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愛しき人 (Saawariya) 2007年 137分
主演 ランビール・カプール & ソーナム・カプール
監督/製作/脚本/編集/衣裳デザイン サンジャイ・リーラー・バンサーリー
"それが、彼の初恋"
ーここは夢の街。どの地図にも載っていない、幻想の中の街。
その繁華街の、一番賑やかな場所にRKバーはありました。私はそこで愛を売るグラーブジー。毎晩嘘の愛を売る女ですが、これからお話するのは真実の愛の物語。貴方に是非聞いてもらいたい物語です。あの夜街に降りて来た1人の天使のお話……私が彼に会ったのは、まさにこのバーでだったのです……。
その夜も、最後までバーにいた客はグラーブジーだった。
彼女が酒を片手にクダを巻いていた所に、新しいバー雇いの歌手だという男ラージ(本名ランビール・ラージ・マルホートラ)がやって来た。軽快な会話と"サーワリヤー"の歌で女性たちを魅了するこの男をグラーブジーも気に入り、歌に因んで「サーワリヤー」の愛称で彼を呼んで、売春でしか生きていけない自分たちの境遇を語って聞かせたりして、そんな彼女たちをラージはそれぞれに話し相手になりながら励ましあっていく日々が続く。
そんなある晴れた夜、桟橋で傘をさしながら泣いている女性を見つけたラージは、酔っ払いに追われているらしいその女性を手助けして、「放っといて」いう彼女に無理に付き合いながら元気付けていく。家までエスコートするラージに頑なに名前を名乗ろうとしない彼女だったが、家族から「サキーナー! もう夜の散歩は十分だから、早く家の中に入っておいで!」との声に微笑みを見せ、握手を交わして別れていった。
「それじゃあ、明日また会いましょう」
「明日…? 明日何が起こるかなんて、わからないわ」
「明日僕が死んでも、イード(断食月明けを祝うイスラームのお祭り)は来るよ」
しかしその翌晩、バーの仕事をクビになりながらサキーナーを追って来たラージを、彼女は「知らない人」と一蹴する…。
挿入歌 Yun Shabnami (夜露に濡れたように)
タイトルは、ヒンディー語(*1)でもともとは「肌の青黒い恋人」の意味で牧夫神にして恋の神クリシュナの尊称の1つ。一般には「愛する人」の意味で使われる単語とか。
ドストエフスキーの小説「白夜(Белые ночи)」の翻案ものとなる、映像の魔術師サンジャイ・リーラー・バンサーリー5本目の監督作(*2)。米国の映画配給会社(コロンビア)で配給された初のインド映画であるとともに、インド映画初のブルーレイディスク発売された映画ともなった。
日本では、2022年(?)にNetflixにて「愛しき人」の邦題で配信。
ボリウッド最大の映画一族カプール家出身の2人(*3)を主演に迎えて、徹底的にバンサーリー的映像美の追求に振り切った1作と言った感じの映画。
バンサーリー監督作を並べてみると、2002年の「デーヴダース(Devdas)」と本作の2本で何段階もその美学的映像構築が進化しているのが分かるけど、本作は特にその後の監督作への影響も強く見える青、緑、黒で統一された画面における映画世界が徹底構築されていて、役者はその映像美を彩る装置の1つであり、物語はその映像美を堪能しやすくするためにその存在感をあえて後退させているかのよう。興業的には失敗したというのも分かる「美の構築」に全振りした美術作品、と言った感じ。
架空の街を舞台に、外国文学をもとにして「天使が降りて来た」と皆に言われる主人公が愛を振りまき、インド人大好きな「愛に狂う若者」像を延々と描いていくという意味では、宗教的モチーフは薄いながら(*4)青色と植物文様で街全体が彩られているところなんかは、タイトル通りクリシュナの育った聖林の現代的な復活を暗示するかのような舞台装置。全ての女性を虜にしたというクリシュナ神を体現するかのように、主人公ラージが次々と女性たちの頑なな心を解きほぐし(*5)、人妻であり異教徒でもあるヒロイン サキーナーの恋心、サキーナーへの恋心に支配されていく様なんかは「白夜」的な配置を使いつつクリシュナ神話モチーフを多重に重ねて、思い切りインド式のロマンス劇に作り変えてる感が強い。
バンサーリー監督の前作「黒(Black)」で助監督として働いていたと言う主演ランビール&ソーナムは、役者としての映画デビュー作と思えないふてぶてしさ。やや表情が硬いかな、と思わんでもないけど、全てが作り込みの青一色舞台の中で黒い衣裳や赤い衣裳で彩られた2人の画面映え演出された存在感は、役者すらも舞台装置になっていくバンサーリー世界にあって、逆に人形的な立ち居振る舞いの方がこの映画の美学にぴったりハマってるように見えていくから恐ろしや(*6)。
この主役2人の世話役お婆ちゃんキャラを演じていたのが、双方本作が遺作となった大女優というのも、主役2人の今後を見据えたキャスティングだったのだろか。
その1方、主人公ラージの下宿先の管理人リリアン(通称リリポップ *7)を演じていたのは、1912年英領インドの連合州サハーランプル(*8)生まれのゾーラー・セーガル(生誕名サヒーブザディ・ゾーラー・ムムターズラー・カーン・ベーガム)。
チャクラタ(*9)出身の伝統的なイスラーム家庭の4番目の子供として生まれてわんぱくに育ち、1才時に左目の緑内障を患って一時視力を失っていたが、治療で回復したと言う。
幼くして母親を喪い、姉妹共々ラホールの厳格な女子校に入学するも、姉の結婚破綻を見て生涯結婚しないことを誓う。学校卒業後に英国エディンバラに住んでいた母方の叔父サヘーブザーダ・サイードゥッザファール・カーンの協力のもと、車でエジプトのアレクサンドリアまでの陸路を走破し、海路でイギリス入り。そこで、ドイツのドレスデンにあるマリー・ヴィグマン舞踏学校入学を勧められ、舞踏経験皆無であるにも関わらず入試合格。ドレスデンのリーベンシュタイン伯爵夫人邸に滞在しながらモダンダンスを学び、同校で学ぶ最初のインド人となる。
学内で振付師ウダイ・シャンカールと知り合い、学校卒業後の1935年にシャンカールからのオファーを受けて彼の一座の日本公演に参加。そのまま世界中の公演で、フランス人ダンサー シムキン共々一座の主演ダンサーを務めていく。1940年にインド帰国して、アルモーラー(*10)のウダイ・シャンカール・インド文化センターで教師兼振付師を務め、そこで様々な要人と知り合う中、学者兼ダンサーのカメシュワール・セーガルと意気投合。センター閉鎖後に2人でラホールにゾーレシュ・ダンス研究所を設立して1942年に結婚(*11)、1945年に姉ウズラ・バットが働くプリトヴィ劇団とIPTA(インド人民演劇協会)に入団して女優活動を開始。舞台演劇と共に映画にも出演するようになり、1946年のIPTA初の映画作品「Dharti Ke Lal(大地の子供達)」に出演、同年のチェータン・アーナンド監督作「下層都市(Neecha Nagar / *12)」では出演の他振付も担当。以降、ボンベイの舞台演劇界・映画界で女優兼ダンサー兼振付師として活躍してインド中を巡業する。1959年の夫の自殺後デリーに移り、新設されたナチャ・アカデミー校長を3年間務めた後、演劇奨学金をもとにロンドン移住。チェルシーにてダンス講師を務める傍ら英国TVドラマ「The Rescue of Pluffles(プラッフルズの救出)」に出演。TVドラマ女優兼司会者として活躍する中、1983年のドキュドラマ映画「The Courtesans of Bombay(ボンベイの娼婦)」に出演してイギリス映画デビュー。その後も断続的に印英両国の映画に出演していた。
2014年、肺炎により南デリーの病院に入院したまま心停止により物故。享年102歳。その訃報に対し、モディ首相はじめ多くの著名人が哀悼の意を表している。
ヒロイン サキーナーの祖母バディ・アンミを演じていたのは、1926年英領インドのパンジャーブ州ジェラム(*13)生まれのベーガム・パラ(生誕名ズベーダー・ウル・ハク)。
父親はパンジャーブ系貴族家系の出で、ビーカーネール藩王国最高裁判所長官兼クリケット選手ミアン・イフサン=ウル=ハク。姉ザリーナー・ハクの孫に女優アムリター・シンが、兄マスルール・ハクと結婚した義姉にベンガル人女優プロティマ・ダースグプタがいる。
アリーガルの学校で学んでいる間、ボンベイの両親を訪ねるたびに義姉プロティマを取り巻く芸能界の様子を見聞きして義姉についてまわるようになり、そのため周りの映画人にその美貌を知られるようになって自然と出演オファーが集まるようになっていたそう。
1944年のヒンディー語映画「Chand」でタイトルロールを演じて知名度を上げ、初めて出演料を獲得。続く45年には義姉プロティマ製作の「Chhamia」にも出演して2つとも大ヒットを飛ばす。以降、ヒンディー語映画界にてグラマー美女役で人気を得て50年代に大活躍する。1958年に男優ナシール・カーンと結婚(*14)。同年公開作「Do Mastane」を最後に女優引退状態に入るが、1974年の夫の死後、76年の「Bairaag」で衣装デザインを担当(*15)。82年の「Tadap」の特別出演などがあった後、本作で女優復帰して大きな話題を呼ぶも、2008年ムンバイの自宅で睡眠中に物故される。享年81歳。
劇中のRKバーのネーミングやロゴマークに見える、主演ランビールの祖父ラージ・カプール監督&&主演の白黒映画を彷彿とさせる照明効果、影や黒の使い方なんかにも、カプール家映画へのリスペクトが潜んでいるような映画でもあるけれど(いらん深読み)、大型新人お披露目ようとしてはあまりにも耽美的かつクラシカルでノーブルな映画世界はため息もの。綺麗な画面が出てくるとそれだけで満足してしまう美術畑なワタスからすれば、それだけで大満足ながら、お話自体は終始メソメソ系。雰囲気的には「クリスマス・キャロル(Scrooge)」の前半の陰鬱な街みたいなイメージも重なってくるように感じられるのも一興といえば一興。そんなイギリス・ミュージカル劇な雰囲気も持ちつつ、恋に自滅していく恋人たちのお話が行くところまで行っちゃうのが、インドだなあ…と言う切なさを加味してくれる。途中まで、サキーナーが待っている結婚相手が実在するのか怪しいところに主人公だけでなくヒロインにも「恋に自滅して行く恋人」像が重ねられているのも刺激的ながら、結局は夫はしっかり実在していた(*16)と判明するからこそ、より主人公ラージの切なさが周囲の青い世界に溶け込んで行くような哀しさも麗しい。
どこまでも美しい箱庭的な映画世界に没入するには、これくらいのベッタベタなお話で彩る方が、その世界の美しさに入り込めるってものでしょか。これだけ徹底的にやってくれるなら、それはそれで「これだけ好き放題美術に振り切って、それでも映画が映画として破綻しないのね!」ってドキドキ感を楽しむのも、映画のあり方としてありなのかもしれなくもなきにしもあらず。うん。
挿入歌 Saawariya (愛する人よ)
受賞歴
2007 HT Cafe´ Film Awards ニューカマー男優賞(ランビール・カプール)
2008 Filmfare Awards 男優デビュー賞(ランビール・カプール)・男性プレイバックシンガー賞(シャーン / Jab Se Tere Naina)
2008 IIFA (International Film Academy) Awards 男優デビュー賞(ランビール・カプール)・男性プレイバックシンガー賞(シャーン / Jab Se Tere Naina)
2008 Producers Guild Film Awards 男性プレイバックシンガー賞(シャーン / Jab Se Tere Naina)
2008 Screen Awards 男優デビュー賞(ランビール・カプール)
2008 Stardust Awards 明日のスーパースター賞(ランビール・カプール & ソーナム・カプール)・驚異的音楽監督賞(モンティ・シャルマー)・驚異的作詞賞(サンディープ・ナス / Yun Shabnami)
2008 Zee Cine Awards 男優デビュー賞(ランビール・カプール)・男性プレイバックシンガー賞(シャーン / Jab Se Tere Naina)
2008 Apsara Film Producers Guild Awards 男優デビュー賞(ランビール・カプール)
2008 Zoom Glam Awards 話題のデビュー男優賞(ランビール・カプール)
2008 Sabsey Favourite Kaun Awards 新人人気男優賞(ランビール・カプール)
「愛しき人」を一言で斬る!
・ランビール君、笑顔が終始硬いよ!(踊りはめっちゃ柔らかいけど)
2026.7.24.
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