インド映画夜話

Samson (2 States) 1964年 137分
主演 ダラ・シン & アミーター & ムムターズ
監督 ナーナバーイ・バット
"愛が罪と言うならば、私はその罪に何度でも手を染めましょう"


挿入歌 Pucho Na Humein Ishq Mein Kya Kya Nazar Aaya (愛の中に見たものを、聞こうとしないで)


 その日、王女に連れて行かれた子山羊を取り戻すため、男子禁制のフスナバード城に乗り込んできた怪力の男サムソンは、そのためにシバ王女の怒りを買う。

 お気に入りの子山羊を取られた上に侮辱されたとして、サムソンの命を狙い彼のいる森に何度も向かう王女は、その間に知らず知らずサムソンとの距離を縮めて恋に落ちている事を侍女ライラに指摘されることに。
 一方でライラもまた、異邦人サールクと密かに恋仲になっていたのだが、国の主神ムカッダスを奉じ国の支配を目論む司祭長ウスタード・ラシードは「恋に狂い無断で城に外国人を入れた」罪としてライラを捕縛し、彼に反論できない王女の承認のもとライラの処刑を決定する…!!


挿入歌 Ham ToKharab Hue Sanam Teri Matwaali Aankhon Se (貴方の目を見た時から、私たちは愛に狂ったのよ)


 タイトルから、旧約聖書に登場する古代イスラエルの英雄サムソンの伝説の映画化…と思ってワックワクで見てみたら、聖書とはなんも関係ない、架空の中世の国を舞台にしたおとぎ話風ヒンディー語(*1)時代劇でありました。どっとはらい。

 レスリングとプロレスのチャンピオン ダラ・シンを主役に迎えての、怪力自慢の勇者を描く無国籍風時代劇アクション、と言った感じの一本。
 出だしのオープニングクレジットなんかは、「ベン・ハー(Ben-Hur)」とか「十戒(The Ten Commandments)」みたいな往年のハリウッド史劇大作っぽい雰囲気で始まるので「おお!」と前のめりになるんだけど、物語は男子禁制のお城(*2)と主人公が生活する森を主な舞台としている小規模な展開で、「サムソンとデリラ」と言うよりは「ロビンフッド」的な牧歌的な映画でございました。
 権力者が王女と司祭長しかいないとか、城下町があるらしいのに一切登場しないでお城と森ばっかりが舞台になるとか、セットやアクションがちゃちいとか色々気にはなるけれど、「インドで無国籍(低予算)時代劇を作るとこうなるのね」って感じは見えてくる、印欧ミックスなファンタジー活劇。

 主役サムソン(*3)を演じたダラ・シン(・ランダワー。生誕名ディーダル・シン・ランダワー)は、1928年英領インドのパンジャーブ州アムリトサル県ダルムチャク村のシーク教徒の農家生まれ。
 弟に、やはりレスラー兼男優のランダワーがいる。
 47年からシンガポールのドラム製造工場に勤めつつ、その巨躯を注目されてレスリングを始めて数々の世界大会優勝などの成績を収め、プロレスでも大活躍。
 52年のヒンディー語映画「Sangdil(やさしい人)」でスタントマンとして映画界入り。62年の「King Kong(キング・コング / ヒンディー語版)」で主演デビューとなり、B級映画界のスターと称される活躍を見せる。70年のパンジャーブ語映画「Nanak Dukhiya Sub Sansar」では主演とともに映画監督&脚本&プロデューサーデビュー。78年には自身の映画プロダクション"ダラ・スタジオ"を設立させ、80年代に入るとTVドラマへの出演も増えていき、83年にレスラー引退を発表。98年からはインド人民党に参加して政界でも活躍する。96年にはレスリング・オブザーバー・ニュースレター殿堂入りとなった。
 2012年に心臓発作での入院ののち、退院の翌日に自宅で物故される。享年83歳。死後の2018年には、WWEのレガシークラス殿堂入りとなった。

 ヒロイン シバ王女(*4)を演じるのは、ダラ・シンとも共演の多かった女優ムムターズ(・アスカーリー。結婚後はマドゥヴァーニー姓)。1947年英領インドのボンベイ州ボンベイ(*5)のイラン系ドライフルーツ商の家生まれ。
 妹に、女優マリッカー・アスカーリーがいる(*6)。
 58年のヒンディー語映画「Sone Ki Chidiya」に子役出演して映画デビューし、63年の「Faulad」で主演デビューを果たす。長年スタント映画のヒロイン役をこなして"スタント・プリンセス"と呼ばれていく中で、68年の「Brahmachari」でBFJA(ベンガル映画報道協会)ヒンディー語映画助演女優賞を獲得。翌69年の「Do Raaste(2つの道)」の大ヒットでトップスターの仲間入りとなり、出演作の幅を大きく広げるようになる。数々のスター男優との関係を噂されながら、74年に実業家と結婚。76年の「Nagin(蛇女)」で「最後の映画出演作」とクレジットされるも、そうはならずに翌77年の「Aaina(鏡)」をもって女優引退。その後、90年の「Aandhiyan(嵐)」や10年の再現ドキュメンタリー「1 a Minute」で一時的に女優復帰している。
 97年には、フィルムフェア生涯功労賞が、08年にはIIFA(国際インド映画協会賞)からも映画貢献功労賞が贈られている。

 クレジット的にはムムターズより前に来ている、セカンドヒロイン ライラを演じるアミーター(生誕名クァマル・スルターナー) は、1940年英領インド ベンガル州カルカッタ(*7)の芸人家庭生まれ。
 女優シャクンタラー・デヴィを母にもち、姉(妹?)にパキスタンで活躍する女優アスラム・パルヴェーズがいる。
 大女優マドゥバーラーに憧れて映画界の門を叩き、"ジャジャワティー"名義で「Thokar」に端役出演したのち、54年のヒンディー語映画「Shri Chaitanya Mahaprabhu」で"アミーター"名義で主役級デビュー。57年の主演作「Tumsa Nahin Dekha(誰も貴方のようには見えない)」で、プロデューサーの猛烈なプッシュを受けて共演のシャンミ・カプールとともに注目されるも、以降は共演者の方が人気を得るばかりでスターダムに登ることができず、68年の「Haseena Maan Jayegi(美女は頷く)」をもって一旦女優引退。以降、71年の「Kabhi Dhoop Kabhi Chhaon」始め単発的に映画出演しているよう。

 現役レスラーを主役に迎えての映画だからなのか、主人公サムソンは終始ローマの剣闘士風なスタイルで、これ見よがしに腕力にモノを言わせて力押ししてくる所なんかは「バーフバリ」に通じるヒーロースタイルと見ていいのやらどうなのやら。今と比べると、そのマッチョ具合はわりと自然なゆるい体型に見えんでもないけれど。
 2人のヒロインの美女度というか可愛さ度もハンパないけど、デビュー間もないムムターズのツンデレ王女の似合いすぎな所と、その先輩女優として愛に殉教する侍女の活躍をこれでもかと盛り上げ啖呵をきるアミーターのオーラもスンバラし。早速他の出演作もチェックしたくなってくるってもんですよ。

 あとは、ほんの数分の登場とは言え、インド映画に怪獣(巨大トカゲ)が出てくるのを「おお! 神様特撮映画以外で、こういうの初めて見た!!」ってところも注目したい…けど、やっぱ特撮怪獣ものってのはこう言うB級映画でないと出てこないんですかねえ…。
 巨大トカゲに、フリッツ・ラングの「ニーベルンゲン ジークフリート(Die Nibelungen: Siegfried)」に出て来た特撮ドラゴンのオマージュ的なものを見てもいいのかもしれないけど、関節は一切動かないし、目が光って鼻息の蒸気が出るくらいで、顔を握りつぶされて形が歪むくらいの人形だったのがなあ…ムゥ。



挿入歌 Khuda Kare O Janeman Ki Tu Kali Gulab Ki (愛しい人よ、神の為さるように花を咲かせ、庭の香り高い薔薇におなりなさい)





「Samson」を一言で斬る!
・場面によって、ムムターズ演じるシバ女王の髪が黒色だったり茶髪だったりするのは、撮影スケジュールのせい…?

2024.1.12.

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*1 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。フィジーの公用語の1つでもある。
*2 と言いつつ、門番と地下には男の兵隊がいっぱい。
*3 聞き様によってはサムスンとも聞こえる?
*4 聞き様によってはシィバとも聞こえる?
*5 現マハラーシュトラ州都ムンバイ。
*6 この人は、後にダラ・シンの弟ランダワーと結婚している!
*7 現 西ベンガル州都コルカタ。