インド映画夜話

私のラブストーリー (Saadi Love Story) 2013年 115分
主演 サルディーン・チャウラー & アムリンデル・ギル & ディルジット・ドゥサンジ
監督/脚本 ディーラジ・ラッタン
"これはありえない話じゃない……もし貴方が、恋に落ちたならば?"






 恋物語が大好きなプリティ・カウルは、運命の人との出会いを夢見る女の子。
 その日、親の決めた婚約を破棄した姉、大学でファッションデザインを学ぶグルリーンが、今度会社を立ち上げるための資金を父から受け取りに帰ってくると言う。姉は、「お金は結婚持参金用として払う」と言う父との約束を守るため、将来を誓い合った相棒ラジヴィールとの結婚を予定していると知らされ、プリティは二人のなれそめを聞き出そうと大興奮。しかし、その姉が突然の交通事故で意識不明の重体に!

 突然の事に混乱するカウル家に、姉の恋人ラジヴィールだと名乗るカメラマンが現れる。彼は、突然のグルリーンの事故に驚き彼女の回復までカウル家に協力すると宣言。姉のなれそめ話を聞き出そうとラジヴィールの世話を始めるプリティだったが、そこに本当の姉の恋人だと名乗る、バンドマンの第2のラジヴィールが現れれたからさあ大変!
 母親は最初のラジヴィールを、伯母は2人目のラジヴィールを応援し始め、父親は娘に送るはずだった持参金を守るために2人を追い出そうと必死。プリティは、2人から恋物語を聞くのが楽しくてしょうがないものの、果たして本物のラジヴィールはどっち…?


挿入歌 Aaja Bhangra Pa Laiye

*見よ! これぞパンジャービーダンス! ボリウッドにも影響大なパンジャーブ文化の真骨頂!!


 ディーラジ・ラッタンの監督デビュー作となる、パンジャーブ語(*1)映画。
 日本では、2013年IFFJ(インディアン・フィルム・フェスティバル・ジャパン)にて上映。

 前半〜中盤にかけては、2人のラジヴィールの話すグルリーンとの恋愛劇をそれぞれポップに映像化しつつ、現在のカウル家の騒動を面白可笑しく描いて行く。後半は、それまでの伏線を回収しつつ、事の真相究明とそれぞれの男女の仲が進展しいく様を描くラブコメ映画。

 2人目のラジヴィールが出て来るあたりまでは、よくある昼メロ的な凡作映画かと思ってたら、話はあれよあれよと転がり始め、2人のラジヴィール(どっちもうさんくさ!)が巻き起こす騒ぎに翻弄されるカウル家の面々が、まー面白楽し可愛い。
 ラジヴィールたちのカウル家の接し方もほぼそっくりな劇構成を繰り返して笑いを誘う中で、一方は母親に、もう一方は伯母に肩入れして甲斐甲斐しくご機嫌取りしようと動き回るのがなんとも。そこでヒロインの少女じゃなくて、保護者である年上の女性を味方につけて家族丸ごと仲良くなろうとするのがインドだねぇ。

 IFFJで見た時から、皆で「アイシュに似てる」と言い合っていた主役プリティを演じるのは、チャンディーガル出身のモデル兼女優サルディーン・チャウラー。
 ヒンディー語TVドラマ「Kahin To Hoga」で女優デビュー後、TVドラマやタレントショー番組で活躍しつつ、2008年のカンナダ語映画「Paramesha Panwala」で主演女優として映画デビュー。2011年には初パンジャーブ語映画出演となった「Dharti」で主演し、PTCパンジャービー映画賞の女優デビュー賞を獲得している。現在主にパンジャーブ語映画(=パンジウッド)、タミル語映画(=コリウッド)、ヒンディー語映画(=ボリウッド)で活躍中。
 ボリウッドクイーンのアイシュに似てる、と言うだけで消えて行った女優は結構いるらしいけど、彼女は普段はそこまで似てないっぽい…アイシュに似るのは映画用の化粧のせいかねぇ。

 カメラマンのラジヴィールを演じるのは、アムリトサル近郊出身の歌手兼役者のアムリンデル・ギル。
 学生時代、農業科学を勉強する傍らでサポート・アーティストとして歌手活動を始め、銀行員を経て歌手デビュー。2011年には、アルバム「Judaa」でパンジャーブ最大ヒットの仲間入りを果たしている。映画出演では、2009年のパンジャーブ語映画「Munde U.K. De(イギリスから来た男)」に助演で出演して映画デビュー。2013年には、本作を含め4本の映画に主演男優として出演。本作では挿入歌「Rubaru」の歌も担当している。

 バンドマンのラジヴィールを担当するのは、ジャランダル近郊の農家(地主?)出身の歌手兼役者兼TV番組司会者のディルジット・ドゥサンジ。
 早くから歌唱力を鍛えられ、2000年にアルバム「Ishq da Uda Aada」の1曲「Ishq」を担当して歌手デビュー。2012年に発売されたアルバム「Back 2 Basics」の1曲「Tru Skool」がツイッターを介して大ヒットし、PTCテレビ賞やBritAsiaTV音楽賞の各賞を受賞した。映画では、2010年のパンジャーブ語映画「Mel Karade Rabba」でカメオ出演兼歌を担当した後、翌2011年「The Lion of Punjab」で主演男優に昇格して、PTCパンジャービー映画賞で新人男優デビュー賞を獲得。また、2010年にはディヴィヤー・ダッタとTV「Awaaz Punjab Di」の司会を担当し、その後もPTC映画賞やPTC音楽賞の司会にも抜擢されている。本作では「Aaja Bhangra Pa Laiye」「Laltain Nachdi」の2曲の歌も担当。
 つまり本作は、現在パンジャービー音楽界で注目される売れ筋タレントを集めたアイドル映画の側面もあるってことですな。

 インド各地の映画産業から様々な才能を青田買いするボリウッドなんですが、その基礎力を形作る地盤としてのマラーティー語映画界とパンジャービー映画界ってのは、ボリウッドのこれからを推し量るためにも無視できない存在。
 本作1つとっても、その音楽・キャストの身振りやルックスの傾向・ダンスの振付などなど、パンジャーブ独特の風俗が出てくるかと思えば、ボリウッドでもよく見る演出や流行が垣間見えたりもして、インド映画界の重層構造とインドの生活文化の多様性がよくわかりますわ。
 そんなメンドーな事考えずとも、軽いラブコメでこんなお洒落にお話を引っ掻き回すパンジャービーたちの小粋さを堪能したい1作。


劇中歌 Laltain Nachdi

*踊ってるのは、グルリーン役の2008年度ミス・PTCパンジャービーのモデル兼女優ニートゥ・シンと、第2のラジヴィール役のディルジット・ドゥサンジ。
 歌もディルジット・ドゥサンジが担当している。





「SLS」を一言で斬る!
・最終的に結ばれたカップルのうち、将来が不安なのがいるんですけど…?

2014.5.3.

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*1 または"パンジャービー"。インド北西部パンジャーブ州の公用語で、お隣パキスタンのパンジャーブ州の共通語の1つ。さらにインドの首都デリーの第2公用語でもある。その娯楽映画界を俗に"パンジウッド"と呼ぶ。