国民の反発が予想されていたためにかなり早くから戦士として育てられていたと言うルドラマデーヴィは、劇中と同じく男装の麗人として活躍してたそうだけど(ホンマ?)、ある程度サマになってるアヌーシュカの男装姿は、それでも「アルンダティ (Arundhati)」や「バーフバリ」の時のようなパワフルさが感じられないのがどうもねえ…。いつも眉間にしわ寄せたシリアス顔ばっかだからかもしれない遊びの少ない真面目な芝居だったけども、ラストバトルの蛇の陣やら鷲の陣やらの「そんなんアリかい」って荒唐無稽さの唐突さの方が印象的でしたわあ(*9)。
 横で見てたおかんは「この主役の人、バーフバリの女王様だけど、バーフバリよりかなり前の映画なんでしょ? 顔が若いよね」とか言ってたので、少女役を演じるアヌーシュカの役者魂のスゴさを実感するとですよ!

 それにしても、マルコ・ポーロを語り手に配して「我々の学ぶべきはインド」と声高に断言してしまうそのテランガーナー万歳の勢いは……見習うべきですかねえどうですかねえ。ええ(*10)。

挿入歌 Punnami Poovai Vikasisthnna


受賞歴
2015 Filmfare Awards South テルグ語映画主演女優賞(アヌーシュカ)・テルグ語映画助演男優賞(アッル・アルジュン)
2015 Ugadi Awards 主演女優賞(アヌーシュカ)
2015 Apsara Awards 主演女優賞(アヌーシュカ)・エンターテイナー・オブ・ジ・イヤー(アヌーシュカ)
2015 CineMAA Awards 主演女優賞(アヌーシュカ)・審査員選出主演男優賞(アッル・アルジュン)・評論賞
2015 SIIMA (South Indian International Movie Awards) 批評家選出主演女優賞(アヌーシュカ)・批評家選出主演男優賞(アッル・アルジュン)
2015 Bharatamuni Awards 主演女優賞(アヌーシュカ)
2015 Santosham Film Awards 作品賞・主演女優賞(アヌーシュカ)
2016 IIFA (International Indian Film Academy in South Indian) Utsavam 助演男優賞(アッル・アルジュン)・メイクアップ賞(バーヌ・バーシャヤム & ランバーブ)・衣裳デザイン賞(ニータ・ルッラ)
2016 Nandi Awards 男優賞(アッル・アルジュン)・吹替女優賞(ソーミヤー・シャルマー)


「ルドラマデーヴィ」を一言で斬る!
・やっぱりインドだと、"トロイの木馬"作戦は"トロイの木象"作戦(?)になるのね!

2019.3.16.

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*1 またはルドラーンバー。在位1262〜1296年頃。
*2 南インド アーンドラ・プラデーシュ州とテランガーナー州の公用語。
*3 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。
*4 南インド ケーララ州の公用語。
*5 南インド タミル・ナードゥ州の公用語。
*6 しかも史実では、このメーワールを滅亡させたハルジー朝によって、カーカティーヤ朝も半服属化された後、ハルジー朝に代わって北インドに興ったトゥグルグ朝が、ルドラマデーヴィの次に王位についた彼女の孫プラターパルドラ2世と争いカーカティーヤを滅亡させてしまう。
*7 映画の方向性がずいぶん違いますが。
*8 この辺については、83年のウルドゥー語映画「Razia Sultan(女帝ラズィーヤ・スルターン)」を参照のこと!
*9 翼の端っこの人たちの運動量が大変なことに…!!
*10 まあ実際、マルコ・ポーロの「東方見聞録」では、善政を敷いた女王としてルドラマデーヴィの記述があるそうですが。