インド映画夜話

Singh is Kinng 2008年 136分
主演 アクシェイ・クマール & カトリーナ・カイフ
監督/脚本/原案 アニーズ・バズミー
"キングは真実のみを語る。…だから、みんなが付いてくるのサ!!"





 オーストラリアンマフィアのドン ラカンパール・シン(通称"キング"のラッキー)は、オーストラリアの裏社会を牛耳り、いつも命をねらわれる身。しかし、優秀な部下グルジー・グルバクシュ・シン、ディルバーグ・シン、ラフタール、パンカジ・ウダース(=哀れなパンカジ)、近視の弟ミカ、秘書ジュリーに守られその地位は揺るぎもしない。

 このラッキーの故郷、インドはパンジャーブ州のサネワール村にハッピー・シンと言う男がいた。気は優しく困った人を見過ごせない彼はしかし、やる事なす事全て裏目に出て周りを巻き込む不幸を呼ぶ男。
 ある日ラッキーの父親が緊急入院すると、 村の親父ランギーラーは、ラッキーを呼び寄せる役をハッピーに押しつける事で彼を村から追い出そうと画策する。皆に乞われてその気になるハッピーだったが、英語の通訳が欲しいと言い出したために何故かランギーラー自身もオーストラリアについて行く事に…。

 凸凹コンビの2人は人生初の飛行機に乗り込むも、ハッピーのドジのせいで何故か到着したのはエジプト! そこでハッピーは、犯罪撲滅主義者のインド系美女ソニアとの淡い出会いを経験。その後、なんとかオーストラリアに到着したハッピーたちだったが、そんな彼らをラッキーはあっさり追い返してしまう!!
 途方に暮れるハッピーは、花屋を営むNRI(在外インド人)のローズおばさんに助けられ、(偶然もあって)再度ラッキーへの面会に成功するが、そこに突然マフィアの襲撃発生! ラッキーを助けようとするハッピーは逆にラッキーを植物状態にしてしまう(!!)が、これに驚いた側近たちは、混乱する話し合いの中で「キングが回復するまでハッピーをキングの代役とする」事を決定する!


挿入歌 Bas Ek Kinng ([13枚のカードの中に] 1人キングがいる)



 タイトルの「Kinng」は数秘術者の勧めで「King」に"n"を足したものだそうで、意味は同じだそうな。つまり「シンは王様」の意。
 "シン"とか"シン〜〜"と言う名字(または副名)は、パンジャーブ州に総本山を置くシーク教徒(*1)に多い名字。ほとんどの場合、そう言う名字ならシーク教徒と思って間違いないらしい。そのため、タイトルが発表されるや「シーク教徒を笑い者にしようとしてるだろ!」と苦情が大量に寄せられ、監督とプロデューサーで各団体に出向いていって詳細なプレゼンを敢行して許可を得たそうな。

 映画本編はボリウッドらしさ100%な派手派手な超お気楽アクションコメディ。パンジャーブ、エジプト、オーストラリアと3つの舞台を駆け抜けるノリ重視なド派手演出の数々は、眺めているだけで楽しい楽しい。
 ま、話の運び方がシチュエーションコメディのそれなんで、ストーリーそのものはあんまつながりのないかなり強引なドリフ的展開。犯罪者は徹底的にぶちのめすべきと言うソニアとマフィアの関わりも引っ張ったわりにそんな描かれないし、マフィアの頭目争いの展開も急すぎたり、それぞれの登場人物用のエピソードもぶつ切りな感じだし、ハッピーのおバカぶりも適当感がたっぷり。話に深みはまっっったくないけど、それぞれのシーンの盛り上げ方には色んなアイディアが詰まっていて、妙なテンションの高さが維持されている。

 特にパンジャーブ勢力の強いボリウッドでは、シーク教徒は「とりあえず入れとけ」的に登場するシーンをよく見るけども、本作は主要等要人物のほとんどがスィク教徒ばかりで、ターバンにあごひげの典型的シーク教スタイルで縦横無尽に暴れ回る。なんとなくシーク教徒=マジメと言う勝手なイメージがあったんだけど、この映画みたいにブラックスーツに集団でスゴまれたら、その面構えは結構コワいね…。
 ちなみに、インドで多数派を占めるヒンドゥー教徒・イスラム教徒ではターバン着用は一般的ではないんですわ。にもかかわらず、世界中でインド人のイメージがターバンしているシーク教徒風習俗で広まっているのが何故かと言えば…
・富裕層や高等教育層にシーク教徒が多いこと
・ムガル時代に軍人として活躍した層がいること
・英領インド時代に、規則に厳格なシーク教徒が警察や護衛官としてインド全国で重用されていたこと
・現代において技術者やタクシー運転手等に多く外国人との接触率が高いから
 …などなど色々と言われてるようだけど……どうだろな?

 基本的には、主役アクシェイとその他大勢の掛け合い漫才のような内容なので、その都度色んなシチュエーションでのアクシェイとのボケとツッコミ&アクションをお気楽に楽しむ映画になっている。なんで突然、意味もなくエジプトに行くかと問われれば、だって恋をしたらピラミッドの前で踊りたくなるじゃん……とでも答えておくべきなのかどうなのか。むぅ。
 にしても、ソニアの婚約者をマフィアたちが襲撃する時にボリスターたちのお面つけて登場したときは、笑い転げてもーたやないけ。


挿入歌 Jee Karda (それは我が願い [君が隣に座ってくれる事が])






受賞歴
2009 Filmfare Awards 女性プレイバックシンガー賞(シュレーヤー・ゴーシャル/Teri Ore)
2009 IIFAインド国際映画批評家協会賞 女性プレイバックシンガー賞(シュレーヤー・ゴーシャル/Teri Ore)

2013.2.8.

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*1 カタカナ表記としてはシク、スィック、スィクなどとも。16世紀に宗教改革者グル・ナーナクによって誕生した改宗宗教の信者のこと。
 全ての宗教は本質的には同質であるとして、カーストや儀式・修行・宗教指導者による2次的思想哲学を否定し、世俗の仕事に真摯に励むべし、全ての宗教が祀る神々は全て同一の存在であるから、唯一にして全ての存在である"神"を崇めるべしと説く。
 シークは「弟子」の意。名前のシンは「獅子」の意(男性に多い名前だけど女性名でも使われる)。女性の名字ではカウル(女王の意)も多い……らしい。