インド映画夜話

セードゥ (Sethu...) 1999年 131分
主演 ヴィクラム & アビター
監督/脚本/台詞/原案 バーラ
"一番幸せだったのは君に出会った時と、君を愛し始めた時"
"そして、一番不幸な時は…今日この時"


挿入歌 Gaana Karunkuyile (カッコウよ、なにか歌ってくれない?)

*出だしだけは、こんなに明るい(風な)雰囲気なのにねえ…。


 大学生セードゥ(通称チーヤン)は、粗野で威嚇的な乱暴者として周辺では有名で、家では兄と毎日衝突する問題児。

 生徒会議長に選出されながらも彼は、今日も今日とて仲間達とつるんで後輩いびりの最中。そんな中、セードゥは貧しい寺院司祭の娘アビター・クジャランバルと知り合う。
 その日から、彼女に一目惚れしたセードゥは彼女の世話を焼いたりちょっかいをかけたりし続けていって、一方的にアビターに告白して無理矢理「YES」という言葉を言わせることに成功するものの、彼女の方はそんな気は一切ない。そんな中、夫の差し金で売春業者に売られそうだったアビターの姉を見つけて助け出したセードゥだったが、業者たちを叩きのめす暴力的なセードゥの姿を見たアビターはより彼を拒否し続けていく事になり、力任せな方法しか知らないセードゥーはついに…!!


挿入歌 Saranam Bhava


 バーラ監督の衝撃的な映画監督デビューとなる、タミル語(*1)映画。

 新人監督作に無名俳優(当時)主演ということで当初は公開予定がなかなか立たず、ひっそりと単館上映で始まりながらもその口コミ人気によってロングラン大ヒットを飛ばした1本。
 01年にはカンナダ語(*2)リメイク作「Huchcha(精神)」が、02年にはテルグ語(*3)リメイク作「Seshu」が、03年にはヒンディー語(*4)リメイク作「Tere Naam(君の名は)」が、11年にはバングラデシュでリメイク作「Tor Karone Beche Achi」がそれぞれ公開されている。
 日本では、2019年〜2020年に各地で開催されたインド映画同好会主催のインド大映画祭にて「セードゥ」のタイトルで上映されている。

 まさにインドの…というかタミルの生活文化に根ざした物語文化の深淵を覗くかのような衝撃的悲恋劇。
 それでも中盤までは、他者とのコミュニケーションが苦手な若者の不器用すぎる恋愛の顛末、と無理矢理納得して見れないことはないけれど、後半から始まる、怒涛の悲劇に見舞われその身を破滅させていく登場人物たちの抱える苦悩・悲惨さの沈み続けっぷりはもう…。なんというか、「恋」というものを認識できないまま感情のうねりに翻弄されていく、より悪い方向へ突出してしまったフランケンシュタインの怪物の恋愛譚って感じ。

 あいかわらず、大学生にしてはゴツすぎに見える男子学生たちに囲まれてより強面な表情を見せるヴィクラム(公開当時33才!!)の、なんでそんなに男子学生たちに人気なんだろ? な仏頂面演技も初っ端から不穏も不穏。
 その、周りの空気を読まず(読めず?)に世間の習慣に抗う不器用さが「イタタタ…」とツッコミたくなるほどの不器用な愛情表現になってしまうのはまだいいとして、その情動に動かされた結果としてのこれでもかの精神衰弱・身体的ダメージを負ったその演技の迫力たるや、まさに鬼気迫るもの。本作以降、次々とトンデモレベルの演技力を要求される役柄を率先して受けていく俳優ヴィクラムの、その演技力を開花させたという1点だけでも超必見の映画でありましょうか。

 主人公を狂わし、自身もまたその愛のあり方に自滅していくヒロインを演じたのは、映画とTV双方で活躍する女優アビター(生誕名ジェニラ)。
 10代の頃、TVドラマ撮影を見学してた時にその監督の目にとまって、97年のTVドラマ「Criminal」に本名(?)で出演。同年のタミル語映画「Ettupatti Rasa(8つの村の王)」で映画デビューし、99年には「Devadasi」でマラヤーラム語(*5)映画&主演デビュー。同年公開作の本作から、バーラ監督の勧めで本作のヒロイン名"アビター"を芸名にする。
 本作の大ヒット以降、数々のオファーが集まるものの、一旦は学業を優先して社会学を修了。学業と並行して細々とながらタミル語映画&TV界に出演していて、大学卒業後は主にTVドラマで活躍している。

 まあ、一方的に一目惚れして「俺のいうことを聞け!」と迫るは、聞く耳を持ってくれなければ誘拐して廃屋に閉じ込めようとするわな主人公のイカレっぷりは、全くもって同情の余地なしな「なんじゃこいつ?」な暴走っぷりなんだけど、そうした自己中な情動でしか自身の感情を表現できない主人公が、その情動に突き動かされていった結果として精神崩壊を起こし、売春業者たちに痛めつけられ、事情を察したヒロインが見せた初めての愛(なのか同情なのか…?)すら認識できないまま別れていく、「運命としての愛」「神に捧げられた愛」が「愚かなる人としての情動」のために崩壊していくアンビバレンツは、シェイクスピアもかくやな人という存在の虚しさ・儚さ・どうしようもなさを見せつけ…るかなあどうかなあ。
 まあ、この映画の衝撃度を跳ね上げているのは、主人公の崩壊具合もそうだけど、その主人公が全然共感できない自己中っぷりを発揮する「若さの暴走」と「間違った素直さ」を存分に見せつけることでしょうか。アメリカン・ニューシネマもかくやな、世間の常識に抗う青年の、清濁全てが狂い出す姿の焼け野原っぷりが、印象的かつ凄まじい。これを予算もそんなに準備できない監督デビュー作で世に放ったバーラ監督の恐ろしさよ…!!(*6)

挿入歌 Sikaadha Sitrondru (可愛いスズメを捕まえりゃ [歌が綺麗に流れ出す])


受賞歴
1999 Tamil Nadu State Film Awards 監督賞・男優特別賞(ヴィクラム)
1999 Cinema Express Awards タミル語映画作品賞
2000 Filmfare Awards タミル語映画監督賞・タミル語映画批評家選出特別賞(ヴィクラム)・タミル語映画作品賞
2000 National Film Awards 主演女優賞(アビター)・主演男優賞(ヴィクラム)


「セードゥ」を一言で斬る!
・自分の名前の意味も、愛の告白も、診察の詳細説明も、とにかく例え話の連続でより内容がわかりにくい語り口になってやしませんかね…?

2021.1.16.

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*1 南インド タミル・ナードゥ州の公用語。
*2 南インド カルナータカ州の公用語。
*3 南インド アーンドラ・プラデーシュ州とテランガーナー州の公用語。
*4 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。
*5 南インド ケーララ州の公用語。
*6 その後の監督作も軒並み本作以上に焼け野原みたいですけど…。