インド映画夜話

スタンリーのお弁当箱 (Stanley Ka Dabba) 2011年 96分
主演 パルソー & ワークショップ参加の小学生たち
監督/製作/原案/出演/作詞 アモール・グプテ
"お弁当の思い出は、甘くてときどき苦い"






 ムンバイのカトリック系小学校ホーリー・ファミリー・スクールに通うスタンリーは、4年E組の人気者。お話を作るのが得意で、即興で大きなジオラマを作ってみんなを楽しませたりもする。でも、昼休みにみんなが持参のお弁当を広げる頃、彼はだまって教室を出て行ってしまう…。

 この学校の食いしん坊の国語教師ヴァルマー先生は、日頃弁当を持参せず、職員室で周りの先生からお弁当を融通してもらって過ごしている。我慢できない時には、こっそり人のお弁当を拝借するなんて事も…。
 そんな先生が目をつけたのは、特大のお弁当を持参する4年E組のアマン。彼からお弁当を分けてもらっていたスタンリーを見て、ヴァルマー先生は大激怒!! 怒られた翌日から、またスタンリーは昼休みに姿を消すように…。

 「お母さんが家でお昼を作ってくれるから」と言うスタンリーの弁が嘘だと見破った友達たちは、ヴァルマー先生に隠れてスタンリーとお弁当を分け合おうと奮戦。アマンのお弁当を狙う先生を尻目に、色々な場所に隠れながらお昼を楽しむのだった。
 しかし、ついにヴァルマー先生はスタンリーたちを見つけ出し、毎日積もりに積もった怒りをスタンリーにぶつける。「お弁当を持ってこないヤツは、学校に来る資格はない!!」
 その日を境に、スタンリーは学校に来なくなって…


挿入歌 Dabba! (お弁当だ!)



 役者兼脚本家のアモール・グプテが、2007年の「Taare Zameen Par」に続いて監督した作品。アーミル・カーンとの共同監督(*1)だった「Taare Zameen Par」を経て、実質的なアモール・グプテの監督デビュー作となる。
 主役スタンリーを演じるのは、アモール監督の息子パルソー・グプテ。アモール監督も国語教師ヴァルマー役で出演。編集と製作を担当したのは監督の妻でもあるディーパ・パディア。日本では2013年に一般公開され、グプテ一家がそろって来日していた。

 映画撮影は、子供たちのワークショップ授業として製作されており、役者たちは台本がない事に驚き、集められた子供たちは最後まで映画撮影が行われていると知らない中で楽しんでいたと言うからオソロシイ。そんなんでどうやってあそこまでカメラアングルにこだわり、起承転結が見事にそろい、映画として高い完成度を誇るものが出来上がるのか……。まさに、毎朝短時間で大量の料理を造り上げるインドの母親たちの技術がごとく、映画職人アモール監督の仕掛けた様々な材料が組み上がって行くシークエンス群は、まあおいしそう。
 本当に、執拗なまでの食事シーンはお腹が刺激される事請け合い。

 オープニングアニメーションから印象的なファーストカットヘと流れる映像で始まる導入部は、そのまま「Taare Zameen Par」から受け継がれる手法で、映画の主題といい小学校での子供たちの姿を映し出す演出方法といい、インドで児童文学的映画を作り出す演出家としては、アモール監督は第一線を走り続けてるなぁ…と感心してしまいまする。アーミル・カーンの監督作となった「Taare Zameen Par」でも、自分のやりたい事をかなり形に出来ていたんだねぇ。
 児童文学的視点として、とにかく子供たちの見る世界を映画がブレずにとり続ける所がまた素晴らしい。映画としてみると、悪役ヴァルマー先生の偏執狂的食い意地がなんでそこまで描かれないといけないのか頭をかしげる所だろうけども、あくまであれは子供側が想像するカリカチュアライズされた大人像なんだろなとか思っていると、なるほど子供による子供のための映画とは、こう言う形をしているものなのか…と変に納得。私も、子供の頃は親を含め周りの大人ってのが変な生き物に見えてましたっけか。

 特に、スタンリー自身が自分の境遇について「嘘」を利用する事で、周りの大人を頼らず前向きに自立して行こうとする姿勢、自分だけの「秘密」を固辞する姿勢が健気かつまさに児童文学的な描き方で、児童文学好きとしては「クローディアの秘密」と比較してしまいたくなる衝動に駆られちゃう(*2)。
 その嘘によって、スタンリーを始め周りの人間が救われる部分もあり、スタンリーが抱える問題が肥大化して行くのを止められなくもあり…ああ、大人たちの事情で子供が子供らしく生きられないなんて、なんて世の中は非情な事か。

 暑い国インドの小学校が、昼過ぎくらいで終わってその時間以降が放課後になるって言うのも「へぇ〜」ってなもんですが、先生たちの生徒への関わり方も色々不思議に見えてしまう所も多く興味深い。カリカチュアされたヴァルマー先生はともかく、生徒たちの人気者ロージー先生も、お気に入りの生徒にチョコのお土産を渡すなんて日本の教育界では考えられない事だよなぁ…。

 とにかく最後にひとこと言わせて! 左利きの子供に「右で書きゃいいじゃん」とか言う大人なんぞこの世から消えてなくなっちまえー!!!!!


プロモ映像 Life Bahot Simple Hai (人生は、本当にシンプル)



受賞歴
2012 National Film Award 子役賞
伊 ジフォーニ子供映画祭 アクションエイド賞

2013.7.26.

戻る

*1 クレジット上は「クリエイティブ・ディレクター」。
*2 クローディアほど、未来が楽観視できない状況だけども…。