インド映画夜話

ナイジェリアのスーダンさん (Sudani from Nigeria) 2018年 122分
主演 サウビン・シャーヒル & サミュエル・アビオーラ・ロビンソン
監督/脚本/台詞 ザカリヤ
"おいスーダン! 今日は大活躍だったな"
"スーダン人じゃないよ。僕はナイジェリア出身だ"
"ああ、ナイジェリアから来たスーダンだったのか!"




 ケーララ州北部マラップラムでは、今夜も7人制サッカーの試合に人々が熱狂していた。
 サッカーチーム"MYCアコード"のマネージャーであるサッカー狂のマジードは、零細チームの立て直しのため、助っ人のナイジェリア人選手たちを招集して勝ち星を重ねることに成功。このままリーグ優勝してスポンサー付き優良チームにのし上がろうとした矢先、看板外国人選手サミュエル・ロビンソン(通称スーダンさん)が突如入院してしまった…!

 試合中でもなく、第三者のいない風呂場での転倒骨折のため、サッカー協会からの補償も受けられず、このままでは外国人であるサミュエルの入院費は莫大なものになってしまう。
 仕方なく、彼の1ヶ月に渡る絶対安静期間を自宅で世話することに決めたマジードだったが、チームの成績下降、運営費や生活費への圧迫、絶交状態の両親への対応、珍しいスター選手目当てで押しかける見舞い客、英語(とヨルバ語)しか理解できないナイジェリア人サミュエルとの生活ギャップと、問題は山積み…!!


挿入歌 Kurrah

*マラヤーラム語でサッカーは「クッラー」。覚えました!


 本作が監督デビューとなるザカリヤ(・ムハンマド)による、多数の映画賞を獲得したマラヤーラム語(*1)映画の傑作。
 日本では、2019年の「イスラーム映画祭4」で上映。
 タイトルは、劇中でスーダンとナイジェリア(*2)の区別がついてないインド人たちが、ナイジェリア人のサミュエルにつけていたあだ名。

 インドで人気と言うFIFA非公式のサッカー、セブンス・マッチ(7人制サッカー)を題材として、そこに集まってくる外国人移民を取り巻く諸問題を絡めた人情コメディ。
 監督曰く、サッカーの舞台裏で実際に起こった外国人選手の悲喜交々な話をアイディア元にしたという本作は、外国人移民への補償問題や差別問題、より身近な生活ギャップから来るさまざまな軋轢などを描きながらも、人情に厚いという評判のマラップラムの人々の暖かな交流具合をほのぼのと笑いを交えて見せていく。その人々の世話焼き具合や態度の変化具合は「じゃりン子チエ」みたいな大阪人情コメディ劇に通じる感…じ?(*3)

 本式の11人制サッカーの人気はいまひとつ(*4)というインドにあって、なぜかケーララ州と西ベンガル州を中心に大人気を勝ち取っているという7人制サッカーという題材だけでも、「へぇ。珍しいね」と興味を惹かれる映画なんだけども、お話はサッカーそのものというよりは異邦人が入って来たことによって巻き起こる家族や友人知人間のすれ違い・シンクロ具合の変化を中心にして、頑なで自己中心的な主人公マジードが徐々に人々に対して心を開いていく過程を詩的に描いていく。
 英語しか通じないサミュエルに、なにくれとなくマジード周辺の人々が世話を焼き、ケーララ式のおもてなしを施し、無理矢理マラヤーラム語の会話に引き摺りこんで彼を元気にさせようとあの手この手を尽くす様も楽しいし、その空回り具合や徐々に距離を縮めていく登場人物たちの姿も微笑ましい。最初はありがた迷惑な雰囲気を隠しているサミュエルが、だんだんとマジードの家に溶け込んでいく過程が嫌味なく爽やかに描かれているんで、そこから発展する各登場人物が抱えるさまざまな因縁・事情の浮かび上がる様が、段階を踏んで衝撃を与えて来るから飽きる暇なしでございますよ。

 本作主人公マジードを演じたのは、1983年ケーララ州コーチ生まれのサウビン・シャーヒル。
 助監督として映画界入りしたのち、12年のマラヤーラム語映画「Da Thadiya(おい、太っちょ)」のノンクレジット出演を経て、翌13年の「Annayum Rasoolum(アンナとラソール)」でクレジットデビュー。15年の「Premam(愛)」で、ヴィナイ・フォルトとともにアジアネット・コメディ賞を獲得する。日本公開作「チャーリー(Charlie)」、映画祭上映作「マヘーシュの復讐(Maheshinte Prathikaaram)」などに出演していきながら、17年の「Parava(鳥)」で監督&脚本デビューし、アジアヴィジョン新人監督賞他の映画賞を受賞している。
 初の主演作である本作と同じ年には、他に6本の映画にも出演している。

 本作のもう1人の主人公でもあるサミュエルを演じるのは、1998年ナイジェリアはラゴス生まれのサミュエル・アビオーラ・ロビンソン。
 TVドラマや短編映画出演を経て、15年の英語映画「8 Bars & A Clef」でナイジェリア映画(*5)デビュー。3本目の映画出演作である本作で、ナイジェリア人初のインド映画主演俳優となって大きな評判を勝ち取る。本作と同じ年にはナイジェリア映画「Happy Fathers Day」にも出演し、翌19年には2本目のマラヤーラム語映画「Oru Caribbean Udayippu」に出演しているとか。
 本人曰く、熱狂的なサッカーファンの国ナイジェリアにあって自分は全くサッカーに興味のない少数派の人間、なのだそう。

 他のインド映画で時々言及されるアフリカ諸国のことを見ていて「少なくとも、インド洋側のアフリカに関してはそれなりにインド人には馴染みがあるんだろか」とか思ってたけど、本作を見る限りマラップラムの人々のアフリカ観は割といい加減なんだなあ…と妙な感慨(*6)。
 もっとも、ケーララにおけるアフリカ系移民やその差別の歴史ははるか昔からあるという意味では、本作で描かれるような暖かな交流具合は色々な意味が重ねられている重要な要素ではある。家族よりもサッカーを重視するマジードが、問題が起きるとサミュエルにあたりちらさずにはいられなくなる瞬間や、そんなマジードが抱える過去の悲しみ、サミュエルが普段隠している重い苦悩が表に出て来る瞬間の、映画的な衝撃の強さが人生や世の中へのやるせなさをあらわにしていく一方、そうした別々の人生を歩む人たちの交流によってほんの少しでもそんな苦悩が転換される(かもしれない)瞬間を見せてくれる映画的な希望が美しい。
 舞台となるマラップラムの村人たちの不器用な優しさが心に沁みる一本であり…インドのお役所や警察、病院はなんて冷たいんだろうとか刷り込まれてしまう一本でもありますワ!

挿入歌 Kinavu Kondu


受賞歴
2018 Mohan Ragavan Award 監督デビュー賞
2018 International Film Festival of Kerala FIPRESCI(国際映画批評家連盟)マラヤーラム語映画作品賞
2019 Kerala State Film Awards 美的人気作品賞・脚本賞(ザカリヤ & ムーシン・パラーリ)・主演男優賞(サウビン)・女優演技賞(サビトーリー・スリーダーラン & サラサ・バルッセリー)・監督デビュー賞
2019 Aravindan Puraskaram 監督デビュー賞


「SfN」を一言で斬る!
・できれば、ナイジェリアのその後も見てみたかったヨゥ。

2019.3.22.

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*1 南インド ケーララ州の公用語。
*2 +ウガンダ。
*3 こちらは田舎の村が舞台だけども。
*4 有力選手も客もほとんどクリケットに持ってかれてしまうインドなので…。
*5 通称ノリウッド。ただし、その定義に関しては各人それぞれに相違がある用語でもある。
*6 まあ、ナイジェリアもスーダンもインド洋に面していない地域だけども。